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クラスの女子と関わったことの無い俺の机の中に手紙が入っていたのですが  作者: 有原優


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第九話 黒歴史2

「はーいやだ」


 帰りたい、まあここが家なんだけど。


「覚悟しろ、優斗」

「するなら早く公開処刑してくれ」


 歯医者の待ち時間並みに嫌な時間だ。


「わかった、さくっと殺すぞ。それで優斗はあの時虫歯があったんだ」

「あの優斗くんが?」

「ああ、俺甘いお菓子そこそこ好きだったしな」


 まあとはいえ食べ過ぎていたとは思わないが。


「でだ、俺が優斗に言ったんだ、カラオケ行こうって」

「カラオケって、歯医者じゃないんですか?」

「莉奈少しだけ待て」

「え?」

「父さんの話を聞け」


 早とちりはいけない・


「いや、別に父さんはいいんだぞ、好きなだけ遮ってくれても」

「父さんそういうことじゃねえよ」


 言った本人もわかっていなかったのかよ。


「は?」

「ちょっと二人とも話し進まないって」

「ああ、そうだな父さん続けてくれ」

「それでな、優斗はわーいと言って元気についてきたんだ」

「うんうん」

「それで車で歯医者まで向かったんだ」

「え? 歯医者にですか? カラオケじゃなくて」

「そうなんだよ、全て父さんの罠だったんだよ」

「罠とは失礼だな」

「事実じゃないか、あの時俺はワクワクしてたんだぞ」


 当時の俺は本当にカラオケが好きだった。年に十回は行くぐらいにな。だが父さんはそのカラオケ愛を利用したんだ。許さねえと思ったなあの時は。


「それが絶望に変わったんですね」

「ああ、最悪だったわ」

「で、着いたその時に俺は優斗に言ったんだ、ほらついたぞ歯医者になと」


 今でも思い出す、あの父さんのにやけ顔を。絶対あれは楽しんでいたわ。


「そして優斗は泣き出してな、俺はもう歯医者行くぐらいだったら死ぬって言いだしてな」

「莉奈ちょっと待っててくれ」

「え?」

「もが、優斗何をするんだ」

「この話を止める」


 俺はどう言って父さんの口に無理やり手をかぶせようとする。


「今更恥ずかしくなったのか?」

「ああ、そうだ。だからさっさと口を閉じさせろ」


 これ以上話させてたまるか。


「優斗くん!」

「なんだ?」

「口を放してあげてください」

「莉奈、お前もそっちの味方かよ」

「当然です」

「由依は?」

「お兄ちゃんの味方ってことある?」

「辛辣すぎないか?」

「当たり前でしょ、私もお兄ちゃんの恥ずかしいところ聞きたいし」

「お前はもう何回も聞いているだろ」


 俺と由衣はこの話をすでに少なくとも二回は聞かされている。由衣は自分から聞きたがっているが。


「何回でも聴きたいの」

「母さんは?」

「私は中立の立場にいるわ。けれど優斗手を離しなさい、今は食事中でしょ」

「そんなぁ」


 俺の味方は本当にいないらしい。


「優斗くん覚悟してください」


 莉奈が俺の手を剥がしにかかる。


「だめだ、この話を聞かれるとダメなんだ」

「私も助太刀するー」

「由依もやめろ」


 そしてとうとう俺の手は剥がされ、莉奈の手によって俺の手は後ろ手に拘束される。


「よし、続きを話すぞ」

「莉奈さん、手を離してもらえませんかね」

「ダメに決まっています」

「ご飯食べたいんですが」

「この話が終わるまで我慢してください」

「莉奈の鬼め」


 まあ莉奈だけじゃなく、この場にいる全員が鬼だけど。


「さあ続きを話してください」

「ああ、優斗が歯医者行くぐらいなら死ぬって言ったってどこからだよな」

「そうです」

「俺は嫌がる優斗を無理矢理抱っこしたんだ」


 俺が引き剥がさない程度の強さではなく、本気で締め付けるような強さでな。痛かったわあれは。


「優斗はそれでも嫌がったんだ」

「俺は今この話が嫌なんだが」


 それに母さんは俺が口を塞ぐのはダメで莉奈が俺の手を拘束するのは何も言わないのか。理不尽だ。


「優斗は俺が受付に行く時に、受付のお姉さんに言ったんだ」

「俺の話は無視か! てかもうやめてくれお前ら!」


 俺は叫ぶ。叫びまくる。喉が潰れるかと言うくらいの音量で。


「俺、誘拐されてきました、助けてください。この人にカラオケに連れて行くって言われてついて行ったらここだったんです。助けてください、殺されてしまうって」


 俺の叫びは届かなかっようだった。ああ、本当にやめて欲しかった。俺の顔が心なしか赤くなっている気がする。この話は莉奈には聞いてほしくなかった。いわゆる黒歴史っていうやつだし。俺は恥ずかしさで死にたくなる。本当に死にたくなる。今すぐこの場から逃げ出したい。


「莉奈」

「え?」


 俺は莉奈の手を振り解き、たしょう強引な手を使ってでもこの話を終わらせたいという一心で、莉奈を無理矢理2階の俺の部屋まで引っ張ろうとする。


「やめてください優斗くん」

「この場から莉奈を連れて避難するんだ、この地獄からな」

「優斗、莉奈ちゃんが嫌がってるでしょ」


 よく言えたな母さん。俺に対する今日これまでの事を忘れたのか?


