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002 幼女も光物には弱いらしい

 精霊達が年に1度開くお祭りスピリットフェスティバルの会場がある精霊の里に辿り着くと、私はその綺麗な風景に心を奪われる。

 そこは、豊かな自然に囲まれた素敵な場所だった。

 風に揺られて葉を揺らす背の高い草木。

 前世では写真でしか見た事の無い、外国で絶景と知られる塩湖の様に、底が浅くキラキラと輝く綺麗な川。


 私は精霊の里の綺麗な風景を眺めて心を奪われていたのだけど、トンちゃんの言葉で現実に呼び戻される。


「まさか三日の所を三時間で辿り着くなんて、全く予想出来なかったッスね。流石ハニーッス」


 はい。そうなんです。

 実は本来なら休憩をはさみながら、三日かけて来る予定が、リリィの飛ぶスピードがヤバすぎて三時間で到着したのだ。

 と言うか、正直怖かった。

 私はリリィと手を握って、引っ張られる様に空を飛んでいた。

 と言うか最早速すぎて、私はトンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんが振り落とされない様に、必死に重力の魔法で支えていた。

 おかげで私は疲労困憊ひろうこんぱいである。


「だって、まさかジャスミンが、私がプレゼントしたガーターベルトを着けて来てくれるなんて思わなかったんだもの」


 リリィが嬉しそうに話しながら、私の太股と言うか、私が着けているガーターベルトを見る。


「ジャス。そんな事より、ラテはトンペットと一緒に大精霊様達に挨拶に行って来るから、ここでプリュイとラーヴと一緒に待ってるです」


「えー! ボクもここに残るッスよ~。めんどくさいッス」


「何言ってるです! この中で一番成績が優秀なトンペットが行かずに誰が行くです!」


「仕方ないッスね~。優秀なボクが行ってあげるッスよ」


「がおー。わたちも行く」


「ラーヴもついて来るんスか?」


「がお。大精霊だいちぇいれいたまに挨拶あいちゃちゅちゅる」


「ラーヴは真面目ッスね~。それじゃあ、プリュイには悪いけど、一人でご主人の面倒をみててッス」


「わかったんだぞ」


「さっさと行くですよ。ジャス、ゆっくりここで休んでると良いです」


「あはは。うん。ありがとー。いってらっしゃい」


「がお」


「行って来るです」


 ラテちゃんは返事をすると、ラヴちゃんとおて手を繋いで宙に浮かび、トンちゃんと一緒に何処かへ飛んで行った。

 トンちゃんとラテちゃんとラヴちゃんがいなくなると、私は周囲を見回して、何処かゆっくりと休めそうな所を探す。

 すると、リリィが持って来た鞄からレジャーシートを取り出して、地面に広げた。


「ジャスミン。ここで休憩しましょう?」


「うん」


 私は返事をして、リリィが広げてくれたレジャーシートの上に靴を脱いで座った。

 すると、私が脱いだ靴を見ながら、リリィが私に訊ねる。


「そう言えば、厚底の靴はもう履かないの?」


「うん。厚底の靴って慣れれば歩く分には問題無いけど、走るのには向いてないし、もう良いかなって」


「あんなに身長が低いのを気にしていたのに、ジャスミンも大人になったのね。何だか寂しいわ」


「リリさんがどんどん大きくなるのが、置いて行かれるみたいで寂しいって、主様もこの前言ってたんだぞ」


「え!?」


「ちょ、ちょっとプリュちゃん!」


 私は顔を真っ赤にしてプリュちゃんの口を抑える。

 だけど、もう遅い。

 思いっきり全部聞いてしまったリリィは、みるみると顔を綻ばせて、満面の笑みを私に向けた。


「もう。ジャスミンったら。そんな事を思っていたのね」


 うぅ……。

 だって、不老不死になってから、私の成長は本当に止まっちゃったんだもん。

 そしたら何だか急に今後の事とか気になっちゃって、成長が早いリリィを見てたら、急に寂しくなったんだもん。


「内緒にしてって言ったのにぃ」


「ご、ごめんだぞ」


「良いよ」


 プリュちゃんが眉根を下げて謝るので、その姿が凄く可愛くて、私は直ぐ許してしまった。

 勿論、プリュちゃんの頭をナデナデしながら。


 そうして私がプリュちゃんの可愛さに癒されていると、背後から声が聞こえてきた。


「あれ? そこにいるのはジャスミンくんとリリィくんじゃないか」


 私は声に振り返って、私達の名前を呼んだ人物を見て驚いた。


「サガーチャちゃん!?」


「やあ。ジャスミンくん久しぶりだね。元気だったかい?」


 そう言って、サガーチャちゃんは私と目を合わせて微笑んだ。



 サガーチャちゃんはドワーフの国の王女様。

 年齢は17歳で私より7つも年上なのだけど、ドワーフの種族柄で見た目が幼くて、私と同年代に見える女の子だ。

 魔科学と言う魔法と科学を合わせたものを研究しているからか、王女様なのに髪の毛はボサボサで、ドレスでは無く大きめブカブカの白衣を着ている。

 


「久しぶりね。でも、何でアンタがこんな所にいるの?」


 そう言って、リリィがサガーチャちゃんに訊ねたら、サガーチャちゃんは少し不機嫌そうに答える。


「糞親父が、そろそろ結婚しろと煩くてね。嫌気がさして家出して来たんだよ」


「家出しちゃったのか!? 今頃王様が心配してるんだぞ!」


 プリュちゃんが驚いてサガーチャちゃんに喋ると、サガーチャちゃんは冷めた目で失笑する。


「心配? もし本当に心配しているのなら、大いに結構だよ。暫らく反省させてやるさ」


 サガーチャちゃん……相当怒ってるなぁ。

 よっぽど、くどくどと言われたんだね。

 って言うか、まだ17歳なのに結婚しろって、早すぎるよね。


「あっ。そうだジャスミンくん。確か誕生日が近かっただろう?」


「え? もう終わったよ?」


「なっ……そうか。しまったなぁ。それは失礼したね」


「あはは。気にしないで」


「ありがとう。それで、ジャスミンくんに私からのプレゼントがあるんだよ」


 そう言って、サガーチャちゃんが白衣のポケットから、腕時計サイズのリングを取り出す。

 私が何だろうと首を傾げていると、サガーチャちゃんがそれを私の目の前に出して微笑む。


「これは最近私が発明したサーチリングと言って、使用すると魔法の属性と特殊能力を調べる事が出来るんだ。主に敵と戦う時に使うのだけど、今の平和な世の中では使う機会は無いかもしれないから、ただの装飾品の腕輪と思ってもらって構わないよ」


「ありがとー。サガーチャちゃん」


 私は喜んでサーチリングを受け取って、腕にはめる。


 サイズはぴったりで、丁度良い感じ。

 腕輪についてるこの青い宝石は、確か魔石って言う魔力を宿した特殊な石だったよね。

 可愛くて、宝石みたいで綺麗だなぁ。


 目を輝かせてサーチリングを見ていると、リリィが私を見て、くすりと笑ってから微笑む。


「良かったわね。ジャスミン」


「うん」

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