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海の上で助けられる

 うっぷ...




 吐き気が波のように押し寄せてくる。このきれいな海の波のように。


 気持ちが悪い。こんなこと考えてる余裕なかった。もう何度海に戻しただろうか。三半規管の弱さは転生では治らないのか。


 いや、わかっていた。馬車に乗るたび戻していたのだ、さすがにわかっていたはずだが、いざ逃亡するとなると一番確実に逃げられそうでかつすぐに出発できたのが船だったのだから仕方ない。


 あわよくば魚なんか釣ったりして船旅を楽しもうと考えていた2時間前が懐かしい。これから次の港町まで一週間私の体は持つのだろうか。




「君、大丈夫かい?」




 声をかけられた気がする。とても話なんかしたい気分じゃない。というか話せない。せっかく心配してくれていたのかもしれないが申し訳ない、目の前で盛大に嘔吐してお引き取り願おう。




 うっ...




 先ほどまでと同じように船上から海に昨日の飯やら酒やらを吐いたつもりだった。




「あれ。」




 吐いてない。それどころか若干酔いもさめている。あまりの気持ち悪さに気付かなかったが、私に杖らしきものが向けられている。なんだろう気持ち悪すぎて考えがまとまらない。なぜ私は杖を向けられているのか。こんな時私はどうするべきなのだろうか。とりあえず私も杖を向け返すか。


 杖を彼に向け返す。慌てている?よくわからないがとりあえず私も何か魔法を...




 意識が飛んだ。さすがに戻しすぎたか...




「...君、大丈夫かい。」




 優しい声色で誰かが私に語り掛けているのが分かる。誰だろう。勇者だろうか。




「おーい。君、大丈夫か。」




 君。君か。確かにそう聞こえた。勇者ならば私をそんな呼び方しないだろう。ということは誰だろう。


 徐々に意識が戻ってきた。ゆっくり起き上がってみる。




「おぉ、やっと目覚めたかよかった。」




 ここは、船の上か。そうか私船酔いで吐きすぎて意識失ったんだっけか。


 目の前に心配そうな顔でのぞき込む青年がいる。この声どこかで聞いた覚えがある。そうか、もうろうとした意識の中で私に語り掛けてくれた声。あの声の主か。




「もしかして、介抱してくださったんですか?」




 この状況客観的に見なくてもそうだろう。だとしたらいうべきことがあるだろう。




「もしそうでしたら本当にありがとうございます。おかげで助かりました。」


「いやいや大丈夫だよ。杖を向けられて何かぶつぶつ言いだしたときは何されるかわからなくてヒヤッとしたけどね。」




 彼は今とんでもないことを言った気がする。私が杖を向けた?彼に?酔っていて考えがまとまらなかったとはいえ恩人に何をしているんだ私は。




「そ、それは本当に申し訳ありませんでした。私は恩人にそんなことをしていたなんて...」


「いや大丈夫だよ。多分勘違いしちゃったんじゃないかな。僕も君に杖を向けてたからね。」




 


 杖...そうだ思い出した。私に杖を向けている人がいた。だから杖を向け返したんだ。そんな気がする。


 杖を向けていた...ということはつまり彼は私に何か魔法をかけたのだろうか。




「あ、そうだ気分はどうだい?顔色はよくなってるみたいだけど。」




 そういえば、気持ち悪くない。酔いがさめたのか。いやそれはないだろう。私の三半規管の弱さは異常なぐらいだ。ちょっと気を失ったぐらいでは治るものでもない。現に私は勇者との旅の途中、聖職者の状態異常にかからなくなるバフ魔法をかけてもらいながら馬車などの乗り物で旅をしていた。


 バフ魔法...もしかして。




「あ、あのいくらお払いすればいいでしょうか。今手持ちがなく港町についてからになってしまうのですが...」




 彼はおそらく私に聖職者が使うバフ魔法と同じ魔法をかけてくれたのだろう。そうなってくるとただの親切ではすまなくなって来る。うちのパーティーの聖職者が有能すぎて忘れそうになることもあったが、この世界で光属性魔法をかけてもらうことは高額請求されることと同義である。一度まだ聖職者がパーティーにいなかったころ私と勇者が死にかけでさまよっている最中に出会った司祭に回復魔法を懇願したところ、辺境に一軒家を一つ買えるぐらいの請求をされたこともあった。最近は弱小冒険者に善意のように回復魔法を与え、高額請求やしばらく冒険で得た利益の一部を回収する契約をさせる司祭や聖職者もいると酒場のうわさで聞いたこともある。それぐらいこの世界には光属性魔法を使える者は少なく重宝されているということだ。


 今回もそのたぐいなのではなのだろうかと失礼にも恩人を疑ってしまったが故の発言だった。




「お金?いらないよそんなの。困っている人がいたら助ける。それが聖職者ってもんだろ。」


「え...」




 それは偶然なのか私のパーティーの聖職者の口癖なのか決め台詞なのかと同じセリフだった。

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