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元仲間の聖職者の話

「お金?いらないよそんなの。困っている人がいたら助ける。それが聖職者ってもんだろ。」




 予想もしなかったセリフに思わず言葉を失った。この言葉はうちの聖職者ミサの口癖そのものだった。正確には男女の言葉使いの差はあるのだが。




「あれ、俺何かおかしなこと言ったかな。」


「...い、いえ。大丈夫です。」


「そうか。それならよかった。」




 これ以上心配させるのも申し訳ない。少し気になるがとりあえず良しとしよう。




「そういえばまだ名前を聞いていませんでした。せっかく助けていただいた恩人の名前だけでも覚えさせてください。あ、私はモモと言います。モモ・クレアートです。」


「別に名乗るほどの者でもないんだけどね。」


「教えていただきたいです。」


「ジェラルド。ジェラルド・アレグリーだよ。」




 かっこいい名前だな。そう思った。しかし、一つ気にかかった点がある。




「アレグリー...」


「ん?俺の家名がどうかしたかい?確かに少し有名な家系ではあるけれど。」


「い、いえ。そうではなく。」




 そうではない。聞き覚えがある気がする。アレグリーという名に...


 アレグリー、アレグリー、アレグリー...


 ...思い出した。ミサだ。ミサ・アレグリー。あの聖職者彼女そんな名前だった気がする。気になってきたな。聞いてみるか。




「あの。もしかしてミサという名前の妹さんかお姉さんいたりしませんか。」


「ミサを知っているのか?」




 ミサの話を出した瞬間少し食い気味に不安げに聞き返してきた気がした。




「知っているというか、元パーティーメンバーなんですよね。」


「そうか。その...ミサは元気にしてたか?」


「はい。うちの主力で彼女がいないとパーティーが回らないぐらい重宝されて、一緒に楽しく冒険してましたよ。」


「そっか。それはよかった。」




 何かあったのだろうか。そういえばミサと仲良くしていたが兄弟や身内の話をしたことは一切なかったな。彼女がパーティーに入ったのも確か勇者が他パーティーで酷い扱いを受けていた彼女を見かねて引き抜いたことで加入したため、特に彼女の出生や家柄なんかをわざわざ聞いたりなんかしなかった。うちの勇者がそういったことを一切気にせずに気に入ったの一言でパーティー加入を認めるようなやつだったこともあったが。




「あ、あのもしあれだったら無視してほしいんですけど、彼女と何かあったんですか。私もパーティーにいた時彼女にお世話になったので少し気になってしまって...」


「ミサから何も聞いてないのかい?そうか。あいつはわざわざ自分のこと言いふらしたりしないしな。俺はあいつの兄でアレグリー家の長男、ミサはアレグリー家の長女だ。俺たちアレグリー家は代々聖職者を輩出することでそれなりに有名な家系だ。」




 そうなのか。ミサと一緒に旅をしながら全く知らなかったな。私が世間に疎いというのもあるが。




「あいつはさ俺のために家を出ていっちゃったんだよ。あいつは俺なんかより優秀な聖職者だった。それはもうこの世界で随一と言っていいほどにな。」


「確かに彼女の回復魔法は素晴らしいものでしたね。」




 本当にすごかった。そもそも通常回復魔法というものは身体の自然治癒能力を魔力で2倍、3倍に増幅することで体の怪我などを治すものだが、彼女のそれは2倍、3倍では収まらず。10倍、20倍と桁違いなスピードで治すのだ。普通冒険者は大怪我をするとしばらく専属の光魔法使いを付けて何日もかけて体を癒すものだが、彼女が魔法をかけるとどんな怪我でも大体1日あれば治ってしまう。




「俺がさふがいなくて、まったくあいつに追いつけなかったんだよ。それでさ、あいつ俺の家の長としても面子を気にして何も言わず家を出て行っちゃってさ。あいつがいなくなってすぐわかったよ。俺のせいだ。俺がもっと強くならないとってさ。」


「そんなことが...」




 ミサにそんな過去があったとは。あらためてミサはすごいな。私たちと長い間旅をしながらそんなことまったく感じさせなかった。彼女のその行動は兄が好きなためにつらいながらも選んだ行動だろうに。




「そんなわけでさ、今はこうやって旅をして腕を磨いてるんだよね。」


「そうですか。ちなみになんですけど私がいくら払えばいいか聞いた時の断り文句、あれミサの口癖と全く同じで...それで最初固まっちゃったんですよね。」


「え、ミサが...」


「...?」




 彼が急に顔を俯けてしまった。しっかりと顔は見えないが、少し涙を流しているようにも見える。




「あ、あの私何か...」


「違うんだ。違う...ごめん。うれしくて...」




 うれしい...うれしいか。おそらくだけどもともと彼の口癖か家訓か何かで家を出た後も彼女がその言葉を使い続けてくれたことがうれしいのだろう。少し心が温まった気がする。いい話を聞いた。ミサに聞いたこと話してあげたいなぁ。もう逃げてきちゃったから会うこともないんだろうけど。勢いで逃げてきちゃったけどそういえばミサ含めパーティーメンバーにお別れをしなかったな。すこし後悔してきた気がする。




「そうだ。君が寝てる間に魚釣ったんだけど食べるかい?」


「はい。」




 気づいたら食い気味に即答していた。魚。そう魚が食べたくて船に乗った気がする。うん確かそうだ。食べたい。早く食べたい。おいしい魚が食べたい。あまりがっついたら卑しいやつに思われるだろうか。いやいい。飯には何事もあらがえない。仕方がない。うん。




「食べましょう。早く食べましょう。」


「...うん。食べようか。」




 心なしか彼の顔が引きつっていた気がする。そんなことはどうでもいい。早く魚が食べたい。


 あれ私さっきまで何考えてたんだっけ。ま、いっか。

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