041 幼女の活躍は盛られ継がれる
まさか、こんな所で私が愛用していたパンツをデザインしていた大先生に会えるなんて思っていなくて、最早私は大興奮だ。
だってそうでしょう?
私にとって天使の羽と輪がプリントされたあのパンツは、本当に凄く思い入れがあって、何着も同じデザインのパンツを持つほどに大好きだったのだ。
今だって、変なあだ名とかが無ければ穿き続けたい位なんだもん。
興奮するなと言う方が無理なのだ。
「ちょっと待って下さい」
私が興奮してハッカさんに抱き付いているとロンデさんが立ち止まり、振り返って、メガネを中指でくいっと上げながら私を見た。
「黙って聞いていれば、おかしな事を言う。純白の天使と言われる幼女は、海岸に訪れる観光客を襲うクラーケンを倒した天使の様な幼女と聞いています。それに、パンツの女神と言えば、滅亡寸前まで追い込まれたドワーフの国を救った英雄の幼女の筈。そして、一説では、人々を滅ぼそうとした魔族を倒し、世界に平和をもたらしたとも言われています。それが、魔性の幼女と同一人物であるかのような発言。どういう事ですか?」
え? 何それ?
話が盛大になりすぎてるよ?
「ジャスミンちゃん凄いです。そんな事をしていたんですね」
「随分と盛られてるッスね」
「ドゥーウィン、何を言う。寸分違わずジャスミン様の功績ぢゃ」
「パンツの女神の噂なら私も聞いた事あるわよ。他種族嫌いのドワーフ王に認められた女の子って、結構有名な話だもんね~」
リリィが目を輝かせ、トンちゃんは失笑し、フォレちゃんが誇らしげな表情を見せ、セレネちゃんが感心する様に私を見る。
そして、ハッカさんが凄く真剣な面持ちで、ロンデさんに視線を向けた。
「ねえ、ロンデ。何でこんな良い子を、アプロディーテー様は殺せと命令したんだろう?」
ハッカさんが疑問を投げかけると、ロンデさんの目がが急に鋭くなり、ハッカさんを睨んだ。
「ハッカ、どう言うつもりですか? 貴女は、まさか女神アプロディーテー様を疑うと言うのですか?」
「そうじゃないよ。でも、もしかしたら何か勘違いをしているかもしれないでしょ?」
「勘違い? あり得ないですね。女神アプロディーテー様の言葉は絶対です。あの方に間違いは決してない。何より、女神アプロディーテー様のおかげで、我々がこの異世界に勇者レオと共に転生出来た事を忘れたのですか!?」
空気が変わる。
一瞬にして張り詰めた空気がこの場を支配して、ハッカさんは私の体を離して前に出る。
そして、ロンデさんはハッカさんが前に出ると、杖を取り出して構えた。
「ロンデ、落ち着いて? 私は何か理由があるのかもしれないと思っただけ!」
「同じ事です! 貴女の方こそ、落ち着いた方が良さそうですね! ハッカ!」
ロンデさんの持つ杖が光り、ロンデさんを中心に青色の魔法陣が浮かび上がる。
「隙を見て、魔性の幼女を殺そうと思っていましたが、予定を変更します。ハッカ、私は女神アプロディーテー様を侮辱した貴女を許しません!」
「ロンデ! 待って!」
ハッカさんがロンデさんを止めようとするが、その言葉はロンデさんには届かない。
そして、ロンデさんが呪文を唱える。
「ウォータースラッシュ!」
ロンデさんを中心に浮かび上がっていた青色の魔法陣が強い光を放ち、そこから大量の水の刃が飛び出して、ハッカさんに向かって勢いよく飛翔する。
ハッカさんはそれを見て、避ける為に横に跳躍する。
「ジャスミンちゃん危ない!」
リリィが叫んで、私を庇う様に抱き寄せる。
「リリィ!?」
このままじゃリリィに魔法が当たっちゃう!
魔法で相殺しな――えっ!?
私は急いで魔法を使って、飛んで来る水の刃を相殺しようとして驚いた。
なんと、向かって来ていた水の刃は目の前で急カーブして、ハッカさんに向かって行ったからだ。
「ハッカ! 貴女も知っているでしょう! 私の能力【ホーミング】からは、絶対に逃れられない!」
ホーミング?
じゃあ、その能力で魔法に追跡機能を付けてるって事?
「知ってるよ! だからこそ、こっちに避けたのよ! あのまま、あそこにいれば、関係ないジャスミンちゃん達を巻き込むからね!」
ハッカさんが剣を構えて、ハッカさんを中心に突風が吹く。
「ロンデ、悪いけどこっちも本気で行くわよ!」
水の刃がハッカさんの目と鼻の先まで迫り、その瞬間に、突然水の刃がけたたましい音をたてて爆ぜる。
「貴女の能力【破裂】ですか。敵にすると、厄介な能力ですね。それに――」
ロンデさんの着ているローブの袖の部分がキレて肌が露出したかと思うと、そこから血がにじみ出る。
「貴女の使う風の魔法も少々厄介です」
いつの間にか風の魔法で攻撃を受けていたロンデさんが、血が出た所を押さえながらハッカさんを睨む。
ハッカさんも、先程までとは目つきが変わり、ロンデさんを睨みつけた。
「何よ今更。もうこんな馬鹿な事はやめる気にでもなったの?」
「馬鹿な事をしているのは貴女ですよ、ハッカ。良いでしょう。レオには悪いですが、ここで貴女を魔性の幼女と一緒に始末します」
え? 何これ?
急に熱血異能バトルみたいな感じになっちゃったよ!?
な、何かかっこいい!
まさかの急なシリアス展開に、私は手に汗を握り、ごくり、と唾を飲み込んだ。
そして、私はこの時気がついてしまった。
「あら? 喧嘩?」
「やあね~。野蛮だわ」
「きっと修羅場よ。男が浮気したんだわ」
「何言ってるのよ。よく見てみなさい? 男が冴えないから、女が浮気したのよ」
「あらやだ。相手の男、私の好みだわ」
等々と、周囲を歩いていたオネエさん達が騒ぎ出す。
そう。
私達はマッサージ店に向かう途中、つまり、道のど真ん中で乱闘騒ぎを始めてしまったのだ。
集まる野次馬、ロンデさんを狙う野獣の眼光、そして、2人に近い位置に立っている私に集まる視線。
シリアスとは程遠いこの状況で、私は段々恥ずかしくなり、顔を赤くして目立たない様にセレネちゃんとリリィの側に駆け寄りました。