007 幼女と学ぶロリコンの作り方
魔幼女の被害に遭うと、誰もがロリコンになってしまう。
そう聞いたのは、モーフさん家のビーお兄さんが私を襲おうとして、ギャンジさんに取り押さえた後の事でした。
と言うか、ビーお兄さんの首筋にある血を吸われた痕を私が見た時に、視線が合ったと勘違いしたビーお兄さんの興奮が最高潮に達してしまい、もの凄い勢いで私に向かって走り出したのだ。
それでビーお兄さんをギャンジさんが取り押さえて、挙句の果てには、リリィがビーお兄さんを蹴りそうになってしまって私が止めた。
危うくリリィが人殺しになってしまう所だったと、私は内心ハラハラしたのだった。
そんなわけで取り押さえたビーお兄さんを縄で縛り上げてから、私達は居間でソファに腰かけて、ビーお兄さんのママのモーフ小母さんから事件について聞き始める。
「うちの子は、元々は小さい女の子より、おっぱいの大きい女の子が好きな子でした……」
母親に好みを把握されてるとか、考えただけでも恐ろしいと思うのは私だけかな?
「それが急に、突然おっぱいよりちっぱいな幼女が好きだと言い始めたんです」
「成程。それは重症だな。やはり、魔幼女の被害に遭った者が見せる症状に間違いない」
凄く真剣な面持ちで話すギャンジさんに視線を向けながら、私はおバカすぎて無心になる。
「うちの息子は助かるんでしょうか?」
「すまないが、分からんとしか答えられない。俺の弟もそうだった。魔幼女に騙されて、パンツを買わされる事で財産を奪われ、最後には部屋に灰だけを残して消えて逝った。解決方法は、まだ見つかっていないんだ」
「そんな……」
モーフ小母さんが呟いて静かに涙を流す。
「だが、俺は絶対に今度こそ魔幼女を捕まえて、そして弟の仇を取る」
「お願いします。どうか息子を……」
「任せてくれ。その為にも、もう少し詳しく話を聞きたい。ビー君は、いつ魔幼女に襲われたんだ?」
ギャンジさんが真剣な面持ちで訊ねると、モーフ小母さんは涙をハンカチで拭って答える。
「あれは、昨日の晩の事でした……」
そう言って、モーフ小母さんは目をつぶって語りだす。
そのお話を私なりにまとめると、こんな感じのお話だった。
◇
陽が沈んでから暫らく経ち、村の住人が寝静まった頃、村の住人の一人であるビーお兄さんは家を出た。
家を出た理由は、何か特別な理由があったわけではない。
ビーお兄さんの目的は、村に唯一ある居酒屋でお酒を飲む事と、その居酒屋で働くセレネと言う名前の女の子に会いに行く事だった。
セレネさんは歳が15歳位の女の子で、最近村に引っ越して来たばかりで、居酒屋の店長さんとは親戚の関係なのでお店のお手伝いをしている様だ。
「いらっしゃいませ~」
ビーお兄さんが居酒屋に入ると、セレネさんがビーお兄さんを笑顔で迎える。
ビーお兄さんはお酒がまだ入ってもいないのに頬をほんのり赤くして、席を案内するセレネさんにニヤニヤとしながらついて行った。
席につくと、ビーお兄さんはお酒を注文して、いそいそと働くセレネさんを目で追った。
そして、問題はここから起きる。
ビーお兄さんはいつも通りお酒を飲みながら、気持ちの悪い笑みを浮かべてセレネさんを目で追っていたのだけど、気がついたら眠ってしまっていた。
目を覚ますと、そこは村から離れた場所にある一つの遺跡の中だった。
「遺跡の中か? ……っつぅ。頭がいてえ。何でこんな所にいるんだ? 飲みすぎて記憶にないぞ」
ビーお兄さんは呟くと、頭痛が響く頭を押さえながら立ち上がる。
そして、立ち上がった時に近くに誰かの気配を感じて、ビーお兄さんは目を凝らして誰かを見た。
「あっ。ビーさん起きたんですね~。おはよ~ございま~す」
「え? あれ? その声はセレネちゃん?」
「いえいえ。私はカーミラちゃんで~す」
「カーミラ?」
ビーお兄さんが呟いたのと同時に、遺跡に光が灯る。
すると、光に照らされて、カーミラと名乗った少女が姿を現した。
その少女は6歳位の女の子で、金髪の髪にワインレッドの綺麗な瞳。
そして、透き通る様な白い肌をしていた。
少女はビーお兄さんを見上げて目を合わすと、ニッと笑って可愛らしい八重歯を見せる。
その時、八重歯を見た瞬間に、ビーお兄さんは自分の感情に驚いた。
ビーお兄さんは年下好きでセレネさんに惚れている様な人だけど、それでも10歳にも満たない様な幼女には興味が無い人だった。
それだと言うのに、カーミラと名乗った少女のニッと笑う姿を見て、胸をときめかせてしまったのだ。
いいや。
それだけじゃない。
今までセレネさんに抱いていた好きと言う気持ちが、全てカーミラと名乗った少女に移り変わってしまっていた。
ビーお兄さんが自分の感情に戸惑っていると、カーミラと名乗った少女が目を細めて微笑む。
そして、少女は目の前でパンツを脱いで誘惑した。
「ビーさん。私の脱ぎたてホカホカのパンツ、買っちゃいませんか~?」
と。
◇
さて、そんなわけでパンツを買って来たビーお兄さんは、それ以降ロリコンになってしまった様だ。
と言うか、脱ぎたてのパンツがほしいなら他のパンツも買えと言われて、財産をつぎ込んでしまったらしい。
正直私個人の意見をとしては、このお話の内容だけだと襲われてもいないし、ストーカーがロリコンに進化したお話にしか思えなかった。
そもそも、財産を騙されて奪われたと言うより、幼女の脱ぎたてパンツ欲しさに財産を捨てた変態の自業自得である。
私が呆れながら、モーフ小母さんのお話を聞き終わると、リリィがモーフさんに質問する。
「どうでも良いけど、結構細かく詳細を知っているみたいだけど、それは何故なのかしら? そのカーミラって子が魔幼女で間違いないとして、ジャスミンと魔幼女を間違える位には、今まで魔幼女の正体が分からなかったのでしょう?」
確かにリリィの言う通りかも。
何でわかったのかな?
サガーチャちゃんが言ってた様な、引きこもるって事をしなかったとか?
それなら、何があったかお話出来そうだもんね。
私が自分なりの考えで納得した時だった。
モーフさんは一度私に視線を向けてから、リリィの質問にゆっくりと口を開いて答える。
「それは、私が能力を使ったからです」
「能力!?」
私は思わず声を上げる。
まさかこんな所で、しかも魔族でもない人の口から、能力と言う言葉を聞くとは思わなかったからだ。
そして、驚く私と目を合わせながら、モーフ小母さんが微笑んで言葉を続ける。
「ええ。私の能力は、思い出日記。眠っている相手などの意識の無い相手に使う事で、その相手の思い出を日記として書かせる能力です」
な、何その便利な能力!?
「そう言う事ね。まさか、ジャスミンと同じ様に、特殊能力を使えるなんて思わなかったわね」
「じゃあ、この小母さんも転生者って事ッスね。魔族以外の転生者なんて、ご主人以外で見るなんて久しぶりっすね」
「う、うん」