「嫌だ、ここまでの話でも嫌なのに、ここからの話は尚更聞かれたく無い!」

「優斗くん、本当にやめてください」

「俺は莉奈に俺の黒歴史を聞かれたく無いんだよ!」

「優斗、やめなさい」


 父さんが言う


「じゃあ俺の黒歴史を話すなよ」

「それは莉奈が望んだことなのか?」

「私は話して欲しいです」

「なら話さないということは無理な話だ」

「誰か、誰か、まともな人はいないのか」


 そもそも俺が嫌がってるっていうのに。莉奈の意思が俺の意思より優先なのは明らかにおかしい。


「お兄ちゃん、全員が聞きたがってるんだよ、もう諦めて」

「そうですよ、離してください!」

「全くもう優斗は莉奈さんを離しなさい、さもなければ来月のお小遣い無しですよ」

「は? 大人の権力使うのか? 卑怯だぞ」


 ただでさえ貧乏なのに、お小遣い減らされてしまったら何もできなくなってしまう。


「当たり前でしょ、いいから離しなさい」

「はあ、わかったよ」

「わかればよろしい」


 親の権力を使うなんて卑怯すぎるだろ。親の権力を使ってまで黒歴史を話したいのかよこの家族は。本当になぜこんなにもうちの家族はしつこいんだ。


「莉奈ごめんな」


 俺は形だけの謝罪をする。


「まったくですよ、少し痛かったんですからね」

「すまんな」


 痛かったのか。それだけは悪いことをしたな、それだけはだが。


「まあでも優斗くんの違う一面が見れて面白かったですけど」

「そうか、それは良かったな」

「そろそろ続き話していいか?」

「いいぞ、どうせ俺が何を言っても無駄だろうからな」

「じゃあ行くぞ、そのあとはな、受付のお姉さんも優斗が嘘をついているのはお見通しだったようで、すぐ優斗をあやしたんだ。麻酔かけるからあんまり痛くありませんよって。だが優斗は相変わらず泣き叫んで、この鬼とかこのくそじじいとか、このろくでなしとかさんざん罵声を俺に浴びさせたんだ」

「それでそれで?」

「ああ、俺は死にたい」


 黒歴史中の黒歴史だ。子供の時の話だからいいという話ではない、俺にとってはちゃんと黒歴史なんだ。



「ついに優斗がさんざん悪口を言うもんだから、周りの人たちが優斗と俺のことをじろじろ見始めたんだ。俺はそれを察知して受付が終わった後すぐに病院の外に出たんだ。迷惑になったらいけないと思ってな」


 俺はそこからのことはあんまり覚えていない。だって怖かったんだから。しかし、その話は二回以上も聞かされているのだ。まるで父さんの持ちネタのように。それで記憶から抹消はできていない。


「外に連れ出したはいいものの優斗は全然泣き止む気配はなかった。よほど怖かったんだろう、しかしあの時の優斗の歯の状態を考えたら歯医者に行く以外の選択肢はなかった。だから俺は近くの店で周りの人にじろじろ見られながらポテチを買ってきたんだ。その後ポテチを食べて優斗は少し落ち着いたんだけど。俺はその間怖かった。いつまた優斗の発作が出るかも知れないからな。ただただ待ち続けたんだ。その、呼ばれる時までな。そして少しだって携帯が鳴ったんだ、そして優斗を病院に連れ込んだ。そしたら優斗は相変わらず泣き出して、もう手の付けられないほど泣き出したんだ」


 ああ、あの時はまたこの時が来たのかと思っていたからな。誰だってその時が来たら怖い。


「優斗は泣いて泣いて泣きまくって、俺は看護婦の方に任せたんだ、だからその後のことは知らん。ただ、結構駄々こねて、治療するための椅子に座らされるのを無理矢理拒否しようとして、看護婦のことを殴ったとは聞いたな」

