第133話 デュエット
「前川君、そろそろ前川君の番だよ」
そう理央が言う。
その周りではみんなが盛り上がっている。
「優斗」寛人が耳打ちする。
「イチャイチャしてたのか?」
「……いう必要あるのか?」
「ああ、ずるいぜ」
そして、俺はマイクを取る。
莉奈が真っすぐ俺に向かってみている。
俺はこの場のみんなのために歌うのではない。莉奈のために歌いたいのだ。
そして、俺は歌い始めた。
勿論俺は歌が上手いわけでは無い。
ただ、莉奈にさえ届けば十分だ。
とはいえだ、先ほど彼女である莉奈が見事な歌唱を披露したというのに、その彼氏がいまいちな歌唱力だったらがっかりされるかもしれない。
が、それはもう関係ない。まさかこのクラスにそんな腹黒な奴はいないと思うし、何より、楽しんだもの勝ちだ。
俺は全力で歌う。
気持ちを込めて。
歌う曲は、俺の好きな曲で知名度がありそうな曲を選んだ。
そしてついに歌い終わった。
「優斗君!!」
歌い終わるや否や、すぐに莉奈が俺に抱き着いてきた。
「やっぱり優斗君の歌は最高です」
「莉奈抱き着くのはいいが」
いや、良くはないけど。
「この状況恥ずかしい」
俺はそう告げた。皆の注目を集めている。
教室でも恥ずかしいのに、こんなカラオケボックスの仲となればなおさらだ。
何より寛人と彰人が笑ってるし。
それが何より恥ずかしい。
「バカップルって思われるな」
「事実じゃないですか」
「まあ、そうだけどよ」
「あの子がいないから私が言うけど、反乱置きそうだから、あまりそう言う事やったらだめだよ」
理央から注意を受けた。
てか、反乱が起きそうだからって。
別に俺たちは君主なんかじゃないんだけどな。
カーストという側面で言えば低い方だと思うし。
「私もまた彼氏作ろうかな」
そして理央がそう呟いた。すると、寛人が少し反応を見せた。
それを見た瞬間。少しだけ、微笑ましい気持ちになった。
しかし、寛人と理央。
彰人と、瑞樹ちゃんか。
くっつけなきゃいけない人多すぎないか?
なんで俺の周りにはこうも、恋愛関係の悩みを持つ人が多いんだよ。
莉奈みたいにぐいぐい行けよ。そう思わずにはいられない。
そして俺は寛人を連れて外へと出た。
彰人とも話したいことはあるが、まずは寛人だ。
莉奈も着いてきたがっていたが、そこは止めておいた。
男同士の話し合いだと言って。
「そう言えば寛人、理央さんとはどこまで進んでいるんだ?」
最初の気になる反応。
文化祭の間。まさに俺と莉奈が回ったその時に少し進展があったのではないか。
「少しだけな。少しだけ二人きりになった時間があったんだよ。ただ、それだけだ」
「あまり、話してはないのか?」
「ああ、そうだな。あまりそこまで話してはいない。とはいえ全くではなく少しだけは話したけどな」
「ふーん」
「それで、可愛いなと持った。今日、俺が理央のことを意識してるのもそれだ」
「なるほど……」
やはり少し接点があったんだな。
「俺もお前みたいに、机の中に手紙が入ってたらいいんだけどよ」
「悪いけど、そうそうないと思うぞ」
ここは創作の世界の中の出来事じゃない。
そんな奇跡が起きることはそうそうない。
莉奈のような子が沢山いたら別だが。
「そりゃな。俺は地道に頑張るわ。あ、でも機会があったら手助けしてもらってもいいか?」
「それはいいけど、ライバルも多いぞ」
実際に理央の事を好きな人は多いだろう。
実際、人当たりはいいし、顔も整っている。
所謂優良物件というやつだ。
「分かってる」
そう寛人は言った。
そして俺たちはカラオケボックスに戻った。
そして俺が今まで理央の隣に座っていたが、寛人がしれっとその席に座った。
あ、寛人距離を縮めめるつもりだ。俺はそう思った。
さて、俺は雪花のように、寛人の恋愛の行く道をじっくりと見守ることにするか、
「なあ、理央さん」
寛人が話しかける。理央にだ。
「どうしたの?」
理央はそう言って首をかしげる。
「ちょっとデュエットしないか? 俺気になる曲があるんだ。でも、二人でしか歌えないんだ」
なるほど、確かに名案だ。
