ヒドイギャンブル
「博打においての勝者は、全く賭けない者と、勝つまで賭け続けられる資金を持つ者」
「賭けた時点で負け、もしくは賭ける前から勝っている...。随分と悲観的だな」
トキコは手元のコインをはじく。
「でも賭けなけらばならない。では賭けから降りることができない弱者はどうすればいい?」
宙を舞うコインはトキコの手のひらと甲あいだに収束する。
「そりゃ、選ぶしかない。運が良ければ勝てるかもしれないんだからな」
「じゃあ、このコインは裏?表?」
「...言っておくが、俺は今担保になるものは何にも持っちゃいないぜ?」
「でも"選ぶしかない"、あなたはそう言わなかった?」
トキコは微笑を浮かべる。
「二つに一つ。一か八か。...いや、選ばないでずっと待ち続けるってのは?」
「結果を知らなければ、敗者になることはない。それは可能性を永遠に保持し続けるってことだけど、それでいいの?あなたは?」
「つまらない人生だろうな。勝つ喜びもなければ、負ける悔しさもない」
「絶望なき人生もまた不幸。ならやっぱり賭けてみる?」
「そうだな。ところであんたは"博打においての勝者は、全く賭けない者と、勝つまで賭け続けられる資金を持つ者"と言ったが、勝者はもう一人いるぜ。」
そういうと、男は大声で人を呼んだ。
「なんですか先輩。僕もあなた暇つぶしに付き合うほど、人は良くありませんよ?」
呼ばれたタダオは、不機嫌そうな顔で椅子に座った。
「おい、タダオ。一枚コイン出せ。嫌な顔をするな。いいから早く」
言われるままタダオがコインを手渡す。
男は手元のコインをはじく。
宙を舞うコインは男の手のひらと甲あいだに収束する。
「コインは裏か?表か?選べ」
「え?えっと。じゃあ表?」
男がコインの上にかぶさっていた手をどけ、ニヤリと笑う。
「裏。お前は間違えた。このコインはもらうぜ。嫌な顔するな。いいから敗者はおうちに帰んな!」
タダオがうんざりした様子でため息をつき、退出する。
「トキコ、もう一人の勝者ってのは、胴元さ。弱者がのし上がりたいなら、そのまた弱者からせしめ取ればいいのさ」
「それって、"選ぶしかない"ってあなたが言った選択を、他人にやらせただけなんじゃないの?」
「なーに。選んだ本人はそのことにすら気づいちゃいない、いや気にしていないと言った方がいいか。これこそ平和だろ?」
トキコは微笑を浮かべる。
「じゃあ、これは裏?表?」
「なら...、裏だ!」
トキコは手の甲とひらを離す。
そこには何もなかった。
「おい、これはどういう腹積もりで...?」
「選択はどちらも間違っている。こっちの方がより現実味があるでしょ?では、あなたは間違えたからコインは回収」
トキコは唖然とする男の手からコインを取り上げ、立ち去った。