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助手席の彼女

掲載日:2021/12/02

この作品は、『第3回「下野紘・巽悠衣子の 小説家になろうラジオ」大賞』への応募作品です。

「運転って人柄が出るじゃない?孝介の運転は、とにかく優しいの。同乗者を大切にする気持ちが伝わってくる」


 君がそんな風に褒めてくれるから、単純な僕は調子に乗ってしまう。


「はー!免許なんか、要らないなあ……特等席だもん、孝介の隣」


 そんな彼女がある日、さめざめと泣きながら、こう言った。


「……私、免許取る」


 おいおい!

 えーっと、どういう風の吹き回し?

 “要らない”って言ってたじゃん。急にどうしたのよ?


 僕の心配をよそに、彼女は自動車学校に通い始めた。

 教官に補助ブレーキを踏まれるのは日常茶飯事で、終始危なっかしい彼女の運転に、僕の心はどうにかなってしまいそうだった。


 しかし、僕の不安をよそに、彼女は程なく運転免許を取得した。もはや、半分くらいは執念で取ったようなものだと僕は思っている。


「出発するよ!」


 ……大丈夫かなあ。

 張り切ってレンタカーを借りた彼女の顔は、緊張でガチガチになっていた。


「……よし!着いた」


 景気良く彼女が言う。

 車の外の景色は、色とりどりの樹木で埋め尽くされている。ちょうど紅葉が見頃だった。


「孝介と付き合って、初めて来た場所だよね。あの時もあまりにいい景色で驚いたけど、今日も綺麗だなあ」


 彼女の手には、一枚の小さな紙がある。


「……ひとりで、来れたよ」


 彼女が、その写真を抱きしめる。


「笑っちゃうでしょ、私が……免許なんて」


 気がついた時には、僕は、彼女を後ろから抱きしめていた。

 そんなことをしても、彼女には何ひとつ伝わらないことなんて、わかっていた。でも、そうせずにはいられなかった。

 力の入らない僕の腕に、それでも、力が篭もる。


 ーー今なら。

 今なら、彼女を“連れて行く”ことだって、できるんじゃないかーー?


「……また、来るね」


 彼女の小さな呟きに、僕はハッとした。


「来年も、再来年も……ここに、必ず来る。約束ね」


 彼女には、来年も、再来年も、そして、その先もあるのだーー僕にはない、未来(あした)が。


 僕は、彼女からゆっくりと手を放し、こう言った。


『……最後にここに連れてきてくれて、嬉しかった。それと……僕の車の助手席に座ってくれて、本当にありがとう』

「え?」


 彼女が振り向くと、燃えるように赤い一枚の葉が、はらはらと地面へ落ちていった。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。「なろうラジオ大賞3」へは、他にも幾つか作品を投稿しています。もしご興味がありましたら、ぜひ覗いてみてくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みはじめはラブラブな感じのお話かな、そして不穏な感じ?、ラストはせつない、たった1000文字のなかで読み味がどんどん変わっていく物語でした。
[良い点] あざとさがないところ。 私がこの手のお話を書いたら、絶対に「ドヤ?見事やろ?」とドヤ顔がチラついてしまうと思います。 [一言] 最後の一文に胸がギュッとなりました。 1000文字の八木ワー…
[良い点] 中盤あたりで、あ、これは……となりましたが。 最後まで読み、あぁやっぱり……!と、きゅうっと来ました。 響く人には痛切に響く作品だと思います。 ラストシーンの紅葉の描写が、とてもいい……!…
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