港町へ
調理師の運んできた料理はどれもおいしく、酒がすすみそのあとのことはほとんど覚えていない。とても楽しい祝勝会だったことは記憶にある。確かジェラルドも酔った勢いで船長にイカもどきを食べさせられたが結局美味い美味いと食べていた気がする。美味しい魔物もいるということが少しでも広まったのならよかった。
気が付くと、またもや自分の部屋で寝ていた。これで何度目かまたジェラルドに運んでもらったのだろう。本当に迷惑ばかりかけてしまって申し訳ない。
そこからの船旅はとても速いもので、とくに大きなイベントも起こらず一週間の船旅は終わりを迎えた。三日目以降は毎日のようにジェラルドのパーティーメンバーと酒を飲み交わし、彼らとも随分仲良くなったと思う。これだけ仲良くなれば当然のように仲間にならないかと何度も誘われたが、何度も丁寧にお断りした。彼らは魔王討伐が目的というわけでもなく、ただジェラルドの修行旅に付き合っていたり、冒険者として金稼ぎが目的だったりするので悪くはない提案だが、私の目的に彼らを付き合わせるのも悪いと思う。
ジェラルドには毎日のように酔わないようにバフ魔法をかけてもらったり、酒を飲んで眠る私を部屋まで運んでもらったりかなり迷惑をかけた。港町についたら何か奢るといったのだが彼はかたくなに断った。聖人なのかそれにしてもお人好しが過ぎる。一応私も女なのでそういったことも覚悟はしたが全く求めてこなかった。ミサといい彼の家系は本当に尊敬する。
船が港町につくと彼らは船長から報酬をもらい西のほうにある城下町に向かうといって去っていった。またどこかで会えたのなら一緒に酒でも飲みたいものだ。
「ありがとうございました。」
この一週間で何度彼に言ったか分からないこの言葉がやはり私が彼に言った最後の言葉だった。彼はいつものように笑顔をわたしに返して彼らは去っていった。
去り際エリオットが少し寂しそうな顔で言った。
「またいつか会えたならその時は強くなった僕を見てくださいね。」
「うん。楽しみにしてるよ。」
この一週間実は一番仲良くなったのはエリオットだった。彼には魔法師の立ち位置や魔法構築短縮について少しだが私が知っていることについて教えてあげたりした。いわば一週間限りの弟子みたいなものだった。彼は吸収が早く、早くも魔法構築短縮が少しできるようになった。彼の成長には期待したい。そして私も人に教えるということで私自身を改めて見直し、新たな気づきを得て少し強くなった気がする。教えることで成長することもあると実感した。
しかし短期間だったとはいえ誰かに師匠と呼ばれる感覚は悪いものではなかった。いやむしろ良かった。
そして船長からお金をもらった。撃退報酬ならいらないと何度も言ったはずだが、これは撃退報酬ではなく、船内食堂の新メニューとしてあのイカもどきを使うことに対しての謝礼金と言っていた。あの魔物はこの辺ではよく見かける個体らしく、材料には困らないらしい。
乗船代の全額返還に加えてかなり大金をもらったのでしばらく路銀には困らないだろう。乗船代で財布がすっからかんだったためかなり助かった。
金がなかったので、この町のギルドで適当に依頼を受けて路銀を稼いでからの出発と考えていたが、路銀は手に入ったため明日すぐの出発とする。
今日やるべきは宿の確保と食糧やサバイバル道具の買い出しだが、まぁ宿はそこの安そうなところでいいだろう。
安い宿を取り買い出しに出かける。
とりあえず必要なのは塩だ。塩は万能調味料でどんな動物や魔物もとりあえず焼いて塩振っておけば大体食べれる。
簡単な調理器具、小型のナイフ、水、少しの携帯食料、その他必要そうなものを買った。あまり買いすぎると荷物になるため本当に必要そうなものしか買っていないが。また、荷物持ち兼非常食としてロバでも買おうかと考えたが、少々値が張ったのであきらめた。次の町へも歩いてもそこまで時間がかかる場所でもないし大丈夫だろう。
...忘れるところだった。回復薬を買わなければ。回復薬は惜しまずにしっかり高価でも性能が良いものを買う。というのも安価なものは性能自体は高価なものと大差なくとも、使っている薬草があまり良いものとはいえず、少し依存性がある薬草を使っている場合が多い。回復薬依存症は金がなく、光属性を使える司祭などがパーティーにいない弱小冒険者に起こりやすく、ギルドもこれを問題視して比較的強い冒険者の成功報酬から一部をとり、その金で弱小冒険者に依存性のない回復薬を配っていたりする。前の世界の税みたいなことをやっているってことだ。
この制度ができたことで冒険者にはランクがつけられるようになり、SからEの6段階で分けられC以上の冒険者は報酬から一部初心者支援として金がとられる。
ちなみに私はCランクでぎりぎりお金を取られる。勇者パーティーはパーティーとしてはSランクだが、私個人の場合はCまで下がる。勇者がSで、その他二人もAだったので本当に私が一人で足を引っ張っていた。
そんなことを思い出し、夜飯は適当に買い食いをして、少し気分が悪くなりながらやっすいぼろ宿に戻り就寝した。