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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

5分で読める恋愛小説

今日私はあなたとの婚約を解消します。

作者: ありま氷炎


 私たち、カライの民は生まれた時は皆、男の子として生まれる。

 一定の年齢になると、恋をして、この人の子を産みたいと想い、女性になるもの。子を産ませたいと想い、男性体に成熟する者に分かれる。

 具体的には、女性になるとは月経がきて、胸が膨らんできて、男性らしさがなくなっていく。男性になるとは射精が始まり、声変わりしていく。


 私は物心付いた時から、可愛いものが好きだった。みんなはズボンを好んで履いていたのに、私はスカートを履くのが好きだった。だから、私は思ったんだ。私はきっと将来女性体に変化するのだろうと。


「フォート。お誕生日おめでとう!さあ、願いを言って」


 金髪の美しい幼馴染は私の言葉に微笑む。

 私が持っているどんなものよりも美しくて、可愛くて、見惚れてしまう。

 そんな私へ、フォートは願いを告げた。


「カトカ。僕はこのまま男性体になりたいんだ。だから、僕の婚約者になってくれないか」


 透けるような青色の瞳に見つめられ、惚けたまま頷く。

 私はフォートが好きだったから、その申し出がとても嬉しかった。



 どくんと下半身が熱くなって、私は目を覚ます。

 そして絶望的な気分になった。


 汚れた下着とベッドカバーを片付けて、さっと体を拭いてからドレスを身につけた。

 もう十六歳なのに、膨らまない胸に来ない月経。

 けれども、私の婚約者はすでに決まっているので周りはみんな優しい。

 時がくれば……と、そう言ってくれる。


 本当は時はすでに来ているのに、私は誰にも告白できずにいた。

 婚約者のフォートにすら。

 いや、フォートにだけは知られてはいけない。

 知られたら、気づかれてしまったら嫌われてしまう。


 私が、あなたを抱きたいと思っているなんて。


 だから、今日、私はあなたとの婚約を解消する。

 男性体になりたい、もしかしたら男性体になっているかもしれない彼にとって、私の願いはとても受け入れられないもの。

 どうしてなんだろう。

 いつからなんだろう。

 声も最近はちょっとおかしい。風邪を引いていると誤魔化していたけど、もう限界。

 体も少しずつ変わり始めている。

 男性体へ。


 私は女性としてではなく、男性としてフォートに恋してしまったようだ。

 しかも、フォートを女性体としてみている。

 こんな想い、彼に知られてはいけない。

 だから、今日、私は婚約を解消する。



「カトカ」


 私を見つけてくれたフォートは、魅力的に微笑む。それからすぐに隣にやってきて、エスコートしてくれた。背の高さは同じ。だから、私は踵のない靴を履いている。胸がいつまでたっても膨らまない私。詰め物をしてそれらしく、淑女に仕上がっている。

 すでに私の体は男性体へ変化しつつあって、女性体になんてもう成れないのに。

 フォートの顔立ちは相変わらず中性的で美しい。体つきは男性体にはほぼ遠い。けれども女性的膨らみなどそこにはない。

 男性化が始まり、私は思わずフォートに女性的要素を探してしまったことがあったけど、見つけられなかった。胸は平らで、お尻に丸みが足らない。

 だから、彼はまだどちらにも変化してないか、男性体への変化が始まっているか、そのどちらからだ。

 私たちはすでに十六歳になっていて、同じ年の子達はみな性別が決まっている。

 恋した相手に合わせるように。


 どうして、私は……。

 女性体に変化して、フォートを男性として愛することができれば……。

 そう願うけれども、もう遅い。

 私の男性化は始まっていて、隠すのはもう限界だ。

 だから、まだ女性として見られてるうちに、私はフォートとの婚約を解消する。

 

「カトカ?」

「フォート。今日はお願いがあるの」

「な、何かな?」


 フォートの青色の瞳に陰が帯びる。

 もうすでに私の願いが分かっているのか。

 知られているわけがないのに。


「婚約を解消してほしいの」

「なぜ?」

「理由は言えない。言いたくない。ごめん」


 言い訳をいくつも考えたけど、どれもしっくりと来なくて、浮気相手をでっち上げる気もなかった。

 

「……僕が、男らしくないから?」

「そ、そんなことない」


 なんで、そんな。

 彼が伸びない身長のことで悩んでいるのは知っていた。だけど、理由は違うから。


「いや、違わない。カトカは男らしくない僕に愛想をつかせたんだ。そして、あの人を好きになった」

「あの人?」


 フォートは何を言っているの?


「カトカの様子がおかしくて、ちょっと隠れて君の家に行ったことがある。そしたら、男の人がいた。カトカの部屋に。同じ髪色だったから、親戚かと思ったけど、君の親戚に黒髪の男はいないだろう?」

「黒髪の男……」

 

 そういわれて思い出したのは、あの時だ。

 男性化が始まったことに気がついて、そっと父上の服を借りたことがあった。

 父上の服を着た私は、完全に男性に見えた。だから怖くなってすぐに脱いだんだけど。まさか、そんなところを見られていたなんて……。


「フォート。あれは、」


 あれは私。

 そう言い掛けて、私は言葉を止める。

 フォートは険しい表情をしたままで、どう見ても疑われている。

 私はフォートが好きだ。

 だから……。

 嫌われてもいい。

 裏切ったと思われるよりもずっとそのほうがいい。

 そう心を決める。


「……フォート。正直に話すから。私は、もう女性にはなれないんだ。男性化が始まっていて……。あなたが見た彼は……私なんだ」

「カトカ、あれがカトカ?」


 フォートは呆然とした後、なぜか顔を赤らめた。


「だから、あなたの婚約者を続けられない。だって、私は女性じゃないから」

「カトカ!」


 急にフォートが私を抱きしめた。

 ふわりと広がる花の匂い、そしてやわらかい感触。


「……ごめん。嬉しい。でも僕は卑怯だ」

「フォート?」

「僕はばれなければいいと思った。性別なんて関係ないって。だから、僕は女性化しつつあるのに、君にずっと黙っていた。だって、それを知ったら君が離れていってしまうと思ったから」

「フォート」


 フォートが女性化?

 ということは?


「カトカ。君の子どもを産ませて」


 彼は、いや、彼女はそう言うと私にキスをした。

 キスは何度かしたことあったのに、彼女とのキスはとても甘くて頭の中が蕩けそうだった。


 --FIN--





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― 新着の感想 ―
[良い点] 自由に性別を選べる種族はいいですね。面白い話です。 子供の頃みんなBLですね~
[良い点] 面白かったです。
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