「本当なんですか? 優斗くん」

「ノーコメントで頼む」


 全部話すじゃんもう父さん。


「そのあと帰ってきた優斗は思ったより痛くなかったって言って元気で帰ってきたな」

「ああ、もうやめてくれ」

「でな、あいつは謝らなかったんだ、俺にも看護婦にもな、被害者つらしてたのに、一切謝罪は無しだ。どう思う?」

「子どもだから仕方ないんじゃないんですかね」

「まあそうなんだがな。優斗のあまりもの変貌ぶりに驚いたわ」

「父さんお前な」

「まあそんなところで俺の話は終了だ」


 オーバーキルも良い所だ。並の精神だったら三回は死んでるだろう。


「優斗くん、別にこんな話だったら逃げなくても良かったじゃないですか」

「俺にとっては黒歴史すぎるんだよ、この話は」

「子供がしたと思ったらかわいいですけどね。何なら今の優斗くんがしていてもかわいいです」

「それは違うだろ」


 体は大人、心は子供じゃねえかそれ。しかしやっとこの地獄が終わった。


「でもありがとうございます、こんな貴重なお話を聞かせてもらえて」

「いえ、かまわん。優斗の彼女だからな」

「ところで私が次に話してもいいですか?」

「おい、莉奈お前二日でそんなネタないだろ」

「付き合う前のならあります、なぜなら一年の時も同じクラスだったんですからね」

「勘弁してくれよ」

「まあでも皆さんが知っている可能性もあるので知っていたら教えてくださいね」

「わかったー」


 由衣が元気よく返事をする。


「それでこれは昨日の話で、数学の授業中の話なんですけど」


 いや、その話かよ。たしかにその時はまだ付き合ってはなかったな。まあこの話は黒歴史でも何でもないし好きなだけ話してくれて構わない。



 そんなこんなでこの俺の暴露会は一時間続いた。


「はーいっぱいしゃべったわね、て優斗あんまりご飯減ってないじゃない」

「仕方ねえじゃねえか、食べる時間なんてあるかよ、ずっと莉奈に手を拘束されてたんだぜ」

「優斗くんがすぐに逃げようとするからじゃないですか」

「その逃げさせるような話をしていたのはお前らだけどな」

「そんなのはいいから、早く食べて」

「わかったよ」

「あ、そうだ、私があーんしましょうか?」

「いや、いいよ」

「いやお兄ちゃんしてもらったらいいんじゃない?」

「いや恥ずかしいから」

「でももうしたんでしょ」


 莉奈が俺たちが今日あーんのしあいをしたことをさっき話したのだ。


「そうだがな、でも家族の前であーんのしあいはしなくていいじゃねえか」

「優斗、あーんしなかったらもうご飯を作ってあげない」

「母さん?」

「それが嫌だったらあーんを受けなさい」

「公開あーんかよ」


 本当にこの親は権力をすぐに使う。こういうのを言うのかな毒親というのは。


「いいじゃないですか、しましょうよあーん」

「なんかこの会話するの2回目な気がするんだけど」

「そういえばこの前二人の時にしましょうって言いましたよね」

「いや、今は二人っきりじゃないんだわ」

「でも今あーんをするのは決定事項ですからね」

「はいはい」


 そして莉奈は俺の口の中にハンバークをぶち込む。


「どうですか?」

「まあ普通においしいよ」

「普通にって何ですか、あーんしてくれたから100倍おいしくなったよとか言ってくださいよ」

「別にあーんでそんなおいしさ変わらねえだろ」

「相変わらず夢がないですね」

「そうかよ」

「しかし二人とももうラブラブだな」


 父さんが会話に割り込んできた。


「前川家の将来は任せてください!」

「気が早くねえか?」


 結婚する気かよ。もう。


「そのくらいのほうがいいんです」

「そうだぞ優斗はもう将来の嫁には困らないな」

「父さんもかよ」

「私もそう思うよ」

「由衣お前まで入ってくんな」

「いいじゃん、それで二人ともエッチなことはいつするの?」

「莉奈許せ、こいつはまだ子供なんだ」


 本当にうちの妹はそうおいう話が好きだな。


「私は前に言った通りいつでもいいですよ」

「俺はまだ準備ができてないんだ」

「そういえばお兄ちゃん手が止まっているよ」

「そうだな」


 俺はご飯の残りを食べていく。


「ごちそうさまでした」


 そう言って俺は食器を出いところに運ぶ。そこでは母さんが洗い物をしていたので「お願いします」とだけ言って母さんに渡した。


「そういえば私そろそろ帰らないと」

「えーもうちょっと話そうよー」

「もう何時間話してると思っているんだよ由衣、それにもう九時だしな」

「え?ちょっと待って」


 莉奈がスマホを見ながらそう言う


「ん?どうした」

「人身事故が起きてる」

「え?」

黒歴史、嫌ですね。

私にとって小2の時にプールでお母さんと別の人を間違えたことが一番の黒歴史です。

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