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小説

マリアーヌ・アランは婚約解消にうろたえない

作者: 重原水鳥

「マリアーヌ、第二王子殿下とのお主の婚約じゃが、破棄になったぞ」

「あらそうですか、お祖父様」


 アラン伯爵家の前当主であり己の祖父であるレイモンドからの言葉に、マリアーヌは頷いただけだった。

 マリアーヌは今年18歳、結婚適齢期、婚約だと行き遅れという年頃の娘だ。そんな娘の婚約が破棄になったというのに、レイモンドもマリアーヌ本人も、狼狽えた気配は欠片もない。


「王子の新たな婚約者はお決まりになったのですか?」

「アンナとなるそうだ」

「はぁ、あの娘が」


 マリアーヌは意外そうな顔をした。


 アンナ・アラン。

 マリアーヌの実の妹である。

 とはいえ、母は違う。


 マリアーヌは現当主サイモンの正妻の娘で、アンナはサイモンの愛人の娘だ。

 しかし母親が正妻と愛人というレベルだけではなく、二人には決定的な差がある。マリアーヌの母は貴族で、アンナの母は平民なのだ。父親が貴族であり認知して学問も学ばせて育てている以上、アンナの扱いは貴族ではあるが、やはり他の娘と比べても価値が低い。

 貴族にとって、嫁の価値は血縁のある家の力なのだから当然だ。時にはそれらを度外視で結婚する貴族もいるが、稀であるし、そうしたことをするのは基本男爵や子爵あたりだ。あったとしても伯爵。侯爵以上の家は階級が高ければ高いほど、個人の感情度外視で家の価値を重んじる。

 母方からはなんの援助も助力も願えないアンナを、婚姻相手には家柄が第一に求められる王子の婚約者にするのは意外であった。本人の強固な意思か。数多の思惑入り交じる政界からのお節介(或いは足の引っ張り合い)か。はたまた、第二王子に甘い王妃の横やりか。


「まあ、婚約破棄になったのなら、アンナと王子のことはわたくしには関係ありません」

「そうじゃのう」


 マリアーヌと第二王子の関係は、紙の上のものであった。二人がまともに相対したのは婚約関係を結んだ時、その他数回。それ以外では手紙でやり取りをしたに過ぎない。

 なので異母妹アンナがいつ第二王子と親しくなったのか、マリアーヌは知らない。それも仕方がなかった。何せ二人は姉妹であるが、同じ家で暮らしてはいないのだ。


 アラン伯爵家の領地は海岸沿いで、王都からは片道馬車で約5時間はかかる。マリアーヌは祖父レイモンドが引退する前より、彼と共にこの領地にある本邸で暮らしていた。以前は母も一緒であったが、彼女が夏風邪を拗らせて亡くなってからは祖父と二人きりだ。

 一方アンナは父サイモンや実母と共に、王都にあるアラン家の屋敷で暮らしている。

 なので、そもそも姉妹が会ったことがあるのは数回。よってこの手の異母兄弟姉妹の関係(ものがたり)にあるようないじめも意地悪も、する必要もない。生活範囲が被らないために「姉妹」という名前の他人に近いのだ。


「お前の結婚相手はどこの者がいいかのう」

「……お祖父様、婚約を破棄されたばかりなのに探すのは少し外聞が悪いのでは?」

「そうかの?」


 祖父レイモンドは若い頃、「アランにレイモンドあり」だとか「鬼神のアラン」だとか「英雄レイモンド」だとか、ともかく恐れられ、尊敬された軍人であった。

 とはいえ、それは昔の話。確かにマリアーヌが幼い頃はその片鱗はまだまだあったが、数年前に正式に引退してからの彼は己の牙を仕舞い、軍部で後続を育て、穏やかな日々を送っていた。


 半島のように突き出た土地は海にぐるりと囲まれている。そんな地形にこの国はある。国交や交易のほぼ全てが船の輸送で行われているような場所で戦争が起きる時、戦場は何処になるか。


 海だ。


 アラン伯爵家の治める領地は海岸沿いにあり、故にアラン家は伯爵でありながら軍事部門と交易部門という二つの領域で力を持つ。

 その全てを握るのは、引退したレイモンド・アラン。当主であるサイモン・アランは殆ど領地に帰ることがなく、領民からの支持率も低いのだ。その反面領地で人気があるのが、サイモン・アランの長女であるマリアーヌ・アランであるのは当然だろう。


