魔法構築
会場はかなり盛り上がっていた。
「いらっしゃい嬢ちゃん。飯食べに来たのかい?」
私を昼食をとりに食堂に来たと勘違いしてるのだろう。この場で盛り上がりの中心らしきおじさんが話しかけてきた。
「いえ、彼女はあの魔物に上級魔法を当ててくれた魔法師ですよ船長。」
ついてきたジェラルドが説明してくれた。本音を言うと私が上級魔法を使ったことは黙った置いてほしかったが仕方がない。
「あの魔法嬢ちゃんが放ったのか。てっきり俺はジェラルドんとこの魔法師くんだと思ってたよ。」
そういえばジェラルドはパーティーを組んでたな。彼のパーティーにも魔法師いたのか。役割を奪ってしまったみたいな形になってしまって申し訳ないな。さりげなく誤っておいたほうがいいだろうか。
「そういうことならなおさら参加させないわけにはいかないな。嬢ちゃんこっちおいで。」
呼ばれた席へと行く船長とジェラルドパーティー一行が酒を飲み交わしている卓だった。
まずは自己紹介でもしようかと考えていたが、ほとんどが酔いつぶれていて会話どころではなかったためやめておいた。ジェラルドが簡易的な紹介をしてくれたのでいいだろう。
「嬢ちゃん。それ何持ってるんだい?」
船長が私が持ってきたイカ焼きもどきに興味を示してきた。今ジェラルドは彼のパーティーメンバーの介抱でこちらを見ていない。これはチャンスかもしれない。
「私の故郷で伝わるいい酒のつまみを調理場をお借りして作ったんです。良かったら食べてみませんか?」
そう言うと船長は何の疑いも持たずに食べた。
「美味いなこれ。イカ焼きみたいだが少し味が違うし歯ごたえもかなりある。これは酒のつまみに合うな。」
船長は満足そうに食べる。もう一ついいかとどんどん食べていく。魔物の美味さが伝わって私はうれしい。
「しかしこれ何を使っているんだ?イカにしてはデカすぎるし歯ごたえもありすぎる。よかったら材料を教えてくれないだろうか。船で売り出したら人気が出るかもしれん。」
魔物です。と言おうとしたところにジェラルドが気づいて入ってきた。
「船長、もしかして食べたのですか?」
「おう。美味しかったぞ。」
「なんてことをしてくれたんだモモ。これで船長が体を壊したりしたらどうする。魔物の肉なんてどんな毒が入ってるかもわからないのに。」
「え。魔物の肉なのか。」
ジェラルドの言うことはごもっともだ。確かにこの船の舵を取る船長に食べさせるべきものではなかったな。この魔物は私も今日初めて食べたので毒の有り無しなんてわからない。もし遅効性の毒を持っていた場合私も船長もただでは済まないな。しかし大丈夫だろう。私の経験からこの魔物には毒はないだろう。
「魔物ってこんなに美味しいのか。もう一つくれ」
「あぁ、ちょっと」
ジェラルドが止めに入るのも虚しく、船長の食べる手は止まらなかった。
「美味しいですよね。これさっき撃退した魔物の足なんですけど、あと3本調理場の保存庫に入れておいたのでよかったら調理しちゃっていいですよ。」
「本当か。じゃあ今全部調理させちゃおうか。」
そう言うと船長は他の卓で飲んでいたこの船の調理師を呼び寄せこのイカ焼きもどきを食べさせた。めちゃくちゃ嫌がっていたが無理やり食べさせていた。これパワハラだろ。
食べると調理師の目の色が変わったのが分かった。
「美味いっす。」
そう一言言って調理場に向かっていった。彼も理解してくれたようでうれしい。そう思いながらイカ焼きもどきをつまみに酒をたしなんでいると自分の前に座っている男と目が合った気がする。いやずっと見られていたのかもしれない。深々と大きめの帽子をかぶり、机に杖を置いてジュースを飲んでいる。彼もジェラルド同様酔っていないようだ。
なんかすごく見られている気がする。別に不快というわけではないがそこまで見られるとこちらとしても気になってくるものだ。
