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クラスの女子と関わったことの無い俺の机の中に手紙が入っていたのですが  作者: 有原優


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第131話 打ち上げカラオケ

 早速翌週の土曜日。お疲れ様会兼打ち上げ会となった。

 今日は焼肉食べ放題と、カラオケに行く予定だ。

 まずは皆でカラオケだ。


「今日はついに私の歌のうまさがばれますね」


 会場までの道で、莉奈がそう言った。


「そうだな。お前の独壇場になるだろうな」


 莉奈よりも歌が上手い人が現れない限り、今日の主役は莉奈になるだろう。

 そうなると、彼氏である俺のとって誇らしい事であると同時に莉奈の歌がみんなに知られるという悲しさもある。

 独占欲ではないが、莉奈の歌のうまさを知っているのは俺だけであってほしい。



「まあでも、俺も楽しませてもらうか」


 莉奈のおかげで、俺もだいぶ歌が上手くなった。その実力を今日俺は発揮できるという事だ。


「それにしても気になることがあるんだが」


 隣に立つ、寛人が言う。


「理央さんは歌が上手いのだろうか」

「ん?」


 そう言えば、寛人は微かに、理央のことが気になっていたな。すっかり忘れていた。


「特に知らないな」

「そうか。まあでも、松崎さんの歌が楽しみだな」

「そうですか? 私の歌を楽しみにしてくれているなんて。……優斗君、どうしましょう」

「どうしましょうとは?」

「今日英雄になれちゃいます」

「おう、がんがん英雄になってこい」

「俺もうまいぜ」



 そこに割り込んできたのは、彰人だ。


「確かにお前は上手いな」

「二人でカラオケ行ったことがあるのか?」

「ああ、優斗、お前が松崎さんとの連日のデートで忙しそうにしている時だ」


 そう言えば、一回だけお誘いがあった気がする。その時は、莉奈とデート買い物中だったから、行けないと言ったが。

 あれは、カラオケのお誘いだったのか。


「それはすみません。私が優斗君を占有しちゃって」


 そう言って俺の手をぐっとつかむ莉奈。

 周りに見せつけているのであろう。


「お前、ちょっとうらやましいな」


 彰人が言った。

 少しだけ、お前を好きな人がいるんだぞと言いたくなった。


 そして、カラオケ会場に着いた。

 とはいえ、参加者は三十人いて、流石に一部屋に入りきらないので、三部屋に入ることになった。

 それで、一定時間ごとに、半数ずつ入れ替えていく感じだ。


「大村さんいないな」


 そう、俺はにやけながら寛人に言う。


「でも、いつか会えるだろ」

「それはそうだが」

「それに私がいるから大丈夫ですよ。私の熱唱を聞けるんですから」


 そう、どや顔で言う莉奈。

 ちなみに今は彰人もいない。別の部屋にいるのだ。



「言っとくけど、それ聞こえてるぞ」


 周りの人にだ。

 自分で自分のハードルを上げてしまっている気が。


「大丈夫ですよ、私は上手いですから」


 あれ、これ俺が莉奈を絶賛しすぎたせいか?

 まあ、実際莉奈は上手かったしな。

 無いとは思うが、莉奈よりもうまい人がいたらどうしようか。

 その時は莉奈を慰めるしかない。


「それよりも、優斗君ですよ。私が楽しみなのは」

「俺?」

「だって、優斗君の歌素敵ですし」

「それは、違うだろ」


 それはあくまで莉奈にとっての話だ。

 莉奈が教えてくれたことで、だいぶうまくなっているとは思うが、一般レベルから見たらまだまだだ。


「俺が思うに、今日一番注目の的になるのは、莉奈だからな」


 莉奈が今日の英雄(予定)だ。

 そしてそんな話をしている間に、一人目の人が歌を歌い始めた。


 普段聞かない人の歌を聞くのはいいな。しかもこれは最近話題のドラマの主題歌だ。

 乗って行こう!!


 皆が手拍子をしているのを見て、俺も手拍子をする。それに合わせて寛人と莉奈も手拍子をし始めた。



 そんな中、一人の女子が、俺に、いや俺たちに話しかけてきた。


「ねえ、二人本当に仲いいよね」


 そう言ってきたのは、眼鏡をかけたショートカット女子、三宅雪花さんだ。


「ああ、そうだな」


 正直なんて返せばいいのか分からないかった俺は、そう返事した。


「どうやって仲良くなったの?」

「シンプルに、告白されたからだな」

「そうなんだ……」


 そう言ってかるく雪花は頷き、


「なんかもう、二人急に仲良くなってたから、見てて楽しかったんだ」

「楽しかった?」

「うん。だって、カップルのイチャイチャを見るほど楽しいものはないから」


 そう言い放った雪花はなんだか楽しそうだった。


「まあ、あたしも場をわきまえてるから、あまり話しかけないようにって思ってたけど、こういう場だったらいいかなって」

「場をわきまえてたのか?」

「うん。脱手に中に入るわけにいかないでしょ。百合の間に割る男が嫌われるのと同じだよ」


 百合の中に入る男。よく話を聞くやつだ。

 女同士の友情の中に入ってくる男ほどクソなことは無いと。


「あ、次アタシの番だ」


 雪花が言う。そして、マイクを手に取った。


「アタシの歌聞いててくれる」

「あ、はい、、分かりました」


 莉奈はおどおどとそう言う。

 確かに、見た目とは裏腹にぐいぐいと来て、少し怖かった。


(上手いな)


 思ったよりも歌が上手い。

 莉奈には負けると思うが、中々の歌唱力だ。

 そして彼女が選んだ曲は、アニソンだ。


 しかもかなり、マイナー寄りの。

 恐らくだけど、この曲は三年前に放送されたアニメ番組の主題歌だろう。それも、不評を喫した作品だ。


 ふつうこんな曲ほとんど誰も知らない。というか俺も、カラオケ映像を見なければ分からなかっただろう。

 だそんな曲が流れたら、みんな見向きもせずスマホを触るだろう。だが、多くの人がしっかりと曲を聞いている。

 真剣に。

 それはつまり、雪花さんが、人を魅了する歌声を持っている間違いない証左になるだろう。


 ん、なんだか視線を感じる。

 見ると、莉奈が俺の方をじっと見ている。


「ああ、莉奈怒ってる」


 それもそうだ。莉奈からしたら、自分以外の女子の歌に夢中になって聞いているなんて許せないだろう。


「大丈夫だよ。莉奈の歌が一番うまいから」

「そう言う事じゃないですよ」


 そう莉奈が静かに言う。何か対応を間違えたか?


「ただシンプルに、早く話私の番が来てほしいだけです」


 そう言って莉奈は目の前の烏龍茶をグイっと飲む。


「ああ、楽しみにしてるぞ」


 そして彼女の歌唱が終わった。

 そして俺の隣に座り、


「アタシの歌どうだった?」と言った。

 これ、もしかしなくとも、どう返答するのが正解なのだろうか。

 もしここで俺が素晴らしかったと言ったら、莉奈はいい気がしないだろう。

 かといって、その逆もあまり言うべきではない。となれば、


「まあ、よかったと思うぞ」


 控えめの賞賛だ。


「優斗君、優斗君」


 莉奈が耳打ちしてきた。俺の言った言葉が気に入らなかったのか?


「私の時はもっといい誉め言葉をお願いしますよ」


 その莉奈のささやきは可愛らしものだった。


 その声に少しドキッとしたが、直ぐに平常心を取り戻し、「あ、ああ」と俺は言った。

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