 彼女は女でありながら、幼い10の年に軍部の門を叩いた。とはいえ本気で軍部に行くこの領地の男児は、基本10の年頃には軍部の門を叩くので、年齢的な意味では彼女のそれは間違っていない行動であったが、貴族令嬢としては信じがたいことであった。

 まだ現役であったレイモンドは血の繋がった孫相手でも容赦せず厳しく鍛えた――むしろそれで音を上げるように仕向けようとした愛だったのかもしれない――が、マリアーヌが音を上げることは無かった。男ばかりの軍部においてメキメキと力を付け、男たちから人柄的な意味で惚れ込まれ、現在では「女レイモンド」「戦乙女」「鬼・リターンズ」などと言われることがあるほどに逞しい。

 それでいて、一旦軍服を脱ぎドレスに袖を通したなら、何処に出しても恥ずかしくない淑女になるものだから、彼女の部下たちから「あれは魔法だ」と囁かれている。



 ■



 18の乙女は、22となった。


 年の暮れ、マリアーヌは年に数回来るだけ(しかも日帰りがほぼ)の王都の屋敷に来ていた。一人ではなく、護衛として軍部の部下たちも居るし、身の回りの世話係の侍女も連れている。

 護衛の中でもまだ若く独身であるマックスは王都で女性を口説きたいと言い、同じく護衛の、マリアーヌの部下の中でもトップクラスで頭の固いラスから鉄拳制裁を貰い、それを他の仲間たちは温かい眼差しで眺めたり、腹を抱えて笑ったりした。

 彼らの宿泊先は当然王都にあるアラン家の屋敷だ。マリアーヌの護衛なのだから、当たり前である。


 普段は本邸で暮らしているという父親の愛人は、この時ばかりは別邸に移っていた。顔を合わせて気まずくなりたくないのだろう。マリアーヌも同意見なので、ありがたい判断だ。

 反対に、妹アンナは本邸に残っていた。彼女は珍しく王都にやってきたマリアーヌをジロジロと眺めた。それからマリアーヌの連れた部下たちに目を輝かせる。王都育ちの剣とは違う実践育ちの剣の輝きがお気に召したらしい。マリアーヌが居ようと居まいと関係なく護衛の者たちに声をかけ、時に体を触れ合わせようとしていた。


 第二王子と婚約している筈の妹の態度にマリアーヌは姉としてショックを受けた。己の血の繋がった妹が尻軽のような動きを見せて、衝撃を受けぬ者は少ないのではないか。

 幸いにも連れて来た部下はマックス以外は既婚者と生涯独身を決めているタイプの男たちであったし、マックスも軽いように見えて一線は守る男なのでマリアーヌは放置した。そこまで尻拭いをしてやらねばならぬようなおつむを抱えた部下を連れてきたつもりはない。


 そんなマックスは初日こそ主の異母妹に優しく接していたが、その日の夜にはアンナと対話するのを止めにしたらしい。どうやら言っていることが支離滅裂、会話をしていると疲れて頭痛がしてくるという。

 とりあえず、ラスに近付けるとヤバそうな女に妹が成ったと知ったマリアーヌは、他の部下たちに命じてラスと妹を近付かせるなと言明した。あの頭でっかちの正論が人の形をして歩くような男が、頭の軽い妹と話し合えるはずがないので。



 数日後、王城で行われる一年の働きを祝う場にマリアーヌはやってきていた。その年一年の中で輝かしい成果を上げた家臣は、国王直々にその働きを褒められ讃えられるのだ。マリアーヌは今年最も讃えられるべき人間として、呼ばれたのである。正確には彼女が代表として、だが。


 この場のためだけに設えられた正装に袖を通したマリアーヌと部下たちは、呼ばれるまでの間別室で待機していた。部下たちは平然と高級な服を身に纏う上司に(尊敬的な意味で)うっとりとした。


「お時間でございます」


 城の侍女に呼ばれ、マリアーヌとラスたち四人の部下が立ち上がる。荘厳な廊下を堂々と歩く軍人たちの姿は戦火の火花からは遠い場所である王城の人々には良い意味で眩しいようだ。

