第十三話 恋バナ1
俺の部屋
「莉奈、布団を敷くのを手伝ってくれ」
「もちろんですよ、居候の身ですし」
「居候って一日だけだろ」
莉奈は布団を敷いていく。俺は未だにあの莉奈の裸を忘れることができていない。むしろ今も莉奈を見ていると意識してしまう。こんなことを思っているのは変態だが、仕方なくないかと思う。……あいつが裸を見せてくるせいだし。
「こうでいいですか?」
莉奈は布団を敷き、少しだけ不安な顔でそう聞く。
「ああ、それでいいはずだ」
「良かったです」
考えたらだめだ、考えたらだめだ。今の莉奈のパジャマの下にあの美しい裸があるなんて考えたらだめなんだ。
「てか、おい莉奈隣だぞそこ」
今気づいた。莉奈が隣に寝ようとしているのだ。今の俺の状態で莉奈の隣で寝て平常心で寝れるわけがない。
「え? いいじゃないですか」
「異性だしダメだろ」
それともう一つ今思ったのだが、莉奈の隣だと襲われる可能性もある。お風呂に平然と入ってきた女だ、布団に乱入する可能性も十分にある。いや、もうそうとしか思えなくなってしまう。莉奈が俺の布団に侵入するために隣の布団で寝たいと思っているとしか思えない。
どうしようか、このままだと俺は興奮と不安で寝れないだろう。考える必要がある、莉奈と離れて寝る方法を。
「優斗くんはまだ理解してないようですね、カップルというものを」
「カップルってそんなことじゃないだろ」
俺が離れて寝る方法を考える前に、莉奈のカップルだからという謎理論が始まってしまった。俺としてはカップルだから逆に怖いという点もある。莉奈の場合カップルということを隠れ蓑にして布団に侵入する可能性が高い。
「それに何かあるかもしれないだろ、隣で寝られたらさ」
「なんかってなんですか?」
「寝相とか、なんかの間違いで手を出したりとかさ」
莉奈なら絶対手を出すと断言できる。この二日間莉奈の行動を間近で見てきた俺にはわかる。それに俺も手を出してしまう可能性があるしな。
まあ俺が手を出しても莉奈が先に変態的行為をしたから許される可能性がある、というか許されるだろう。
「私は別にいいですよ、胸を揉んでもらっても」
「なんでだよ」
そうだった、こいつそういう性的なことは平気なんだった。本当に胸を揉んでもいいとか言われても困るんだが。なにしろ莉奈は変態でも俺は変態じゃないんだ。
しかし、そういう好奇心がないわけでもないのが困る、俺だってもめるんならもんでみたいという気持ちもある。しかし、そんなことをしたら俺は莉奈をまともな目で見れなくなってしまうかもしれないし、そもそも知り合いの、いや、莉奈の胸をもみたいわけではない。
「まあ布団敷き終わりましたし、寝ましょうか」
「いや、あの話はどうなった?」
「いや別にいいでしょう、もし隣に寝なかったらまた百合子さん呼びますよ」
「それは勘弁してくれ」
俺は観念して布団の上にごろかる。俺は隣で寝なければならないらしい。まじで困ったときの百合子さんはもうやめてくれ、うちの家族は本当に俺たちをラブコメ展開にさせたいらしいからな。
「まあそれは置いといて、一緒に寝れるとは思ってませんでした」
「まあそれは俺もだな」
まあ隣には怖くてあんまり寝たくはないけどな。
「とはいえもう夜も遅いですよね」
「ああそうだな、眠いわ」
「もう少しお話ししたいところですけどね。そうだ! こういう時の定番ってコイバナですよね」
「俺たちが恋バナしてどうすんだよ」
恋バナってカップルでしてどうするんだよ。アイラブユーって言いあうのか。
「じゃあ付き合う前の話で、優斗くんは小中で好きなことかはいましたか?」
そう来たか。
「いたよ、小二の時かな? 隣の席の女の子に恋をしたんだ。彼女はとてもかわいかったし、クラスのまとめ役であり、面倒見もよかった。彼女は人付き合いの悪かった俺によく声をかけてくれていたんだ。優斗くん私たちと一緒に遊ばない? だとか もっと人とかかわったら? だとか様々なことを俺に言ってくれた。
俺は気が付けばその子のことを好きになっていたんだ。最後のほうは彼女にかまってほしいからダメなやつを演じていたかもしれない。ただ言えることは彼女のことは本当に好きだった。俺が思うに彼女もこんなに俺にかまってくれてたってことは俺に関心が、いや恋心的なものがあったかもしれない。まあ希望的観測だけどな。
本当に彼女はかわいかった、今でも黒髪のおかっぱ頭を思い出すよ。だが残念なことに最終的に彼女は小三の時に、別の遠いの町に引っ越しちゃって、その時には連絡先を交換するなんて頭はなかったし、会う方法がなくなったさいか、そのあと会うことはなかったな。だがまた会いたいな。それで今の近況を話し合いたいな」
「そんなことを言われたらその人のことを妬ましく思ってしまいます」
「安心しろ、今はどうも思ってないから」
流石に会ってない期間が長すぎたからなあ。
「ふーん、本当ですか?」
「本当だよ」
「本当にですか?」
「何回確認するんだよ、俺のことを信用できないのか」
「念のためですよ、優斗くんが信用できないんじゃなくて、私が優斗くんを手放したくないからです」
「そうかじゃあ今度は莉奈の話を聞かせろよ」
俺だけ話すのは不公平だ。俺は過去の話を話したのだ、お前も話してくれ!
「私ですか?」
「ああ、小中まで恋したことあるの?」
「ないです、私が恋したことあるわけないでしょ」
お前がそんなこと言っても説得力ないと思うんだけど。
「本当にないのか?」
友達いないとは言っていたけど、こんなガチ恋するようなやつが?
「今までの学校での私見てましたか?」
「いや、それはそうだけどよ、お前の行動力があるのなら、今までに恋愛とか経験してたんじゃないのか?」
しばらく返事が返ってこない、答えられない質問ではないと思うんだが。
「私優斗くんに一年半告白できなかったんですよ、行動力あるわけがないじゃねえか」
三十秒後に返事が来た。妙だな、三十秒間考えた末の答えとは思えない。
「なんでそんなに考え込んでいたんだ?」
「いや、なんであんなに告白できなかったんだろうって思って」
「俺の風呂には普通に入れたのにな」
「それとこれは違うじゃないですか」
そう言って莉奈は怒る。
「悪かったって、でも俺としたらなんで告白できなかったのかなぞでしかなかったんだ」
「私にとっても謎ですよ」
莉奈は少しだけ落ち込むそぶりを見せる。まるで今何か悪いことをしているかのように。これはあくまでも俺の予想ではあるが、莉奈にとっては告白できなかったのは謎ではないのだろう。
莉奈には告白できなかった理由がある、それは友達がいなかった理由と同じかもしれない。だがそれを俺莉奈に聞くわけにはいかない。莉奈の秘密は気になるところだが、莉奈にとって隠したいことを暴くのは得策ではない。それに俺の考えすぎかもしれないし。
「じゃあなんで好きになったか教えてくれ」
俺は話を元に戻す。聞かせてくれよ、莉奈のコイバナを。
「それは言ったじゃないですか、私何回でも復唱できますし、新たに付け加えることもできますよ」
「そういう意味じゃなくて、一目ぼれした理由だよ」
「ああ、そういうことですか」
「ああ、話してくれ」




