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061 幼女を襲う最大のピンチ

 龍族の女の子がニヤリと笑い、手を鉤爪の様に曲げて、私に向かって跳躍する。

 私は反応出来ず、龍族の女の子の鉤爪による攻撃を食らってしまった……なんて事は無い。

 何故なら、ここにはリリィがいるからだ。


 リリィは私の目の前に立ち、余裕で龍族の女の子の攻撃を受け止める。


「殺すわよ?」


 リリィがニッコリと微笑む。

 龍族の女の子は一瞬だけ驚いた表情を見せ、後退ってリリィから距離をとる。


「魔性の幼女の右腕の怪力娘。まさか、これ程なんてね。だけどさ!」


 龍族の女の子が再び跳躍する。


「させるかよ!」


「――っ!?」


 リリィの目の前にレオさんが飛び出して、剣を振るう。

 だけど、それは龍族の女の子にかすりもしない。

 それどころか、レオさんは龍族の女の子の攻撃を――違った。


 龍族の女の子はレオさんの攻撃を避けて、そのままレオさんの顔に触れてから、再び距離をとるため後ろへ下がる。

 その瞬間、レオさんが剣を落とし震えだす。

 そして、私は目を見開いて驚いた。


「……がっぁっ!」


 レオさんがみるみると縮んで、いいや、若返っていく。

 ものの数秒でレオさんは幼児と化し、その場で気絶した。


 これって、もしかして!


 私は気がついた。

 店内で倒れていたのは、全員子供。

 そう。

 レオさんと同じく、幼児化した人達だったのだ。


「あ~らら。一番めんどくさいのに手の内を見られちゃった~」


 龍族の女の子が面倒臭そうに表情を歪めた。


「リリィ、流石にヤバいよ!」


「若返りの能力って事かしら? 問題無いわよ」


 問題大ありだよ!


 私は幼児化して気絶したレオさんを抱えて叫ぶ。


「逃げよう!」


「逃げれると思っちゃってるの?」


 龍族の女の子が私に向かって再び跳躍する。


「アンタこそ、逃げてもらえると思ってるの?」


 リリィが龍族の女の子の攻撃を受け止める。


「自分からあーしの能力を食らいに来た?」


 龍族の女の子は顔を顰めて、また距離をとる。

 そして、全く変化しないリリィを見て驚いた。


「え? あれ? 幼児化しない?」


 龍族の女の子が驚き困惑して動きを止めると、トンちゃんが私に向かって声を上げる。


「ご主人! 倒れている人達を回収したッスよ!」


 流石はトンちゃん達だ。

 店内で幼児化して倒れていた人達を、精霊さん達5人はそれぞれ救出していたのだ。


「ありがとー」


 私は精霊さん達に笑顔を向けてお礼を言って、未だに困惑している龍族の女の子を見た。


 まあ、そうなっちゃうよね。

 と言うか、やっぱり能力はリリィには効かないんだね。

 流石は存在がチートなリリィだよ。

 一時はどうなるかと思ったけど――


 と、私が考えている時だった。

 突然レストランの窓ガラスが蹴破られ、私達の目の前に誰かが勢いよく現れた。


「珍しいね。マーレが苦戦するなんて」


「ちっ。何しに来たのよメール」


「あ~ら。随分じゃな~い。このメール様が助けに来てあげたのよ~?」


「いらないお世話よ」


 また龍族のお姉さん!?


 窓ガラスを蹴破って入って来たのは、またもや龍族だった。

 メールと呼ばれたその龍族は、見た目は20歳前後のお姉さんで、龍の角に龍の尻尾を生やしている。

 髪の毛はショートカットで、金髪と言うよりは黄色と言う感じだ。

 そして、龍族の女の子マーレと同じ様にローブを羽織っている。

 ただ、ローブを羽織っていてもわかる胸のライン。

 間違いなく巨乳だ。


 そして、問題が起こってしまっていた。

 なんと、その龍族のお姉さんは、脇に気絶したハッカさんを抱えていたのだ。


「あのバカ」


 リリィが呟いて、私に視線を向けた。


「ジャスミン、ハッカを――」


 事態は更に悪くなる。


「離せー! 離せって言ってんじゃん!」


 リリィが私に話しかけて直ぐに、今度は私の背後、レストランの出入口からセレネちゃんの声が聞こえた。

 私とリリィはセレネちゃんの声がした出入口に目を向ける。

 するとそこには、頭をフードで隠し顔が見えないローブを羽織った女性が2人立っていた。

 最悪な事に、2人はそれぞれマモンちゃんとセレネちゃんを脇に抱えている。


 ヤバいよ!


 本当にかつて無い程にピンチな状態だった。

 珍しくおバカでない展開で、ハッカさんとセレネちゃんとマモンちゃんが捕まってしまっているのだ。

 突然のピンチに私がごくりと唾を飲み込んだその時、ローブで顔が隠れている二人の女性の足元あたりから突然声が聞こえてきた。


「邪魔するで~」


 え?


 私は驚き視線を下に向ける。

 するとそこには、身の丈が私の半分くらいの大きさの、二足歩行の猫ちゃんの姿があった。

 その猫ちゃんは大きい頭で三頭身の見た目の猫ちゃんで、毛の色は少し濃い目の水色だ。

 尻尾の先は不思議な事に、まるでイルカさんの様な形だった。

 そして、その猫ちゃんはカウボーイハットを頭にかぶっていて、かっこよくキリリとした顔をしていた。


 まるで猫ちゃんがデフォルメされたマスコットキャラ的なその姿に、私の心はメロメロになる。


 きゃあっ!

 何この子!?

 可愛い!

 すっごく可愛いよぉ!


 私は思わず抱きしめたくなる衝動を抑えて、わなわなと震えた。


 落ち着け!

 落ち着くんだよ私!

 今は可愛い猫ちゃんに心を奪われている場合じゃないんだよ!


「なんや嬢ちゃん。けったいな顔しとるのう。顔真っ赤っかやで」


 喋ったー!

 声も可愛い~!


 私がテンションを爆アゲしていると、セレネちゃんが私に向かって叫ぶ。


「ジャス! 気をつけて!? その猫みたいな奴がポセイドーンよ!」


 その時、私の脳裏に電流が走る。


 ポセイドーン!?

 この可愛らしい猫ちゃんが!?

 お友達になるのやめて、持ち帰ってペットにして良いですか!?


「あ、これ、碌でもない事考えてる時の顔ッス」


「ジャスのせいでおバカな展開になったのでラテは寝るです」


「主様! しっかりするんだぞ! 大ピンチは変わらないんだぞ!」


「神を相手に物怖じしないその姿、流石はジャスミン様ぢゃ」


「が、がお」


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