 パーティーの開かれているホールの閉じられた入り口の前で、一同は立ち、時を待つ。

 そして、板によって隔てられた向こうから名が呼ばれた。


「カリューナ海戦で我が国を勝利に導きました、我らが英雄、マリアーヌ・アラン将軍閣下がご到着されました!」


 扉が開かれ、マリアーヌは歩き出した。ラスたちもそれに続く。


 溢れるほどの拍手の中をマリアーヌは国王の前まで進みでて、膝を折った。当然、部下たちもそれに倣う。


 国王が賛辞をかけ、マリアーヌがそれに返答する。前々から決められていた会話を交わし、後は国王に許可されて立ち上がり退く筈だったのだが、「そういえば」と、どこか呑気にも聞こえる国王の声に止められ、その場に留まった。


「レイモンドからこんな話をされてね。『自分には孫娘しかいない。息子の次に家を継ぐのは孫娘の婿だろうが、もう若くない自分ではその人物がしっかりとした男かを見極める時間もあまりない。ならもういっそ、次の伯爵は孫娘にしたい』とね」


 青天の霹靂。


 狼狽えたのは王妃に第二王子にアンナに、現アラン家当主サイモンである。一方マリアーヌは片眉を吊り上げたものの、国王がまだ話し終わっていないので何も言わない。

 とはいえ、そんな話はレイモンドが幾度かしていた。この国では非公式な女当主はおれど、公式に女が家の当主の地位を継ぐことはない。――一人娘の産んだ息子が継ぐといったことは起きているが、それも殆どの場合は先代が突然亡くなった時など、どうしようもない場合だけ。


 なのでレイモンドのつぶやきは年とともに肉体的に弱々しくなっていっているが故の言葉であるとだけ、マリアーヌは思っていた。

 それがまさかこんな場で、事前に話のすり合わせもなく、国王の口から告げられるとは思っていなかった。


「この国では女性が当主な家はないね。けれども我が国を長らく守ってくれたレイモンドの珍しいお願いだ。何より、マリアーヌ・アラン。この戦の功労者である君が、爵位を継ぐのに反対する者などいるだろうか?」


 国王が、周囲を見渡す。


 反発したい者たちとて、声を上げられはしない。マリアーヌが指揮官となり、先の海戦で華々しい勝利を挙げたのは既に国民にも知れ渡った事実なのだから。

 マリアーヌは横のほうにいる実父も異母妹も、見ない。なので彼らが怒っているのか――血の気を引かせているのかは、分からなかった。

 だがどちらであったにせよ、彼女の返答は決まっていた。


 周囲を見渡して反論の無いことに気を良くしたらしい国王が、続きを述べる。


「うん、いないようだ。では、マリアーヌ・アラン。王命でもって、君を次期アラン家当主と認めよう!」

「……承りました。このマリアーヌ、祖父と共にこの命尽きるその時まで、王家への忠誠は変わりはしません。父サイモン・アランの後を継ぎ、王家の剣となり、戦い続けましょう」



 ■



 訳が分からない。

 それが、アンナ・アランの本音であった。


 アンナの母親は平民で、父親は貴族だった。アンナの父親は母親以外の貴族の女性を正妻としていたけれど、本当に愛しているのは母親とアンナだった。

 その証拠に王都という華やかな街の本邸には正妻と4つ年上の姉はおらず、領地だという田舎の海沿い別邸で暮らしていた。本邸には母親と、アンナと、父親だけ。

 半分でも貴族の血が流れ、その上認知され正しく育てられているアンナは、誰がなんと言おうとアラン伯爵家の令嬢だった。


 12歳になり、デビュタントも済ませたアンナは学び舎に通った。一番大きくて歴史があるそこには、王子も通っていた。この王子とアンナは繋がりがあった。


 王子アイザックは、アンナの異母姉の婚約者だ。けれども異母姉は年中殆どを別邸で過ごしているので、アイザックとは仲を深めるどころではなかった。幻と言われる婚約者に、寂しさを感じていたアイザック。婚約者に会いにも来ない薄情な姉に代わり、彼の寂しさを埋めるのは妹である自分の仕事だとアンナは彼に近付いた。


 その内、二人は想い合うようになった。

 アイザックは、マリアーヌを愛していない。アンナを愛している。

 流石に大きな口で言うことでは無かったが、アンナは父親にその相談をした。


 愛さぬ人と夫婦になった父親はアイザックとアンナを憐れんだ。そして、婚約者の変更を言い出した。

 マリアーヌもアンナも、どちらも正式な伯爵家の娘。ならばマリアーヌではなくアンナと結婚し、伯爵家を継いでも同じことだと。

 それはアイザックにもアンナにも素晴らしいアイデアで、二人はすぐに承知した。しかしこの婚約を決めたという国王と前アラン伯爵はどう思うか。そう悩むアンナに、男達が言った。

