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千〜sen〜  作者: こがね色
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1章 『千里』 視線3




孤児院の職員が朝食の支度や洗濯、掃除を終わらせ一段落した頃、孤児院の外で若い男が右往左往していた。それはいかにも怪しい風貌で、虫すらも近寄らなかった。




職員の1人がカーテンの隙間から男をちらりと見てため息をついた。




「いつまであそこで何をしてるのかしら…気持ち悪い…」




さっとカーテンを閉め、お茶をすする。向かいに座っていた裕子は静かにティーカップを置いた。




「また狐高教を否定する者でしょう。いい加減消えていただかないといけませんね。」




「院長が自ら出迎えるまでもありませんよ。私が行きましょうか」




職員が立ち上がりドアノブに手をかける。




「お待ちなさい。私が行くわ。」





裕子は意味深な笑みを浮かべた。




その頃、男は呪文のようにブツブツ呟きながら孤児院の一室を見つめた。最上階の隅の部屋。千里の部屋だった。




「ああ…どうしようか…俺明らかに怪しいよな。」




男は無造作な癖のある髪型に、上下つなぎのような服を着ている。無精髭も生えている。




「……!!!」




門から裕子が歩いてくるのが見えた。男は軽く会釈すると裕子と向かいあった。




「我が孤児院になんの御用ですか?」




「これはこれは院長自ら来て頂けるとは。」




「何の御用かと聞いているんです。」




少し苛ついて話す裕子。男はにひひと笑いながら答える。




「狐高教に些か興味があるんです。あなた方が崇拝する狐様をね。いやぁ、こういったオカルトは大好きでしてね、はい。」




「狐様をオカルトで片付けるとは無礼ですよ。」




「これはこれは失礼しました。いえね、俺が用があるのはあの部屋に住むお嬢さんですよ。」




男は最上階の部屋を指差した。またにひひと笑みを浮かべる。




「あなたのような身元不明な方と子供を会わせることはできません。お帰り下さい。」




「名前なんていうんですか?あの部屋の子。」




「警察に突き出しますよ!!!」




裕子は男を軽く押し、帰るように促した。

男は少しよろめき、ため息をついた。




「これは参った。孤児院の子に会うのって大変なんですねぇ。」




「……」




「最後にお聞かせ下さい。上山裕子院長、いや、教祖とお呼びしたほうがよろしいか。」




「……」




「あなたは何故この狐高教を広めようと思ったのですか?」




裕子は一瞬呆気にとられたような表情を見せたが、すぐに戻った。




「私が狐様の血を引いているからです。狐様に全てを任されたのです。……これ以上はもうあなたに話す必要はありません。お帰りください。」




「そうでしたか。貴重なお時間を割いてしまって申し訳ありません」




男はくるりと向きを変えて遠ざかっていった。

裕子は歯ぎしりしながら拳を握った。




千里は部屋に茉莉がいないか確認すると、部屋の中に入りベッドにダイブした。なんだか朝からやけに疲れた気がする。




「はじめからこうやって会いにくればよかったな。」




「!?」





ベッド脇に誰かが立っていた。

にひひと笑みを浮かべながら千里を見下ろしていた。




「おまっ…誰だよっ」




「シーッ静かに。俺、怪しいもんじゃねぇからさ」




いつのまに部屋に入ったのだろう。この孤児院には男の職員はいなかったはずだ。男は癖のある髪型に無精髭。先程裕子と話していた男だった。




「なに?強姦でもすんの?」




特に驚きもせず淡々としている千里。その様子に男はヒューッと息を吐いた。




「驚かないの?クールだねぇ」





千里は男を睨み付けた。早く出ていて欲しい。




「まあまあ睨むなって。俺は屋敷川宗雅。陰陽師みたいな超能力者のようで……えっとその…」




「は?」




しどろもどろしながらごまかす宗雅に呆れ果てた。どうやら悪い奴ではなさそうだが、それにしても胡散臭い男だった。




「俺は霊や妖怪と互角に渡り合える唯一の男でね、ある妖怪を探してるんだなあ」




「は?」





この男は何を言っているのだろうか。院長みたいなことをいう奴だ。




「その妖怪はですね、この辺じゃ神様と崇められてるんですよ」




「神様?この辺の神様っていったら狐様ぐらいじゃ…」




「その通り!!!」




お見事!!!と言いながらベッド脇に座り足を組む。

すると懐から一枚の紙を取り出した。




「白面金毛九尾の狐、または九尾ノ神です。」




「九尾ノ神…」




どこかで聞いたような…

いかにも胡散臭い話である。




「上山はこの九尾ノ神の信仰を元に宗教を立ち上げたようだが…九尾は人を敬ったりしない。残酷で慈悲の欠片もみせない妖怪だ。」




「だからなんだよ。ここの院長の言う狐様がなんなのかわかった。早く出てってくんねぇかな。」




「そういわずにぃ〜。君に話したいのはそれだけじゃないんです。」




宗雅は急に表情を変えた。目は千里の姿を凝視しているかのように鋭かった。

千里はシーツをギュッと掴んだ。




「昨晩、ここから妙な妖気を感じたんです。ほんの一瞬ね。」




「…あ」




千里は昨晩の気配を思い出していた。背中に張りつくような冷たい恐ろしい気配を。




「心当たりがあるようですね。」




「なあ…」




「なんです?」




千里はゆっくり顔をあげる。昨晩の気配が再び現れたような感覚が脳裏によぎる。




「変な霊みたいなのならいたかもしれない…」




宗雅はゆっくりと口角を上げた。




「私を狐様が祭ってある神社に案内してもらいたいのですが…」




「いいよ。……はぁ、院長や茉莉が言うとおり、狐様はいるのかもしれない…な」




院長や宗雅がいう残酷無慈悲な狐様と茉莉が言うそうではない狐様。

どっちが本当か知りはしないが、いい暇潰しになるかもしれない。




狐様がいるかいないかなんて正直どうでもいい。今はこの宗雅という男との遊びを楽しもうではないか。






視線 end

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