004 幼女の親友に目標が出来る
「そう言えばジャスミンくん。一つ気になる事を、ここに来る前に聞いたのだけど……」
私が精霊さん達にパンケーキを焼いていると、サガーチャちゃんが私が焼いたパンケーキを片手に持ちながら、私にそう話しかけてきた。
「気になる事? 何かあったの?」
「何かあったと言うか……そうだね。むしろ、それは私がジャスミンくんに聞きたかったんだけど、相変わらずの様だし人違いみたいだね」
人違い?
うーん……話が見えてこない。
私が首を傾げると、リリィがサガーチャちゃんをジト目で見ながら訊ねる。
「どういう意味よ? 説明しなさい」
「うん。そうだね」
サガーチャちゃんは苦笑しながら返事を返して、リリィと私の顔を見てから説明を始める。
「ここにはフェールに連れて来てもらったのだけど、ここに来る途中であの子の友達の精霊と一緒にここに来る為に、その友達がいる村に立ち寄ったんだ」
やっぱりフェールちゃんと来たんだ。
今は近くにいないみたいだけど、何処にいるんだろう?
そのお友達と一緒に何処かにいるのかな?
早く会いたいなぁ。
「フェールも来てるんスね。フェールの友達なら、フェールと同じ土の精霊ッスかね」
「ああ。そうだね。後で紹介するよ。それで話の続きなのだけど、その立ち寄った村で、不老の少女の噂を聞いたんだよ。それも、あまり良い噂じゃなかったんだ」
「不老の少女の噂ッスか?」
「ああ。なんでも、その不老の少女は年が六歳位の見た目の少女で、大人を騙しているらしくてね。かなりの被害が出ているとかで、命を落とした被害者もいる様なんだ」
「命をッスか? 物騒な話ッスね」
「怖いんだぞ」
「が、がお……」
「でも、何でその女の子が不老だってわかるのよ?」
「少女が自分から、私は不老で大人だって言っていた様なんだ。見た目に騙されたお前達人間が悪いってね」
「成程ね。確かに、六歳位の見た目の不老って聞くだけなら、ジャスミンって思ってしまいそうね。でも、そこまで聞いてみた感じ、ジャスミンとは性格が全然違う様に思うのだけど? ジャスミンはそんな事を絶対にしないし、言わないわよ」
「そうッスね。見た目が六歳位なら、ご主人かもって思うッスけど、ご主人は騙すより騙される方ッス」
私はリリィとトンちゃんの言葉を聞いて、ニッコリと笑顔で話す。
「私今10歳だよ? 6歳位って所で納得しないで?」
「でもご主人。見た目がその位っすよ?」
……はい。
そうでした。
私が納得して、少し微妙な気持ちになっていると、サガーチャちゃんがお話を再開する。
「私もジャスミンくんが、そんな事をするなんて想像出来なかったのだけど、どうしても気になってしまったんだ。ジャスミンくん、疑ったりしてすまない」
「え? 良いよ良いよ。全然気にしないよ」
「ありがとう」
私が笑顔で答えると、サガーチャちゃんも微笑む。
「ただ、妙な事も聞いたよ」
「妙な事?」
私が聞き返すと、サガーチャちゃんは真剣な面持ちで答える。
「その少女に襲われたという人もいる様なのだけど、その襲われたと言っている人達は皆気がついたら消えてしまっていて、その人達がいた場所に灰だけが残っているらしいんだ」
灰だけが残って消える……?
何だろう?
なんか、そう言う設定みたいなの、どっかで聞いた事ある。
何処だったっけなぁ。
「凄く怖いんだぞ」
「が、がお」
プリュちゃんとラヴちゃんが体を震わせて怖がると、サガーチャちゃんは苦笑しながら話を続ける。
「怖がらせてしまってすまない。でも、襲われた人の中には、灰にならない人もいるんだ。まあ、そう言う人達も、妙な共通点があるんだけどね」
「妙な共通点?」
リリィが顔を顰めて聞き返して、サガーチャちゃんは苦笑する。
「被害者の家族の話では、家族の前にも姿を見せなくなった被害者は、皆年を取っていないのかと思うくらいに、何年経っても見た目が変わらなくなったという話さ。実際これがあるからこそ、不老と名乗る少女が、本当に不老だと噂されている様なんだよ。まあ、結局その被害者たちも部屋の窓際で、ある日突然灰だけを残して消えてしまう様で、本当かどうかも分からないってなる様だね」
思い出した!