 アイザックは王妃に、父親は前アラン伯爵に、それぞれ訴えると。


 二人の活躍もあり、マリアーヌとアイザックの婚約関係は解消。そしてアンナとアイザックが新たに婚約者同士になった。


 あとはアンナが成人し、結婚し、正式に義理の息子となったアイザックを父親が次期当主として指名すれば終わり――だと思っていたのに。



「レイモンドからこんな話をされてね。『自分には孫娘しかいない。息子の次に家を継ぐのは孫娘の婿だろうが、もう若くない自分ではその人物がしっかりとした男か見極める時間もあまりない。ならもういっそ、次の伯爵は孫娘にしたい』とね」


 国王が、突然おかしいことを言い出したのだ。



 数日前のこと。田舎で暮らす異母姉が珍しく王都に出てきて、恥ずかしがりやな母親は王都にある別邸に行ってしまった。

 数年ぶりに見る異母姉は質素なドレスを着ていて、豪華で可愛らしいドレスを着たアンナとは対照的だ。可哀想な姉、と思ったが一つ不愉快なことがあった。それは、異母姉が護衛として屈強な男たちを連れていたことだ。第二王子の婚約者となったアンナにも護衛はいるけれど、もっと細くて弱そうな男たちだ。見るからに頼りがいのある男たちではない。


 姉の護衛を辞めて自分の護衛になって欲しいと強請ったが、護衛たちは誰一人頷いてはくれず膨れっ面をすることになった。父親に頼んで護衛対象を替えてもらおうと思ったが、どうにも彼らは会ったことのない祖父の部下という立ち位置らしく、父親の命令を受け入れる人間ではないらしい。父親が無理だと言うのなら仕方ないので、アンナは諦めた。


 異母姉が珍しく都会に出てきた目的でもあった年末のパーティーに、アンナはアイザックに呼ばれて出席した。

 すると驚いた事に、人々の称賛を受けながら異母姉が現れたのだ。それだけではなかった。


 突如国王は姉に伯爵家を与えると言い出した。


 アイザックは驚き、口を挟もうとする。けれども口を挟めるタイミングは無く、必死になって王妃に視線をやるも、王妃も王妃で国王の発言に驚いていて使い物にならない。


 異母姉を見る。どうか拒絶してくれ――そんなアンナの心の声など知らず、女の癖に軍服を纏った異母姉は、是と返事をした。



 ■



「どういうお積もりなのですか!」


 王妃が、国王に詰め寄る。


 国王の執務室。向かい合うように置かれたソファに腰掛けていた国王と王太子の元にやってきた王妃とアイザックは、すぐさまに本日のパーティーでの発言の真意を問うた。


「なぜ女であるマリアーヌに伯爵位など!」

「そうですわ!」

「なんで? ……レイモンドの後を継いだのが彼女だったからだ」

「現当主はサイモン殿なのですよ!」


 アイザックが鼻の穴を大きくさせながら言う。国王は息子の言葉に不思議そうな顔をした。


「だからなんだ? 表向きには隠居していようと、あの家の実質的な当主はレイモンド殿だ。息子のサイモン殿は、仕事の半分もしていない。お飾りも同然ではないか」

「父上、なんてことを……! サイモン殿はいつも仕事をしているではありませんか!」

「アイザック」


 静観していた王太子が口を挟む。


「アラン伯爵家は、軍門の家系だ。軍部で力を奮ってこそ当主。戦争の先陣を切ってこそ、当主。そういう家だぞ? 王都で政務を担うのが仕事の貴族とは、そもそも家柄が違う」

「武官の家系だとしても、当主がサイモン殿であることに変わりはありません。彼の意思を無視するなど……」

「――そんなに伯爵位が欲しかったのか?」

「ち、違います!」


 王太子の言葉に慌ててアイザックは首を振る。が、王太子はどうだか、と呟いた。


「お母様の目論見はそういうものであったのでしょう。娘しかいないアラン伯爵家に、アイザックを婿にやることで、アイザックは国で名の知れた家の当主になれる訳ですから。…………けれどアイザックが選んだ次女の方ではなく、長女のマリアーヌ嬢が次の当主に選ばれた――つまり、次女の方はお前に嫁入りするしかない訳だ。それが不服か? 結局真実の愛だなんだと騒いでおいて、お前が欲しかったのは()()()だったということか」

