幽霊と刀と美少女と
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
「おい。今落ちたハンカチ、お前のだろ」
「――あれ? 俺のハンカチが無いぞ。どこかに落としたかな……」
「そこのお前、親があっちで探してたぞ」
「――もうっ、入学式からお母さんとはぐれるなんてえ! 一体どこにいるのよー!」
桜舞い散る入学式。日本の高校の頂点、約100年ほど前に政府が直々に設立した帝国高校のそれの中、新入生の一人である私は奇妙な男を見た。
おかしい点は幾つもある。まず一つ目は、彼の服装。
――着物だ。それもかなりしっかりしたものである。今時あんなものは京都にでも行かないと見れないだろう。更には腰に刀らしきものがぶら下がっている。『帯刀許可』を持っていなければ犯罪だ。
二つ目。見たところ歳は20代前半ほどだが、父兄として誰かと一緒に行動するわけでもなく、ベンチに座ってのほほんとしていたり、歩いているときもフラフラとまるで散歩のようにしている。
制服を着ていないのだから間違っても生徒ではないだろう。そして仮に誰かの父兄ではないのだとしたら、完全にただの不審者である。どうやってあの校門での厳しい検査を潜り抜けたのだろうか。
――そして、三つ目。今挙げたように明らかにおかしい点があるのに、誰も注目していない。
彼が声をかけようと、彼の目の前を通り過ぎようと、誰一人として一瞥も彼にしていないのだ。
おかしい。明らかな不審者が敷地内に堂々としているのに、何で誰も無視するのか。まるで、私とは違って見えていないかのように。
こうなっては仕方がない。これから入る学校に不審者がいて、かつ誰もそれを何とかしようとしないのであれば、私がどうにかするしかないだろう。
そう決心した私は、その不審な男に声をかけることにした。
「――ねぇ、アンタ。一体そこで何してんの?」
推定不審者は、まるで目立ってないとでも思っていたのか、私に話しかけられたことにひどく驚いてこちらを見た。
◇◇◇
吾輩は幽霊である。名前は総司。
某明治の文豪の著を思い返しながら、フラフラと今日も当てもなく歩く。
はるか昔、ずっと昔、わんすあぽんあたいむ、剣士としてそこそこ名を馳せていた俺は病気であっけなく死んでしまった。晩年はほとんど寝たきりであって、とても大往生とは言い難い終わり方であった。
だからだろうか。死体は墓に埋められ、閻魔様のところへ行くはずだった魂は未練たらたらに現世へしがみ付くことに成功してしまったのである。
そうなってからの俺はまさに自由だった。通り抜けようと思えば壁なんてものは無いに等しく、好きなところへ行けて好きなことを出来た。時間も無限に等しく、生きている頃と比べ物にならない程好き勝手していた。
ただまあ、どんなに自由でも話し相手のいない生活なんてのはすぐに飽きるわけで。俺は次第に人との関わりを求めるようになっていった。
そんな中、俺のことを見える奴にも出会った。すぐに俺は幽霊としての力を活かし、その人物との協力体制を築いた。と言っても、話し相手になってもらうだけで、後は偶に憑依させてもらって他人と剣で戦わせてもらうだけのものだが。
そういった奴は長い幽霊人生の中でも三人。中には俺の力を悪用しようとする奴もいたが、まあ人に飢えていた俺はある程度は協力してやった。
とはいえそれも昔の話。みんなやがて老いていき、幽霊である俺を置いて行く。
見える奴らって言うのは当たり前だが多くない。一人を失うと、もう一人見つけるのには非常に時間がかかる。
恐らく俺が見えるのには『異能』が関係しているのだろう。誰しもが持っている、超常的な能力。
かつての天下人、平清盛はその異能で海を割り、西方の偉人、レオナルド・ダ・ヴィンチは一万の異能を保有していたと言う。
当然俺も持っている。幽霊になってからはとんと使う機会が無くなったが。
まあ要するに何が言いたいかというと。星の数ほどある異能の中で、『幽霊が見える』なんてピンポイントな力を持つ存在なんてのはそうそういないのだ。
――だからこそ、彼女との出会いはまさしく“運命”とでも言うべきものなのだろう。
「お嬢ちゃん、俺が見えるのかい?」
「――何言ってんの。丸見えよ、この不審者が」
こうして俺と彼女の奇妙な生活は、とりあえず警備員を呼びに行く彼女を止めるところから始まった。