030 幼女は猫耳少女と再会する
「駄目よ!」
「え?」
「男湯に入るなんて私が許さないわ!」
「えぇ……」
私達は、プルソンさんの案内でお風呂屋さんにやって来ていた。
そして今からお風呂に入ろうという所で、私は男湯ののれんの前で、リリィに呼び止められた。
「でも、せっかくプルソンさんと久しぶりに会ったし、お背中の流し合いっこしたいなって思うの」
プルソンさんにも、女の子なんだから男湯に入っちゃダメって実は言われたけど、タオル巻くから一緒に入りたいとお願いしたらオッケーを貰えたのだ。
私の年齢なら、別に男湯だとか女湯だとか考えなくても良いし、プルソンさんとは一度ゆっくりお話をしたかった。
だから、良い機会だと思ったのだけど……。
「ジャスがそっちに行くなら、私もそっち行くー」
セレネちゃんが私の横に並んで、ニッと八重歯を見せて笑う。
「じゃあ、セレネちゃんのお背中も流してあげるね」
「ジャスミン様の背中は、妾が流してやろう」
「フォレちゃんありがとー」
「アンタ達、勝手に話を進めて、私のジャスミンを男湯に入れようとしないでくれる?」
私のって、あのねリリィ。
私はリリィのものじゃないよ?
「別にいーじゃん。減るもんでもないし」
「そうぢゃぞリリー。其方は其方で気にせず、トンペット達と一緒に風呂に入ればよいであろう?」
うんうんと、私は首を縦に振る。
すると、リリィは眉根を上げて、若干だけど涙目になってしまった。
り、リリィ可愛い!
貴重なリリィの涙目姿に、私が胸をキュンキュンさせたその時だ。
突然、背後から大きな声が聞こえてきた。
「あー!」
私はびっくりして、後ろに振り向く。
「お前達! こんな所で何してるのよ!?」
「マモンちゃん!?」
視線の先で見た姿、それは1人の女の子。
ミディアムヘアーでオレンジ色の髪の毛に、特徴的な猫耳と猫尻尾。
つり目で茶色い瞳は、猫の様に可愛らしい。
肌の露出が高い盗賊の様な服装で、とても似合っている。
女の子の名前はマモン。
そう。
猫耳少女の魔族、マモンちゃんだ。
私達の背後で大声を上げたマモンちゃんを見て、リリィが凄く嫌そうな表情をして肩を落とす。
「うわ。ホントにいたのね」
「甘狸にリリー=アイビー! 何でプルソンと一緒にいるんだ!?」
そう言って、マモンちゃんが私達に指をさす。
ちなみに、甘狸とは私の事である。
「マモン様、さっき都の外で会ったのよ」
プルソンさんが説明すると、マモンちゃんは成程と頷いて、何かを閃いた顔になる。
そして、リリィに視線を向けて、胸を張って指をさした。
「丁度良いわ! リリィ=アイビー! どっちがお風呂で早く泳げるか勝負だ!」
「はあ? 嫌よ。私は今忙しいの」
リリィはそう言って、しっしっと、マモンちゃんに手の甲を向けて払う様に振るう。
だけど、そこは流石のマモンちゃん。
そんな事お構いなしに、その手を掴んで、リリィを引っ張り出す。
「さあ、行くわよ!」
「ちょっと、離しなさいよ!」
「逃げようったって、そうは行かないからな! 今日こそ私の圧勝だ!」
リリィはマモンちゃんに引っ張られて、女湯へと入って行ってしまった。
私はそれを微笑ましく見守ってから、プルソンさんに振り向く。
「私達も早くお風呂行こー」
「うふふ。そうね」
私とプルソンさんは微笑み合って、一緒に男湯ののれんをくぐった。
「なんぢゃ。ラーヴもこっちに入るのか?」
「がお。ジャチュとお風呂入りゅ」
「そうか。しかし、あの二人は相変わらずぢゃのう。リリーも本気を出せば、マモン程度の魔族を拒む事も出来るというに」
「え? そーなの? 魔族のマモンって言ったら、この世界の人間は結構恐れてるはずなんだけど?」
マモンちゃんが恐れられてる?
いやいやいや。
あんなに可愛い子が恐れられてるなんて……あ!
わかったかも!
可愛すぎて、近寄りがたいんだね!
分かる分かる。
私も前世で男だった時、可愛い女の子に声なんてかけられなかったもん。
ある意味、恐れてるって事だよね。
と言っても、おっさんが女の子に声なんてかけたら事案で逮捕なので、勿論子供の頃の話だ。
「何だかジャスが馬鹿な事を考えてる顔をしてる。マジヤバい」
むぅ。
失礼な。
「バカな事じゃないよ。マモンちゃんは可愛いから、皆から避けられてるんだろうなって思ってただけだよ」
「うわ。ホントに馬鹿だ」
「えー?」
「こら、セレネ。ジャスミン様に失礼な事を言うでない」
「いやいや。失礼も何も馬鹿っしょ」
フォレちゃんとセレネちゃんが睨み合う。
「ってか、魔族が恐れられてるって聞いたら、どう考えても恐怖でってなるっしょ。それを可愛いからとか馬鹿じゃん」
マモンちゃんに恐怖?
確かにマモンちゃんは魔族だけど、お話してみると見た目通りに凄く可愛いし、そんな風には思えないけどなぁ。
マモンちゃんは元気いっぱいの可愛い女の子だよ。
「ふん。これだから、元神は困るのう。ジャスミン様は、人間共が魔族に恐怖している事を踏まえて言っておるのぢゃ。それに、ジャスミン様から見ればマモンなど低級魔族の様なもの。あの様な雑魚、赤子を相手にするよりも容易いと思っておられるのぢゃ」
思ってないよ?
え? 何その例え?
赤子って……あ、でも、ちょっとわかるかも。
赤ちゃんって育てるの大変だもんね。
夜泣きもあるし、しっかりした睡眠も中々とれなくて大変なんだもん。
私は赤ちゃんを育てた事がないけどね。
私が全く関係ない事を考えている間も、フォレちゃんとセレネちゃんの2人は言い争う。
するとそこで、プルソンさんが睨み合う2人の間に割って入った。
「はいはい。喧嘩しないの」
プルソンさんに止められて、2人はプイッと可愛らしくそっぽを向いて、不機嫌になりながらも喧嘩を止めた。
私は喧嘩を止めてくれて良かったと思いながら、脱衣所で脱ぎ始める。
えーと、オネエさんと約束したから、ちゃんとタオルを巻いてー。
って、あ。
体を巻く用のタオルって、リリィが持ってくれてるんだっけ?
うーん……。
どうしよう?
そうして考える事10秒。
私が思い至った結論はこうだ。
よし!
無いなら仕方ないし、このままで良いよね!




