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プロローグ 逃げ出す

「私をパーティーに入れてください。」


 並ぶ机に酒と飯が並び、それら食って、しゃべって、吐いて...楽しそうなやつらが騒いでいる店内で一人の少女が私たちの酒と飯に頭を下げていた。いや正確には私たち全員に向かって頭を下げている。

 深々とその頭をわたしたちに下げてきたその銀髪の少女はエルフ族だろうか、長い耳を持ち、まだ幼さが残る顔つきをした少女だった。下げた顔の表情はわからないが、手や体が軽く震えていることが分かる。この告白にそれなりの勇気を出して臨んだのだろう。


「もちろん。大歓迎だよ。」


 勇者は即返答する。名前も職業も聞いていないが、勇者が認めたのならば問題ないだろう。私もほかのメンバーも異論はない。彼の人を見る目に間違えはないだろう。幼馴染の私が昔から見続けてきたのだ。その辺はよくわかっている。


「君の職業はなんだろうか。」


 勇者は聴いた。見るからに魔法師だろう。身の丈に合わないぐらいの大きな杖に異世界の魔法使いと言えばと言わんばかりのバカでかい帽子、それにエルフ族は魔法の扱いにたけたものが多いと聞く。


「魔法師です。属性は炎と氷です。」


 二属性使いか。私が一属性使いで炎のみだから完全に上位互換になるのだろうか。使える魔法の種類などもあるから一概には言えないが。

 でもこれはチャンスであることに間違えはない。彼女がいれば私はこのパーティーから抜けることができるだろう。抜けるどころか、このパーティーを追放される展開もあるかもしれない。

現にこのパーティーは魔王を倒すべく勇者が集めた勇者パーティーだ。光属性魔法を使うものの最高峰で、蘇生術の心得まで持つ聖職者と勇者や魔法師が安全に攻撃を入れるために前に出続ける割にほとんど死ぬことのない守備者。そして、剣術に加え全属性魔法を扱うことができる勇者がいるこのパーティーに一属性しか魔法の使えない私がいるのは場違いというものだろう。私も空気が読めないわけではない。何度も勇者や仲間にパーティーを抜けると伝えたが、パーティーに魔法師は必要だと引き止められていた。勇者は幼馴染のよしみでパーティーに残していたのかもしれないが。

 私よりも強い魔法師が来たのだ。私がパーティーに残る理由もないだろう。今夜あたり、勇者に話をすることにする。

 そんなことを考えながら今日のクエスト祝勝会兼新しい仲間の歓迎会は幕を閉じた。


「わたし、パーティー抜けるね。」


 淡々と勇者に告げる。この告白何回目だろうか。勇者はまたかと言わんばかりの顔をしている。それもそうだ。私が覚えているだけでも両手で数えられないぐらいこの話をしている。何度も同じ告白を繰り返すわたしもどうかと自分でも思うが、これだけ言ってもパーティー脱退を認めてくれない勇者もどうかと思う。


「またその話をするのかモモ。一緒に魔王を倒そうと誓ったじゃないか。」


 わかってる。昔その話をした記憶はある。でもそれ以上に今は、その理由を今勇者に打ち明けることはできないが、私はパーティーを抜けてやらなければいけないことがある。

 しかし、今日はいつもとは違う。彼女がパーティーに入った。私の代わり、いやそれ以上になる彼女がいる。だから今日は押し切れる。


「パーティーに魔法師二人もいらないでしょ。しかも使える属性がかぶっている魔法師なんて。」

「そんなことはない。」


 即答された。


「俺たちは魔王を倒すことが目的だ。冒険者として金を稼ぐことが目的じゃない。だから、仲間は何人いたって必要ないことはない。いざという時の仲間は多ければ多いほうがいい。そのほうが勝率も上がるだろうしな。現に俺たち一度も報酬の取り分や金の使い方でもめたことないだろ?俺が仲間に加える際に見極めていること知らないお前じゃないだろう。だから俺は俺が認めたやつは何人でも仲間にしていくつもりだし、仲間をいらないなんて言ったりしない。加えてお前は俺の唯一の幼馴染だからな。一緒に旅すると一度決めたからには最後までお前を守らせてほしい。これからも仲間でいてくれ。」


 ...正論をぶつけられた上に告白っぽいことまでされてしまった。こうなっては穏便にパーティーを抜けることはできないだろう。正直勇者がここまで私のことを思っていてくれたとは思わなかった。幼馴染としてもちろん私も彼が好きだし、彼があそこまで言ってくれたのはうれしかったし、かっこいいと思った。しかし、私のパーティーを抜けるという選択肢は変わっていない。


 こうなったら...逃げるか。


 これは最終手段だが今まではできなかった。パーティーに魔法師が私一人なために、一属性でもパーティーの重要な火力だった。しかし、今は彼女が入ったおかげで私の分の火力を補ってくれる。

私はパーティーを抜けたいが、このパーティーが嫌いなわけではない。むしろ大好きだ。だから、私が逃げて抜けることでこのパーティーが前に進めなくなるのは私としても嫌なのだ。

彼女のおかげで今まで使えなかった最終手段が使える。彼女に感謝しながら逃げよう。


 勇者との交渉が決裂し、告白されたその夜は、逃亡の決心をさせた。


 翌朝、勇者の突然の告白に思ったよりドキドキして気づけば朝になっていたその日勇者一行が起きるその前に勇者一行が進む方向と別方向に行く船に乗り、野望に向かって歩き出した。


...そう転生前の世界、地球に帰る方法を探して。


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