「違います!!! 私は、私はアンナを愛しているのです!」

「ならばマリアーヌが次期当主になろうと関係ないじゃないか」


 王太子がこれ以上は言うことがないと、国王を見る。彼は頷いた。


「アイザック。お前ではアランの家は、荷が重い。次女の方を選んだと言って来た時から、それは分かっていたがね」


 話は終わりだと、国王は王妃とアイザックを追い払った。


 ――アラン伯爵家に婿に入り、アンナと幸せな家庭を築く。そのことだけを考えていたアイザックは、打ちひしがれた。

◆マリアーヌ・アラン 18歳→22歳

 軍の名門・アラン伯爵家の長女。当主サイモンと故人である正妻の娘。母と共に幼い頃からアラン伯爵家の領地で暮らしてきた。故に父への情は無い訳ではないが薄い。父と祖父どちらを選ぶかと言われれば、即答で祖父。十歳で軍部に入り、その後女でありながら頭角を現し、海戦において華々しい実勢も上げて名実ともに「英雄」の名を継いだ。

 元は第二王子であるアイザックの婚約者であったが、ほぼ手紙でやり取りしかしてないような間柄だった。これ自体は貴族や王族ではさほど珍しいことでも無い。しかしアイザックと同じ王都で暮らしている異母妹アンナの登場によって婚約が破棄される。一時王都の社交界では彼女の悪い噂も流れたが、そもそも中央の社交界に出て気もしない娘であったためすぐに廃れた。

 婚約を破棄された後暫く独り身であったが、そのうち祖父の手引きで同じ軍部にいる部下当たりと見合いをすることになる。


◆レイモンド・アラン 80歳→84歳

 「アランにレイモンドあり」「鬼神のアラン」「英雄レイモンド」などなどなど、数々の伝説を欲しいままにする王国屈指の重要人物。現在は一線を引いて王都にも顔を出さないのに影響力がとても強い。アラン家当主の座は息子のサイモンに譲り渡しているが、領土と軍部における実権は譲っておらず、実質サイモンは傀儡状態に近かった。

 嫁いできてくれたにも関わらず冷遇されていたマリアーヌの母には申し訳ないと思っており、殆ど父とも会えぬマリアーヌを可愛がってきた。孫娘が軍門を叩いた時には辛く当たり追い返そうとしたが予想に反して気骨のある姿を見せたため、そのまま彼女を後継者にすることを考え始める。

 以前よりボケてる風な部分もあるが、まだまだ牙は隠し持っている。


◆サイモン・アラン 47歳→51歳

 マリアーヌとアンナの父親でレイモンドの息子。アラン伯爵家の当主であるが、一年のほぼ全てを王都で過ごし、王都における雑務の処理ぐらいしか仕事をしていない。若い頃に軍部に入るも偉大過ぎる父の存在を超えることは叶わず、軍を抜け、一般的な貴族と同じように生活をするようになった。そのころのトラウマから領地にも帰らず軍部にもノータッチ。王都で過ごし過ぎたこと、彼が軍に所属している間に戦争が無かったことといったことが重なり、アラン伯爵家の大事な柱である部分が抜けて王都かぶれとなっていた。

 アンナと第二王子が想い合っていることを知って結婚させ、第二王子を跡継ぎにしようと思っていたがレイモンドの手回しによってその辺りのたくらみは全て泡となる。いったんはレイモンドに歯向かおうとするもあっさり負けて、結果的にはマリアーヌに当主の座を渡して王都の別邸で暮らすようになる。


◆マリアーヌの母 生きていたら40歳

 マリアーヌの母でサイモンの正妻。実家は侯爵家。夫からは冷遇されていたがその分レイモンドからは大切に扱われていたので実家に対して文句などは言っていなかった。王都とは違った風土の領地でのびのびと暮らしていた。政略結婚であったので、夫への愛情は別にないし特になんとも思ってない。


