調理開始
無尽蔵…それは誇張が過ぎた表現かもしれない。正確には魔力が尽きたことがない。多くの魔法師が魔力切れを嫌い使うのを躊躇う魔法構築短縮も私は何度使ったところで魔力が尽きたことは無い。この力が異常なことは周りを見れば誰でもわかる。だからこそ私はこの力を隠してきた。変に期待されても困るから。
私は魔力が特別多いと言うだけで、魔法師としては炎属性のしかも上級魔法は1種類しか使うことの出来ない平凡な魔法師なのだ。特別な目で見られたくは無い。
ただ、魔法構築短縮を使いすぎて普通に魔法構築をすることがめんどくさくなってしまった私は上級魔法を使う時だけ魔法構築短縮を行いその度倒れるフリをしてきた。勇者や仲間からは速攻上級魔法を放つ代わりに速攻で使えなくなるちょっと頭のおかしなやつみたいな目で見られていた気がする。
今回あの魔物に上級魔法を放った時も無意識に魔法構築短縮を行ってしまった。誰もが勇者やジェラルドのように騙されてくれる訳では無い。これからは気をつけないと。
...そうだ。足を忘れていた。さっき撃退した魔物の切り落とした足が甲板に落ちているはずだ。それだけ回収したい。おそらく捨てられてしまうだろうから。
ジェラルドたちに立ち上がってるところを見られたくないからできるだけ見つからないように取りに行く。物陰から物陰へ。コソコソと動くのは少し背徳感があって少し気持ちいい。
ついた。コソコソここまで来たのにジェラルドたちいなかったな。食堂かどこかで祝勝会でもやっているのだろうか。魔物の足も甲板に放置されたままだ。
...4本しっかりあるな。私が片手で抱えて持てるか持てないかぐらいの大きさの足。それが4本。ぎりぎり私一人で抱えて持って帰れるほどだ。しかし、こんな状態ではコソコソ帰ることはできない。みな祝勝会をやっていることを願おう。
ついた。特に危なげなく。無事についたところで調理を始めたいのだが、あいにくこの客室には調理場がない。焼くだけだからと机の上とかで調理しようとも考えたが、さすがに客室でそれをやるのはまずいだろう。
「私が起き上がってもおかしくない時間まで待つか。」
あと2,3時間だろうか。少し待って食堂の調理場を借りることにした。
...少し寝ようか。
...目が覚める。そろそろ2時間だろう。空腹もつらくなってきた。とりあえず足をすべて持って食堂へ。
食堂に行くと案の定ジェラルドたちが祝勝会を開いていた。彼らはいったいいつから飲んでいるのだろうか。そんなことより調理場へ。
まず、使わない足3本を保存庫に入れておく。冷やしておいたほうが少しでも長持ちするだろう。次に1本を調理するのだが切り分けようかかぶりつこうか迷うな。とりあえず火であぶる。
杖を取り出し、初級魔法でちょっとした火をおこし魔物の足を端から端へあぶっていく。美味そうなにおいがしてきた。においにつられたのか人影が調理場に近づいてくる。
「やあモモ。もう大丈夫なのかい?」
こんなに長時間飲んでいて酔っていないなんてな。ジェラルドはいつもの調子で話しかけてきた。
「はい。おかげさまで。また部屋まで運んでくださってありがとうございます。」
「いやいや、俺たちこそ君の魔法がなかったら危なかったよ。こちらこそ礼を言わないといけない。」
そういえば彼らは雇われの護衛だったな。客が助太刀するような状況になったことに思うところがあったのかもしれない。とても申し訳なさそうに見えた。演技とはいえ私も気絶してしまったし。
「頭を上げてください。私は昨日助けていただいたお礼にもなると思って少し手を出させていただいただけです。」
「いやでも...ほとんど君の魔法で撃退できたようなものだ。」
そう言い、ジェラルドは少し考えこむ。
「...そうだ。さっき船長から護衛の報酬とは別に謝礼金をもらったんだ。それを君に...」
「いや大丈夫です。」
とっさに答えた。さすがに彼からお金をもらうわけにはいかない。それにしても護衛の報酬と別で撃退報酬をくれるなんてこの船の船長は気前がいいな。
「報酬ならすでにもらったので。」
彼が申し訳なさを感じないように言っておく。いや、しっかり報酬はもらったなそういえば。
「え。船長はそんなこと言ってなかったけどなぁ。」
「あぁ、お金ではなく物をもらいました。これです。」
ジェラルドに今あぶっている魔物の足を指さして言う。
「...は?」
「これです。これを報酬としていただきました。」
彼は驚きと困ったような顔をする。
「え...いやでも...それは...」
何かぶつぶつと言い出した。無理もないこの世界なぜか魔物を食べる習慣がない。なぜかでもないか。自分を殺してきそうなやつの死体など食べたいとは思わないだろう。
「あ、もしかして武器とかの素材にする予定でした?それでしたら申し訳ない。放置してあったのでつい食い意地が張ってしまって4本すべてもらってしまいました。半分ぐらいだったら返します。」
「いや...君は本当にそれでいいのかい?そんな廃棄予定の...というかいま食い意地と言った...?」
「はい食べますけど。」
彼の顔が引きつっている。基本的にこの世界の人は魔物を食べるというと良い顔をしない。それはもう慣れっこだ。
...よし。美味く焼けただろう。とりあえず一口大に切り分ける。
彼はまだ引きつった顔をしている。それはほんとに食べるのかこいつと言いたそうな目で私を見ている。ここ目で見られると魔物の美味さを教えたやりたいな。
「食べます?」
「いらない。」
口に近づけたやったが即答された。仕方ない。そのまま私の口に運び一口目。美味い。味はイカっぽい味だ。焼きイカと言ったところか。美味しい。酒が飲みたくなってくる。
彼は本当に食べたぞと言いたげな信じられないと言いたげな顔をしている。
まぁいい。それより酒と一緒に食べたいな。皆が騒いでいるほうに行けば酒もあるだろうか。
「私も祝勝会参加していい?」
「...あぁ。それはもちろんだよ。」
彼の返事が遅れた。そこまで衝撃的だろうか。
彼の許可も得たので私も参加することにする。