助手席の彼女
この作品は、『第3回「下野紘・巽悠衣子の 小説家になろうラジオ」大賞』への応募作品です。
「運転って人柄が出るじゃない?孝介の運転は、とにかく優しいの。同乗者を大切にする気持ちが伝わってくる」
君がそんな風に褒めてくれるから、単純な僕は調子に乗ってしまう。
「はー!免許なんか、要らないなあ……特等席だもん、孝介の隣」
そんな彼女がある日、さめざめと泣きながら、こう言った。
「……私、免許取る」
おいおい!
えーっと、どういう風の吹き回し?
“要らない”って言ってたじゃん。急にどうしたのよ?
僕の心配をよそに、彼女は自動車学校に通い始めた。
教官に補助ブレーキを踏まれるのは日常茶飯事で、終始危なっかしい彼女の運転に、僕の心はどうにかなってしまいそうだった。
しかし、僕の不安をよそに、彼女は程なく運転免許を取得した。もはや、半分くらいは執念で取ったようなものだと僕は思っている。
「出発するよ!」
……大丈夫かなあ。
張り切ってレンタカーを借りた彼女の顔は、緊張でガチガチになっていた。
「……よし!着いた」
景気良く彼女が言う。
車の外の景色は、色とりどりの樹木で埋め尽くされている。ちょうど紅葉が見頃だった。
「孝介と付き合って、初めて来た場所だよね。あの時もあまりにいい景色で驚いたけど、今日も綺麗だなあ」
彼女の手には、一枚の小さな紙がある。
「……ひとりで、来れたよ」
彼女が、その写真を抱きしめる。
「笑っちゃうでしょ、私が……免許なんて」
気がついた時には、僕は、彼女を後ろから抱きしめていた。
そんなことをしても、彼女には何ひとつ伝わらないことなんて、わかっていた。でも、そうせずにはいられなかった。
力の入らない僕の腕に、それでも、力が篭もる。
ーー今なら。
今なら、彼女を“連れて行く”ことだって、できるんじゃないかーー?
「……また、来るね」
彼女の小さな呟きに、僕はハッとした。
「来年も、再来年も……ここに、必ず来る。約束ね」
彼女には、来年も、再来年も、そして、その先もあるのだーー僕にはない、未来が。
僕は、彼女からゆっくりと手を放し、こう言った。
『……最後にここに連れてきてくれて、嬉しかった。それと……僕の車の助手席に座ってくれて、本当にありがとう』
「え?」
彼女が振り向くと、燃えるように赤い一枚の葉が、はらはらと地面へ落ちていった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。「なろうラジオ大賞3」へは、他にも幾つか作品を投稿しています。もしご興味がありましたら、ぜひ覗いてみてくださいませ。