◆アンナの母 32歳→36歳

 アンナの母でサイモンの愛人。平民。娘のアンナと比べれば立場をわきまえていたので実は正妻ともそこまで険悪ではない。むしろ正妻存命の頃は正妻とサイモンが手紙でやり取りしていた率より彼女と正妻がやり取りしていた率の方が高い。本人に貴族としての教養は無いしそれを理解しているので表舞台には当然出て行かない。あくまで王都の屋敷でサイモンの妻として暮らしていた。一度レイモンドに会ったことがあるのだが、レイモンドの放つ圧倒的なオーラに平民らしくひえ~~っとなって以来怖くて会いたくないと思っている。

 アンナがマリアーヌの婚約者であったはずの第二王子と結婚するの、と言いだした時は「それ、大丈夫なの? いいの? 普通に考えるとかなり不味いのでは?」とは思いつつ、貴族的価値観は娘と夫の方がよく知っているので二人そろって「大丈夫だ」と言っていたのを信じた。別に大丈夫ではなかった。


◆アンナ・アラン 14歳→18歳

 マリアーヌの異母妹。王都で生まれ暮らし生きてきたので王都が最も上で王都以外で暮らすものは田舎者と思っている。この価値観は彼女に限った事ではなく王都生まれ王都育ちの貴族にはそこそこ多い。異母姉マリアーヌのことは深く考えず「可哀そう」と悪意のない見下しをしていたが、そもそも互いに生活範囲が被らな過ぎて殆ど関わりが無い。

 一貴族の娘として育てられてきたので、平民上がりの母の苦労はあまり理解していない。一歩引く、という空気を読む行為も出来ない。ぽわぽわと夢を想い、それが叶うと思っていたが残念ながら現実は甘くはない。

 余計な事を一切しなければ、第二王子と共に一代だけの爵位を持って暮らしていける。もし結婚が上手くいかず戻って来たとしても、両親と共に王都の別邸で暮らしていくことは出来る。余計な事をしでかせばたぶんマリアーヌ以上にレイモンドの部下が黙っていない。殆どあった事のない祖父の恐ろしさは全然知らないし実感していない。



◆国王 (43歳→)47歳

 国王。レイモンドは親友であり同時にとてつもない恩人でもある。レイモンドに話をされずともサイモンや王妃、第二王子らの暗躍をそのまま見過ごすつもりは無かったので別の形で潰していた。

 子供は王太子(第一王子)から第三王子までの息子三人と、そのほかに王女もいるが王女たちは既に嫁いでいる。


◆王妃 (41→)45歳

 王妃。王太子(第一王子)から第三王子を生んでいる。

 子供のことは他の子も愛しているが、一番可愛がっているのが第二王子。第二王子周辺で首を突っ込みすぎて国王にはこの後遠回しにとても怒られる。これが相手がアラン伯爵家でなければ、まだマシだった。


◆王太子(第一王子) (21歳→)25歳

 アラン伯爵家の重要性と重さは知ってたので弟には重いなーと思っていた。そもそもアンナに対してあんまりよい印象を抱いてないので「弟は女を見る目がないな」と哀れに思っている。

 普通に婚約者がいるのでアイザックと破棄した後にマリアーヌと彼との間にフラグは立たない。


◆アイザック 19歳→23歳

 第二王子。マリアーヌの元婚約者。王都で暮らしていないためにマリアーヌとほぼ触れ合えていなかった。アンナと初めて会った時は婚約者の妹ぐらいにしか思っていなかったが触れ合っている内に親しくなり、想い合うようになる。そのままエスカレートしてアンナと結婚して次のアラン伯爵になると夢を膨らませていたが、その夢は壊された。

 別にアンナとの結婚がダメになっている訳ではないので好きな人とは結婚出来る。


◆第三王子 17歳→21歳

 出てきてない。

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国防と海運を担う武門の家の嫡男が、領地の仕事をカケラもせず王都と領地の橋渡しの役にすら立たないなら、まあそんな重要な土地の領主にはしませんわ。というかなんでなれると思ってんだ。血以外は王都の法衣貴族と…
[良い点] この話大好きで何回も読んでしまいます。 その後が読みたいです。 どんな男とお見合いしたのかとか、 第2王子達は自分たちの立場を理解して何もせずにいられるのかなど 気になります!
[気になる点] 王妃 41→45歳 王太子 21→25歳 王妃は22歳で嫁いできた。 王妃と王太子の年の差が20歳ですが、間違いかな? これだと、よりにもよって次期国王が婚外子になりますよ。
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