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希望に満ちた入学式、初めてのおともだち

「……ふぅーん。アンタは大昔の剣士で、死んだあと幽霊になって、今は何の目的もなくブラついてる……ってことね」

「そうそう、俺が見える奴は嬢ちゃんで四人目だ! 久々の会話は楽しいなあ……憑りついていいか? 困ったことがあったら協力してやるからよ!」

「何ソレ、気持ち悪い。イヤよ」

「まあ嫌って言われても憑りつくんだけどな!」

「ハァ!?」


 露骨に嫌な顔をする少女を無視して、彼女の後ろを着いていくことにした。


 着いてくる俺を見て、彼女が少し早足になる。それに合わせて俺も早足にすると、彼女の歩みはもっと速くなる。更にそれに合わせて俺も歩みを速くすると……ということを続けている内に、最終的にはほぼ全力ダッシュになった。


 そんなことをしていればあっという間に目的地に辿り着くわけで。俺と彼女は二人仲良く校舎の玄関でゼェゼェと息を切らしていた。


「ハァ……ハァ……何でアンタまで疲れてんのよ……」

「いや……幽霊になってからも……生前の体力が、適応されてるみたいで……」


 病に侵されていた俺にとって全力ダッシュは非常にキツい。少女に向けられる周りの視線を感じとりながら、息が整うのを待っていた。


 それにしても、果たしてどこに向かっているのだろうか? これから長い付き合いになるのだし、少しでも彼女のことを把握しておきたい。未だに乱れている呼吸を抑えて、彼女に話しかける。


「なあ、今ってどこに向かってるんだ?」

「……アンタ馬鹿なの? 学校に来てるんだから、教室に向かうに決まってるじゃない。まあ、今日は入学式だからすぐに別のトコに行くと思うけど……」


 そう言いつつ、俺と違って既に息を整えた様子の彼女は下駄箱に靴を入れ、手に持っていた袋から上履きを取り出すとそれを履いた。


「学校かー。何度も覗いたことはあるけどあんまり面白そうじゃなかったな」

「何よその感想。……ああ、アンタは学校に通ったことが無いのか。別にそう楽しいところでもないわよ。勉強するための場所なんだもの。精々友達と会えて嬉しいくらいのものね」


 そう言いながらスタスタと廊下を歩いて行く彼女に、慌てて着いていく。

 ……幽霊なんだから、こう、浮きながらスィーっと行けないものだろうか。


「あ、そう言えばまだ名前を聞いてなかったな。俺は総司!」

「……芹沢 かもめ」


 遂にコイツに名前を教えてしまった、と言わんばかりの表情で名前を呟くかもめ。


「馴れ馴れしく呼ばないでよ? 私はまだアンタが憑りつくこと認めてないんだからっ!」

「わかったよかもめ」

「だから馴れ馴れしく呼ぶなって――」

「それよりさ、そんな大声だすと目立ってるぜ?」


 俺と彼女の周り。そこには多くの新入生たちがかもめのことを奇異の目で見ていた。

 俺がほかの人物からは見えないということを思い出したかもめは、顔を真っ赤にして声にならない叫びをあげる。


「―――っ!!」


 それから暫く、かもめは何を言っても俺のことを無視するようになった。



◇◇◇



 あれから教室に行って教師と生徒たちの顔合わせが行われると、すぐに体育館に向かって入学式が行われた。


 しかし内容は来賓やら校長やらよくわからない人がたくさん長い時間話しているだけのものであったため、すぐに退屈した俺は後ろのほうで剣を振るっていた。

 かもめも同じく退屈した様子で、何度か舟をこいでいる。……いや、俺はともかくコイツは入学式なんだからもっとシャッキリしていないとダメなんじゃないだろうか。他人事ながら、少しだけ不安になる。


 そして無事(?)入学式が終わると、ゾロゾロと立ち上がるみんなに釣られてかもめも飛び起きる。どうやらまた教室に戻るようだ。


「なぁお前、流石にあの場で寝るのは不味かったんじゃないか?」


 廊下をゾロゾロと歩く途中、そう話しかけるとうるさいと言わんばかりに睨み付けられる。

 開き直りにもほどがあると思ったが、大人しく黙ることにした。すると、先ほどの入学式でかもめの隣に座っていた少女がかもめに話しかける。


「……ねぇ、さっき寝ちゃってたみたいだけど、体調とか大丈夫?」

「うぇっ!? あ、うん。全然大丈夫!」


 どうやら眠っていたかもめを気遣っているようだ。恐らくただ退屈だから眠っていただけであろうかもめは純粋な厚意での声掛けにドギマギとしながら言葉を返す。


「そっかー、それなら良かった! あの夏目さんのお話の時も眠っちゃってたんだもん、心配しちゃった。それにしても凄いよねえ、ここ。現役のトップ異能戦士も簡単に呼べちゃうんだもん!」

「あー、うん、そうだね。……………夏目さんって、誰……?」


 おいおい、マジかコイツ。ボソリと呟かれたかもめの言葉に思わず面食らう。夏目(なつめ) 雷堂(らいどう)のことなら幽霊の俺でさえ知ってるぞ。コンビニで雑誌を立ち読みしてる奴に重なって立ち読みをするのが最近の趣味なんだ。少しくらいなら有名人のことも知っている。


 夏目は若手の異能戦士で、将来の日本を牽引するホープと言われている男だ。

 異能戦士というのはそのまんま異能を用いて戦う者のことで、近代になって発生した職業だ。戦闘能力の高い者は政府お抱えとなって軍部に深く関わるという噂もあるが……まあ、真相は俺も知らない。


 そしてその夏目はここ帝国高校のOBらしく、今日の入学式に呼ばれてやって来たと言う訳だ。


「この学校の卒業生は異能戦士にならなかったとしても、超大手企業の異能技師とか何にせよ将来は約束されてるもんね~! 本当に合格できて良かったー!」

「そ、そうね! 私は異能戦士を目指してるけど。ここは高校の大会でも強豪だから……」


 コイツ、異能戦士を目指してるくせにトッププロのことを知らないのかよ。

 まあ日本でトップと言われている帝国高校に入れている時点で何かしらすごい力を持っているのだろうが……。


「えー、すごーい! 異能戦士目指してるんだー! えーと、あ、まだ名前聞いてなかったね。将来の異能戦士の名前を聞いておこっかな~! 私は北条 桜。よろしくね!」

「うん! 私は芹沢かもめ、よろしく!」


 俺に名乗ったときとは随分なテンションの違いだが……まあ、大目に見てやろう。この学校で初めての友達なのだ。

 俺は数時間前に出会った少女の父親面して後ろで見守っているのであった。

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