表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編「デートってわけじゃないんだから」

   

 一人取り残された私は、何か他に手頃な値段のCDはないか、物色を続けていたのだが……。

「はい、これ」

 スッと顔の前にCDを出されて驚くと、篠塚くんだった。清算を済ませてきたのだろう。

「いやいや、私が先じゃなくて、篠塚くんが聴いた後で構わないから……」

 と言いかけて、言葉が止まってしまう。

 買ってきたシュッツのCDは、きれいな紙に包まれて、リボンまでかけてあったのだ。どうやら贈答品用の包装をしてもらったらしい。

「……なんで?」

「ただ俺がプレゼントしたい、って思ったから」

 ポカンとした顔で問いかける私に、少し照れたような声で答える篠塚くん。

 私としては「なぜプレゼント包装を?」と尋ねたつもりだったのに、篠塚くんの方では「なぜプレゼントするのか?」と受け取ったようだ。これはこれで、私の疑問を解消する回答になるのだけれど。


 ……と一瞬納得しかけたが、よく考えると、やっぱりおかしい。私は、大きく首を横に振った。

「いやいや、篠塚くん。500円や1,000円ならまだしも、こんな高価なものだと、理由もなくいただくわけには……」

「いいじゃん。俺の気持ちなんだから」

「でもねえ? 私、誕生日だって、まだ二ヶ月後だし……」

「じゃあ、少し早い誕生日プレゼントということで!」

 私の言葉に、凄い勢いで食いついてきた篠塚くん。

 ちょうど良い口実と思ったのだろうか。照れ笑いとは違う、本当に喜んでいる感じの笑顔。でも、その下には、拒絶されたらどうしよう、という困惑の色も透けて見える。

 男性に対する表現としては変かもしれないけれど、心の中で「篠塚くん、可愛いなあ」と言いたくなるような表情だった。


 そんな彼を見ているうちに、ようやく私も気づいた。

 ああ、そういう意味だったのか。私がシュッツを好きだと知っていたのも、少しシュッツについて勉強していたのも、そういう理由だったのか。

 ならば……。

「そこまで言われたら、さすがに断れないわねえ。じゃあ、ありがたくいただきましょう。うん、欲しかったCDだし……。ありがとう、篠塚くん。嬉しいわ」

 とってつけたような私の「嬉しいわ」よりも、むしろ贈り主である篠塚くんの方が、とても嬉しそうだった。

 だから、もう少し別の形で、私は感謝の気持ちを表現してみる。

「とりあえず、どこか喫茶店にでも行かない? お礼に奢るからさ」

「おっ、小原と二人でお茶するなんて、初めてだな」

「そうだっけ?」

 と、とぼけながら、軽く釘を刺しておくのも忘れなかった。

「デートってわけじゃないんだから。あんまり大げさに考えないでね、篠塚くん」


 彼と並んでCDショップを出ながら、チラッと横目で様子をうかがう。いくらか緊張しているようにも見えるのだが……。

 私の方は、今まで篠塚くんを恋愛対象として意識していなかったから、まだまだ気楽だ。

 とりあえず今日のところは、CDをプレゼントされただけ。もしも今、篠塚くんの気持ちまで贈られたら、少し困ってしまうけれど……。

 いつかは、そちらも受け取れる日が来るのかな?

 そう考えると、なぜか私の顔も、少しニヤけてしまうのだった。




(「いつか受け取る贈り物」完)

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