第104話 ジェットコースター
そして遊園地に連れて行かれたあと、早速莉奈に連れられて、ジェットコースターに向かう。
やはり行きたくない。必死に逆方向に逃げる。
だが、必死に抵抗するも、莉奈の握力に勝てない。莉奈の力が強すぎて、引っ張られてしまっているのだ。
「優斗くん、いい加減諦めてください、私達はこれに乗る運命なんです!」
しつこすぎたのか、そう言われてしまった。しつこいと言われても俺にとっては生きるかどうかの死活問題なんだが。
だが、再び抵抗しようとすると、「優斗くん?」と、怖い顔をされた。これ以上抵抗すると、どうなるか分からない。
結局ジェットコースターの列に並ぶことになった。しかも、結構人が並んでる。まさに死刑台への行列だ。すぐに順番が来ないことに対して安心するとともに、この緊張が延々と続くのかという絶望感が来た。
帰りたい。宿に行きたい。
「遊園地デートなんてまさにカップルっぽいですね」
そんな俺に対して莉奈が話しかける。
「カップルだろ。しかも片方は嫌がってるから、カップルっぽくはないし」
実際、逃走防止のために莉奈が俺の手をギュッと強く握っている。
「ならなんですか?」
「姉に連れられる弟とか?」
莉奈の方が立場が上だし。
「ならハグします? 周りに私達がカップルであることを示すために」
「兄弟でもハグはするだろ」
「優斗くん、由依ちゃんとハグしてるのですか?」
「してるよ、そりゃあ。せがまれるし」
お帰りと言われて抱っこされることもある。
「へー、私以外の女とハグしてるんですか……」
「妹はセーフだろ」
別にあの女ではないんだし。
「……さて、緊張はほどけてきましたか?」
「ん?」
「さっきまで死にそうな表情だったから」
「まさか今のも……」
「ただ私がハグしたいだけです」
「なんだよ、おい!」
期待して損した。莉奈にそう言う優しさがあるのかと……。
そして、俺たちはそのまま喋り続けた。不思議なことに恐怖感は大分和らいで、楽しく会話が出来た。こういう意味では莉奈に感謝しなきゃならないな。
だが、順番が近づいた時、俺は恐怖感に再び包まれてしまった。
そして体が震え。莉奈にぎゅっと抱き着く。なんとなく莉奈に負けたみたいでいやではあるけども、そんなことは、この恐怖の前では関係が無い。
「優斗くん、そんな公の場で抱き着かないでくださいよ」
「お前が抱き着きたいと言ったんだろ。実は今も楽しいんじゃないのか?」
「まあ、そうですけど」
「やっぱり怖いからずっとこうしていいか」
「もちろんです」
それから俺は莉奈にとにかく抱き着いた。周りの人に見られることもいとわず。
そしてついに順番が来てしまった。今更みっともなく逃げるなんてことをするつもりはない。ただ、怖いことは怖い。神様、無事に帰らせてください。
そして俺はジェットコースターの椅子に座る。もし俺が小学生だったら、わめく事も出来るのだろうが、高校生がわめくなんてダサすぎる。
(今日は莉奈との混浴だ!!!)
気持ちを無理やり上げて、出発を待つ。
一〇秒後、ジェットコースターが出発し、穏やかに上に上がっていく。おそらくあの先が見えない場所、あそこがスタート地点なのだろう。
(神様!!)
そして車は、猛スピードで降り始める。
「ぎゃああああああああ」
そう思いっきり叫ぶ。
思っていた以上のスピードと角度だ。これは耐えられん。そう刹那に感じた。
これはもう楽しむとかなく、我慢の勝負だ。我慢しなければならない。そうでなければ耐えられない。
しかも休む暇もなく次々と吐き気、気持ち悪さが襲い掛かってくる。もう、休ませてほしい。もう、帰らせてほしい。もう寝たい。そんな思考がどんどんと脳内をめぐる。
隣を見ると、「きゃあああああ」と、楽しそうな莉奈がいた。
っくそ、やっぱり莉奈は楽しんでいるのか。
その無邪気具合は少しだけ殴りたくなってしまう。
俺はこんなにも苦しんでいるのに。
「はあはあ」
そんな中、一旦平坦な道を走りだした。
「莉奈……これで……終わり……か?」
「奈に言っているんですか。まだここからですよ!」
「嘘だろ」
「嘘じゃありませんよ」
「……」
「楽しみましょう!!」
普通に死んだな。これ以上は耐えられん。もう、しんどくなったら完全に莉奈のせいだ。
そしてまた坂から車が落ちていく。急な角度で。それに伴い、吐き気が出てきた。
気持ち悪い。もう、我慢など出来そうにない。早くジェットコースターよ止まれ。そう祈ることしかできない。
ああ、お願いだ。これ以上俺を苦しませないでくれ。
「優斗くん、優斗くん」
そう、莉奈の俺に語り掛ける声が聞こえる。どうしたんだ……いったい。
「もうジェットコースター終わりましたよ」
その声を聞いて周りを見渡す。すると、ジェットコースターから降りていく人の群れが見える。早く降りないと、怒られそうな雰囲気だ。
「莉奈、肩を貸してくれ」
一人じゃ立てない。
「分かっていますよ」
そして俺は莉奈の肩を借り、ジェットコースターから降りる。
「次どれ乗ります?」
「いや、その前に休ませてくれ」
流石にこの体力じゃあ、歩くのがやっとだ。アトラクションに乗るのも無理だろう。例え、観覧車と言った簡単なものだとしても。
「分かりました。何か欲しい飲み物はありますか?」
「そうだな。水が欲しい」
「普通ですね」
「……」
ツッコむ体力もねえ。
「分かりました。取ってきますよ」
そう言って莉奈は自動販売機まで走って向かって行った。
はあ、本当に死ぬかと思った。むしろ本当良く生きてたわ。これは神様のご加護かもしれんが、どちらにしろありがたいことだ。
あれには二度と乗りたくねえ。まさにそう思った。
「優斗くん買ってきましたよ」
「おう、ありがとう」
そして俺はその水を受け取り、ごくごくと飲む。
「おうぇえ」
急に気持ち悪くなった。
「急に飲んだらそうなりますって。少しずつ飲まないと」
「おう、わりい」
そしてごくごくと飲む。これでようやく少しだけだが気持ち悪さが、収まってきた。
完全な回復を待つためにボーとしていると、莉奈がじっと俺の顔を覗いてみている。
最初は何とも思わなかったが、意識が正常に戻るたびに違和感を感じる。莉奈の顔が目の前にある状況、それにドキドキしてきた。
「っ莉奈何してんだよ」
「ただ、優斗くんを堪能していただけですけど」
「莉奈……」
相変わらずすぎるだろ。




