042 幼女のパンケーキつよい
ハッカさんとロンデさんの戦いは徐々に激しくなっていき、周囲を巻き込むほどの凄まじいバトルとなっていく。
2人の激しく熱い戦いを見守りながら、私はごくりと唾を飲み込んだ……と言いたい所だけど、そんな事は無い。
さて、私は今、マッサージ店の前に立っている。
え?
2人はどうなったかって?
そんなものは知りません。
ラヴちゃんが心配なのです。
ハッカさんとロンデさんには申し訳ないけど、2人の熱い戦いなんて見ていられないのだ。
そんなわけで、私は皆と話し合い、結果として2人を放置する事に決定したのである。
そう。
決してあの場にいるのが恥ずかしかったからではないのです!
「どするー? 正面から入っても、めんどくさい事になるだけだと思うけど?」
セレネちゃんが私に視線を向けて訊ねた。
私はマッサージ店の建物を見上げながら答える。
「上から行こう」
「上?」
「うん。飛んで屋上に行って、そこから中に入るんだよ」
私が答えると、セレネちゃんも建物を見上げた。
そして、建物の屋上からチラリと見える物に気がつき、ニィッと笑う。
「洗濯物が干してある~。なるほどね~」
そう。屋上には洗濯物が干してあったのだ。
つまり、この建物は屋上の出入が簡単に出来るという事に繋がり、そこから建物内に侵入可能なのだ。
私は風の魔法を使用して、リリィとセレネちゃんを連れて屋上まで飛んで行く。
マッサージ店の屋上には誰もいない様で、真っ白で綺麗になったシーツなどが干されて風になびいていた。
出入口出入口。
私は屋上に降り立つと、早速出入口を探し始める。
「ジャス。あっちよ」
出入口を探していると、セレネちゃんが出入口を見つけて指をさして教えてくれた。
「ありがとー」
私はお礼を言って、出入口に向かって歩き出す。
それから、何の弊害も無くマッサージ店に侵入した。
目的はラヴちゃんの救出。
だいたいの位置はトンちゃんの記憶を頼りに探る感じだ。
そんなわけで、トンちゃんを先頭にして先を進む。
勿論、途中で見つかると何が起きるか分からないので、慎重に慎重を重ねて周囲には十分気をつける。
そうして暫らく歩いていると、トンちゃんが動きを止めた。
「ここッス」
トンちゃんが私に振り向いて、扉に向けて指をさす。
私とリリィとセレネちゃんは立ち止まって、扉に視線を向けた。
「どれどれ~」
セレネちゃんが扉に近づき、扉にそっと手で触れる。
「ん~。やっぱこのままだと解除出来なそーね」
セレネちゃんが独り言を呟き、私が首を傾げると、その瞬間にセレネちゃんはアルテミスの姿となる。
そして、その姿で、もう一度扉に触れた。
すると、その瞬間に扉が白く光ってパリンッと音が鳴り、白い光が割れた窓ガラスの様にパラパラと地面に落ちて粒子となって消えていく。
私はその光景を驚きながら、綺麗だなぁと思いながら見つめた。
セレネちゃんは元の姿に戻って、私に視線を向けてニィッと笑って八重歯を見せる。
「結界を壊してやったわ~」
「ありがとー」
私はお礼を言って、セレネちゃんに笑顔を向ける。
そして、満を持して、扉を開けた。
中に入って直ぐに目に映ったのは、大きなテーブルと、その上に置かれた沢山の料理。
そして、その料理の中心には。
「ラヴちゃん!」
私は料理の中心に座ってお腹をさするラヴちゃんを見て、大声で名前を呼んだ。
すると、ラヴちゃんは驚いてから、私に顔を向ける。
「ジャチュ?」
「ラヴちゃん!」
私はもう一度名前を呼んだ。
すると、ラヴちゃんはおめ目からポロポロと大粒の涙を流して立ち上がり、私に向かって走り出した。
「ジャチュー!」
私は両手を広げてラブちゃんを迎え入れて、目の前でジャンプしたラヴちゃんを力強く受け止めて抱きしめた。
「ごめんね、ラヴちゃん。もう大丈夫だからね」
「ジャチュー! パンケーキ食べたい!」
「え?」
えーと……うん。
き、聞き間違いかな?
私はゆっくりとラヴちゃんを体から離して、テーブルの上におろす。
「ちょっぱいばっか、もうやっ!」
しょっぱいのばっかりでもう嫌?
あれぇ?
あ、あまりこう言う事は聞きたくないんだけど……うん。
い、一応聞いた方が良いよね?
「ラヴちゃん、つらい思いをさせられたから、悲しくて泣いたんだよね?」
「がお。ゆうちゃのごはんより、ジャチュのごはんおいちい。ジャチュのパンケーキべちゅばらー」
……うん。
そこなんだね?
って言うか、まだ食べるの?
そう言って貰えるのは作る側としては凄く嬉しいけど、ラヴちゃんお腹パンパンだよ?
「わかるッスよ。その気持ち。どれだけお腹がいっぱいでも、ご主人のパンケーキなら食べられるッス」
「うむ。ジャスミン様のパンケーキは最強ぢゃ」
「あはは……」
私は何だかドッと疲れたのを感じて、肩を落として苦笑する。
するとその時、テーブルが強く叩かれて揺れる。
私は驚いて、音のした方へ視線を向けた。
視線を向けた先には、今まで気がつかなかったけど、お風呂で会った自称勇者のレオと言う名前の男の人がエプロン姿で立っていた。
「俺の料理が、そのガキの作るパンケーキより美味しくないだと!?」
レオは怒りをあらわに眉根を上げて眉間にしわを寄せながら、右手で額を押さえて私を睨んだ。
私はレオに睨まれて、顔を引きつらせて冷や汗をかく。
わ、わぁ……。
なんだか私、凄く睨まれてるよ?




