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千〜sen〜  作者: こがね色
14/18

1章 『千里』 ちる3



少女の姿が消えると、裕子はカーテンと窓を開けて千里に外へ出るようにと促した。乃亞に手を引かれ、窓に足をかけた。




「ちょっ待ってくれよ!!宗雅がまだこの施設の中に…!!!」




「安心して。千里ちゃん。私が移動させたわ」




茉莉は宗雅の対処をしていたようだが、いつのまにしたのだろうか。




「宗雅は今どこに!?」




「9里程先の空き家よ」




「9里!?」




千里は乃亞に背中を押されて外へ出た。

裕子は若干疲れた顔をしている。




「茉莉は一日に一回生物を遠くへ瞬間移動させる能力を持っています。」




「すげえ…」




茉莉の意外な能力に驚き、尊敬の眼差しを向ける千里。




「本当は千里ちゃんの為に使うつもりだったのにね。あの陰陽師もどきを救うのは千里ちゃんの願いだったから仕方がないわ」




茉莉は頬を赤らめてそっぽを向いた。どこか捻曲がった性格のようだ。




「陰陽師もどきはもう一人の(しもべ)が面倒を見ています。ご安心ください。」




「そうか…」




千里は宗雅が無事と知って安心した。




「乃亞達はさ…狐様の僕なのか?」




「はい。忠実な僕です。姫はとてもお優しく、ぼく達僕を対等に見てくれます。」




狐様は残酷な妖怪じゃなかった。宗雅は狐様を恐ろしく残酷な妖怪と勘違いしているようだ。誤解を解かなくてはならない。




「狐様…また会えるかな?」




「会えます。姫が負けるはずがありません。」




そうだよな…と呟いていると真上から何かが降ってきた。




それはとてもシュールな姿でなんとも可愛らしかった。




「お待たせー!!!」




ぴょんぴょんとソレは跳ねて、千里の肩に乗った。




兎叉(うさ)!!!」




兎叉と呼ばれるその生き物は、漫画に描いたような簡単な兎の顔に蜘蛛のような足が生えている奇妙なものだった。足の先には綿のようなものがついている。

3センチメートルくらいの大きさだ。




「兎叉32号、只今参りました!!!」




糸のような手足?で敬礼する謎の生き物。




「か…可愛い…」




千里は思わず指の腹で頭を撫でた。兎叉は気持ちよさそうに目をキュッと瞑った。




「恐悦です!!千里様…」




兎叉は頬を赤らめ、千里の肩から降りた。

素早い動きで乃亞の手のひらに乗った。




「兎叉、僕達を全員あの小屋に運べるね?」




「了〜解です!!!!」




兎叉は乃亞の肩から降りると急に輝き始めた。

周囲から風が巻き起こり、光と砂ぼこりでその姿を隠すと光は一気に増大した。あまりの突風に千里は腕で顔を隠した。




「…うわぁ」




やがて光が消えて風が止むと、そこにいたのは先程の可愛らしい姿とは正反対のものがいた。

身体はライオンより一回り大きく、美しく透き通ったワイン色の蝶の羽が生えていた。兎叉は目も鋭く勇ましい姿の兎獣だった。




「お乗り下さい、千里様」




声も若干低くなっていた。千里は迷う事なく兎叉の背中に跨った。続いて裕子、乃亞、茉莉も乗る。




「しっかり捕まっていて下さい。」




兎叉は少し地面を掻くとふわりと空へ舞い上がった。




「うわあ!!!と…飛んだ!!!」




千里は驚き、心臓がバクバクいっていた。高度がややあるので、兎叉の首元のふわふわな毛にへばりつくように捕まった。




「兎叉32号は他号のものに比べるとスピードに長けています。最高速度は音速を超えるのでお気をつけ下さい。」




「え」




乃亞の言葉を聞いて一気に青ざめた。そうしている間に蝶の羽が一羽ばたきし、光のように空を翔け出した。




「ぎぃやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!はや…はやいって…ば!!!」





あまりの速さに喋ることもままならなかった。

怖くて周りの景色を拝む余裕もなかった。




「申し訳ありませんっ…千里様…!!!少しご辛抱を!!」




「もっと速度を落とせってばかやろっ…!!!ぎぃやああああああああ!!!」




山が、森が、空が…

まるで流れ星のように通りすぎていく。

千里はジェット機にでも乗った気分だった。




「すげえよ兎叉!!!」




「お褒めのお言葉ありがとうございます!!!!」




兎叉は嬉しかったのか、更にスピードを上げた。

千里は振り落とされそうになり完全に思考回路はショートした。裕子は気絶している。




「32号、調子に乗るな!!!!!!!!!」




乃亞の説教も聞き入れず、兎叉は広い空を翔けていった。

………兎叉の尾に黒いアゲハ蝶がとまっていることも知らずに。






そのころ狐妖怪の少女は狐様の銅像のある神社の境内にいた。寂しい風が境内を吹きわたり、少女は静かに目を開けた。




「……1000年ぶりかしらね。……藍花」




少女は綺麗な金髪をなびかせて、上空を見上げた。

すると散々孤児院を襲い、暴れ回ったあの黒アゲハが大量に舞い始めた。

黒アゲハは一点に集まりはじめ、やがて人の形を成してきた。




―フフフフフ…キャハハハハハハっ!!!!!!!!!!!




甲高い笑い声が神社全体を包み込む。

一気に暗く冷たい空気に変わった。

少女は何かを決心したようにその目に光を宿らせた。

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