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箱庭転生  作者: にーと帝国
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神、箱庭を造る

 真っ白の明るい部屋に全裸で痩せ細った髪の毛の一本すら生えていない老人が一人立っている。他に何もない。老人は真顔で読者に話しかける。

 私は神。日本には八百万の神がいる。そうゆうことになっている。

 そう、私はその神の一人だ。え?名前を知りたいだって?

 神に質問するんじゃねえ!神に質問していいのは神に認められた奴だけなんだよ!


 私はあまりにも長い間この世界を見守っていたが、最近は飽きてきたので別の世界を作ることにした。

 今の人間界にはない、魔法という概念のある世界だ。どうだ、わくわくしてきただろう?

 あらゆる種族の生物が魔法を使える、所謂ファンタジーの世界だ。


 世界を構築し、原始の生物を神の力で誕生させ、生物に魔力を与えてみた。

 生物たちが長い歴史の中で魔法の使い方を理解し、生活を豊かに、あるいは生存競争の道具に使う。

 この箱庭が私の想像するファンタジーの世界になるのを気長に待つつもりだった。そう、だったのだ。

 魔法の力を得た生物は、他の種族との競争に勝つために持てる魔力を放ち合い、瞬く間に世界は崩壊した。

 人間などの動物が存在するよりも前に、それこそ細菌などの生物しかいない時代で私の箱庭は消滅してしまったのだ。破滅する世界を見ていたが、これはファンタジーと呼べるものではなくSFに近いだろう。SFが何なのか知らんけど。


 魔法の概念を構築し直す必要がある。先ほどの世界は生物に魔力を与えたが

 今回は火、水、土、木、風、光、闇、それぞれに魔力を帯びさせ、生物には魔力を引き出し制御する力を与えることにする。

 自然に備わる力と制御する力のどちらを魔力と呼ぶのかは箱庭の生物達に任せるとしよう。

 ほとんどの生物が魔力を扱えるように世界を構築するが、平等は面白くない。

 強大な魔力を扱える者や、ほとんど扱えない者も誕生させる。強いものと弱い者がいる世界が見たいのだ。

 生物は歴史の中で自然に備わる魔力を発見し、理解していくことで徐々に私が理想とするファンタジーの世界が実現する。そうであってほしい。


 握った左手を胸に当てると、小さな黒い粒が手の中に現れ徐々に大きくなり丁度掌に収まるほどの大きさの球体となった。

 球体を手から離すとゆっくりと落ちていく。床にぶつかるとともに球体を中心に闇が満ちた。果ての見えない闇。部屋が箱庭へと変わったのだ。

 右手の人差し指から淡い光を纏った雫を垂らす。生命の誕生である。永い時の中、様々な色の雫を垂らし続ける。期待が膨らみ笑顔を崩せなくなってしまった。

 これくらいでいいだろう。そろそろ時間を進めよう。

 急速に時が進む。

 強大な魔力を扱う物に数で圧倒し戦いを挑む小さき者。

 魔力は持たないが自然を活用し環境に適応する者。

 異なる種の生物が競争し、変化する環境に適応する光景が矢継ぎ早に映し出される。

 ある時、神は時の流れを止めた。

 木々を切り開いて造られたであろう小さな町、城壁に囲まれた巨大な街、魔力を込められた木を杖にして歩く人、風を操り船を動かす人、そして争いが映し出される。

 理想の箱庭が完成した。

「それでは、この世界を楽しんでくれそうな者を連れてくるとしよう」

 神は現実世界へと目を向けた。

 神の目は対象の年齢、名前、寿命、趣味、他人には恥ずかしいことなど全てを写すことができる。この力を以て箱庭で第二の人生を楽しむのにふさわしい人材を見極めるのだ。

「むりやり連れてきたりはしないぞ?私は死神ではないのでな」

 と、読者の方に目を向けながら神は言った。




 真夏の昼間、男はアパートの二回へと続く階段を上りながら街並みを眺めていた。

 曇り空の中、一部では太陽の光が差し込んでいる。

(見飽きた街並みだが偶には空も見てみるもんだな。)

 無言のままアパートの一室へと入った。201号室へ。

 家具は冷蔵庫にテレビ、テーブル、パソコンといった生活必需品しかない。

 帰るやいなや、浴室へ。家を出る前に浴槽に貯めて置いた水で外出後の汗を流し体を冷やす。

 冷蔵庫にあるものを適当に食し、ネットを見た後、目覚まし時計を午前0時に設定しているのを確認しエアコンを付けて寝る。新聞配達のバイトに生活を合わせているのである。これが彼の毎日繰り返される一日の流れであった。

 しかし、今日はいつもとは違った。

(ピンポーン!)

 目覚まし時計をセットしたときに、インターホンが鳴った。

(夜型だとこれが嫌なんだよなぁ。人が寝ようとしている時に変な営業とか来るし…)

 玄関のドアを開け誰が来たのか確認しに行くと、そこには髪の毛の一本すら生えていないタンクトップに短パンの老人が笑顔を崩さずじっとこちらを見ている。

(何しに来たんだよ…)

 と心の中で呟いた。話しかけてこないので営業ではないのだろう。不審者かな?

 ドアを閉めようかと考え始めるころに老人が笑顔を崩さず話しかけてきた。

「真夏の一番暑い昼から涼しくなる夜までしかエアコンをかけない。いやいや、合理的だ」

 ドアを閉めよう。なんで俺の生活を知っているんだ?とか、こいつはやばいという感情よりも先にドアを閉めることを本能的に選んだ。俺の生存本能が直感に働きかけたのだ。しかしドアは閉まらなかった。

 ガンッ!という音がドアの下の方からした為目線を落とすと老人がドアの隙間に足を挟んでいた。

「倉内健斗、22歳。高校卒業後実家を飛び出し上京したのはいいものの、やりたいことが見つからず今に至る。そして、新聞配達中にトラックに轢かれ、明日死ぬ。これは運命だ。でも大丈夫。まだ見ぬ世界を冒険する喜びと苦難を乗り越えた先に感動が溢れる世界を用意した。第二の人生を楽しんでくれ」

「ジ、ジジイ何言ってん…あれ、いない?」

 先ほどまで俺の目の前にいた、新興宗教の勧誘なのか犯行予告なのか分からないが、笑顔を浮かべた狂気的な老人は幻であったかのように消えていたのだ。

(一体何だったんだ…)

 とは思ったものの、考えすぎると眠れなくなりそうだし、明日のバイトの為にとにかく寝よう。

 おやすみ。

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