「あ、あのどうかしました?」
とりあえず声をかけてみる。彼はあっ...あっ...と何か話したそうにしながら目が泳ぎだした。少し人見知りなのだろうか。
「私はモモって言うの。あなたは?」
「...エリオット」
「エリオット。よろしく。あなたも魔法師よね。」
「うん...」
「属性は何を使うの?私は炎だけなんだけど。」
「氷...」
会話が続かない。私と同じぐらいか年下に見えたからため口で話してみたがなれ慣れすぎただろうか。何か彼が話してくれそうな話題を探して何とか心を開いてもらいたいものだが。
「君もジェラルドのパーティーメンバーなんだよね?」
「うん...」
「ジェラルドはすごいよね。聖職者としてもそうだけどしっかりパーティーリーダーをこなしてるし、見ず知らずの私に声かけてくれて船酔いや魔力切れから助けてくれて。同じ人間として尊敬するよ。」
「そう。ジェラルドはすごいの。」
急に食い気味に返事が来た。この前だってねと続きジェラルドがいかにすごいかを語ってくれた。急に饒舌になって少し驚いたが彼の話を聞いているだけで、ジェラルドが彼に、パーティーメンバーにいかに大事に思われているかがよく分かった。良いパーティーだと思う。
「それで僕逃げ出しちゃって...」
聴けば彼は私と同じでパーティーメンバーに対して実力不足を感じているらしい。パーティーメンバーが強すぎると1属性しか使えない魔法師は肩身が狭いんだよな。
「モモさんはすごいですよね。あんなに強い魔法が使えて。」
あんなに強い魔法?上級魔法のことだろうか。
「いやあれは上級魔法だけどすごく弱い魔法だよ。あれぐらいだったら落ち着いて魔法構築すればだれでも使えるよ。」
「本当ですか?」
おそらくだけど落ち着いて魔法構築できていないのだろう。先ほどからの話を聞く限り彼は魔物などとの戦いのたびに逃げ腰になっている。魔法師は魔法構築をしている間はそれ以外のことをあまり考えることができない。そのため怖い逃げたいなど考えていると上手く構築できないのだ。魔法師が余計なことを考えずに魔法構築をする時間を稼ぐのがパーティーの盾役の仕事だ。うちの盾役だった守備者はかなり優秀で私が構築短縮を使わず3分ほど魔法構築を始めても私に攻撃が届くことはなかった。彼のパーティーの場合盾役が彼をしっかり守ってあげてないのだろうか。
そういえば先ほどの魔物と戦っているときの陣形も少し変だった気がする。彼はメンバーから少し離れた位置で一人で魔法構築をし、残りの3人は彼に攻撃が行かないようにヘイト稼ぎをして、盾役はジェラルドを守ってたな。彼に攻撃が行かないようにしているとはいえ、魔法師は魔法構築中無防備になる。攻撃がほぼ来ないとはいえ周りに守ってくれるものがいないのは不安になるだろう。
「エリオットはさ魔法構築中何考えてる?」
「えっと...怖い...ですかね。」
「だよね。さっき魔物と戦ってる時の陣形を見て思ったんだけど、たぶん少し変えたほうがいいと思うんだよね。」
「陣形ですか...」
「ジェラルドたちがヘイト集めをしてくれて攻撃がほぼ来ないってわかってても守ってくれるものがないと魔法構築も安心してできないよね。だからその辺のことをジェラルドやメンバーに話して魔法構築中は守ってもらうようにしなよ。魔法構築に集中できれば君は強くなると思うよ。」
なんか上から目線になってしまった。嫌に思われていしまっただろうか。しかし、余計なことを考えながら中級魔法の構築ができるのはすごいことだ。彼が強くなると思うのは本当だ。
「わかりました。相談してみます。ありがとうございました。」
「いえいえ。」
私なんかのアドバイスが役に立つかはわからないけど、参考になればうれしい。
そうこう話していると調理師が料理を持って戻ってきた。