何しろ、莉奈に頼めるわけがない願いなのだから。
莉奈はデュエット、を俺以外とするとは思えないのだ。
恐らくデュエットを俺意外と歌う必要があれば死を選ぶだろう。莉奈とはそう言う女なのだ。
「いいよーうたおっか」
理央は気軽にオッケーした。
これ、もしかしたら寛人の恋愛感情に気が付いていない可能性があるな。
そして二人は曲を入れた、
「私たちも、二人で歌いましょう」
莉奈が俺に言う。寛人のデュエットというワードに惹かれたようだ。
「ああ、歌うか」
俺はそう言った。その直後莉奈が曲を入れ出す。
「俺が歌える奴にしろよ」
「分かってますって!!」
そして三十分経った。
ついに、俺たちの番、ではなく、寛人の番が来た。
正確には寛人と、理央の番だという事だ。
寛人が緊張しているかのような面もちな一方、理央は普通に平然としている。
理央からしたら、ただ頼まれただけ。そう言う事なのだろうか。
元々彼女は男女問わず仲良くしているみたいだったからな。
そして二人は歌いだす。
ただ、感覚的に少しだけかみ合っていない感じはするが、それは初見での合わせなのだから仕方ないだろう。
二人が選んだ曲は有名なアニメの主題歌。
某週刊雑誌の漫画のオープニング曲であり、世間的な知名度もある曲だ。
それを歌っている二人はすごく熱心に歌っている。
なんだか、段々と息があって来たかのように思える。
特徴的なハモリを、理央が歌い、メロディーを寛人が歌う。
それを見て、莉奈が少し機嫌悪くなってるような感じがした。
大丈夫だろと思うけどな。
俺達ならもっと合わせられると思うし。
何しろ次歌う歌は、ひそかに俺と莉奈で何度かカラオケで歌ったことのある曲だからだ。
元々俺が好きな曲だったが、莉奈もドハマりして二人で歌うことになったんだっけ。
それを歌えば、少なくとも全然二人のリズムが合わないなんてことは無いだろう。
と、そんなことを考えているうちに、二人の歌は終わりを迎えた。
理央が軽く息を吐く。
そして理央は寛人との報を向いて、「楽しかったね」と言った。
火rとはそれに対して「お、おう」という。
なんだか照れているみたいだった。
だけど、やっぱり理央には寛人に対して恋愛感情を抱いて居るそぶりは見せていない。
寛人による一方通行の想いなのだろうか。
と、そんな他人の事を考えている場合じゃなかった。
そろそろ俺たちの番だ。
俺は莉奈の肩をトントンと叩く。
「なんですか?」
「かましてやろうぜ」
俺は莉奈に聞こえる程度の声量でそう言った。
さあ、俺たちの歌唱を見せつけようぜ。と。
そして俺たちの歌が始まる。
俺たちのまさに十八番ともいえる歌だ。
莉奈と二人、自己満足のために歌ってきたが、案外早くに多人数の前で披露することが出来る。
少し緊張はする。
俺がそこまでうまくないという事もある。
だけど、ワクワクの方が勝っている。
そして俺たちは歌いだした。
歌い始めた瞬間、莉奈と息がぴったりな感じがして、正直嬉しかった。
なんというか、心の底から楽しいなと思う。
周りに観衆たちがいるなんて思えない。
俺と莉奈はまさに、二人だけ時の泊まった空間にいるかのような感じがした。
周りなんて関係が無い。
俺たち二人で楽しめばいい。
莉奈と顔を合わせながら熱唱する。
なんて楽しいんだ。
「ふう」
「疲れました」
歌から解放され、二人で椅子に座った。
「お疲れ様」
理央がそう言って、俺たちを出迎える。
「すごかったな」
そう言ったのは彰人だ。
「二人とも良きぴったりだったぜ」
「私達とどっちの方が良かったー?」
そう、理央が訊く。
彰人にだ。
彰人は「えっと」と言葉が詰まった様子を見せている。
これ、どちらを答えても正解じゃないやつじゃないか。
「まあでも、私たちの方が上手かったですよね」
莉奈が彰人に対してそう言って迫る。
彰人は更に答えにくそうになったようで、口ごもる。
そして観念したかのように、「ユウトトリナサンノホウガウマカッタトオモウ」と、片言?で返事をした。
まあ、ギャグに振り切ってしまったらもはや寛人と、理央も怒れないようで、笑い話で収まった。