吸血鬼だ!
窓際で灰を残すって、太陽の光を浴びちゃって灰になったって事だよね?
前世では空想上の存在だったけど、ここは異世界なんだもん。
吸血鬼がいたって、全然おかしくないよね。
吸血鬼って物語によって色々設定があるけど、不老って言うのもよく聞くし、絶対そうだよ!
私が1人で納得していると、リリィが何か考える素振りを見せてから口を開く。
「決めたわ」
リリィが私と真剣に目を合わせる。
そして、リリィは力強く声を出す。
「その女の子に会いに行くわ!」
「え?」
「ジャスミンの顔を見ていて分かったわ」
え? 私の顔?
私、また百面相してた?
「その女の子に頼んで、私も不老になるのよ! 見た目が変わらないって、つまり不老にして貰ったって事よね!」
「ええぇぇーっ!? そ、そうかもだけど何で!?」
私が驚いて訊ねると、リリィは微笑んで、とても優しい声で答える。
「だって、不老不死になったジャスミンと、これから先もずっと一緒にいたいんですもの」
「リリィ……」
あれ?
何だろう?
涙が出てきたよ?
私がリリィの言葉を聞いて、自然と溢れてくる涙を拭う。
「ずっと気にしていたのよ。私だけ成長していって、いずれは寿命で死んでしまうでしょう? だから、ジャスミンの事が心配だったの」
「うん」
私の涙は止まらなくて、私は何度も涙を拭う。
私は嬉しくて、溢れてくる涙を拭いながら、リリィの顔をジッと見つめた。
そして次の瞬間、リリィの言葉を聞いて、私の涙は急速に止まりました。
「私が寿命で死んだ後に、他の奴等にジャスミンを取られたら、死んでも死にきれないじゃない! それだけは許されない事だわ!」
「え?」
リリィがあまりにも力強く言うので、私は一瞬聞き間違えたのではと耳を疑う。
だけど、残念ながら聞き間違いではない様で、リリィは力強く言葉を続ける。
「ジャスミンは私のお嫁さんよ! 誰にも渡さないわ!」
「ね、ねえ? リリィ。私が1人になっちゃうとか、そう言うのを心配してたんじゃ?」
「何言ってるのよ。ドゥーウィン達がいるでしょう? 一人になんて、そんな事になるわけないじゃない」
「あ。うん。そうだね」
「ぷぷぷ。そうッスね。ご、ご主人。大丈夫ッスか? ぷぷぷ」
ねえ? トンちゃん。
なんで笑ってるの?
「主様にはアタシがずーっとついてるんだぞ!」
「ジャチュ、一緒ー!」
プリュちゃん、ラヴちゃんありがとー。
やっぱり2人は優しくて、私の心のオアシスだよ。
「ジャスはバカですね。たかが不老不死になったくらいで、何を泣いてるですか? バカです? ラテ達精霊の寿命は無いようなもんです」
ラテちゃんおはよう。
聞いてたんだね?
遠回しに慰めてくれてありがとーだよ。
でもね、バカバカ言わないでほしいかな。
凄く傷つくの。
「全く、不公平な話よね。精霊は寿命では死なないみたいじゃない。絶対私も不老になって、ジャスミンとの愛を毎晩育むわ! それが、ジャスミンをお嫁さんにした私の責任だものね!」
うん。
リリィ、何言ってるの?
毎晩育まないよ?
私の嬉し涙を返して?
って言うか、いつもの事だけど、リリィのお嫁さんになった覚えもなる予定も無いからね?