022 幼女は便利なお洋服に心惹かれる
「食料用の家畜が一匹残らず奪われた?」
私達はセレネちゃんの用事の為に、家畜で生計を立てる村まで戻って来た。
村の中に入ってから、セレネちゃんの用事を済ませる為に居酒屋に向かって歩いている途中で、モーフ小母さんと再会する。
それで、モーフ小母さんから、村で起こった事件を聞いて驚いた所だった。
どうやら、この村で新たな事件が起こっていた様なのだ。
事件は昨日、お昼過ぎ頃に起こった。
魔幼女騒動で行方不明になっていた人が戻って来て、引きこもっていたモーフ小母さんの息子さんが外に出て、村の皆は事件が解決したと大いに喜んでいたそうだ。
だけど、そんな時に、勇者と名乗る一行が村にやって来た。
勇者の一行は、自分達は神に選ばれし特別な存在だと言って、村にある物を強奪した。
そして、家畜を焼き払って貪り食い、残った家畜さえも何日か分の食料になるだろうと、奪って行ったのだ。
勿論、村の人の何人かは抵抗をしたのだけど、全く歯が立たなかった。
それどころか、神に選ばれた勇者である自分達にたてつく悪だと言われ、殺されかけた人もいたそうだ。
結果、村の人はなすすべなく家畜を含め、あらゆる物を好き放題に強奪されて、今は皆疲弊しきってしまっているらしい。
「勇者ね~。案外、一部から魔王って言われてるリリーを狙ってたりして」
「私を? 本当にそうなら、いい迷惑だわ」
「ボクは、アレースとか言う神様のさしがねだと思うッス」
「ラテもそう思うです」
「ジャチュ、ねらわれる?」
「妾のジャスミン様の命を狙っているという事か。不愉快ぢゃ」
「主様は悪の根源じゃないんだぞ」
「モーフ小母さん、その勇者の一行が何処に行ったか分かる?」
私は真剣な眼差しをモーフ小母さんに向けて訊ねた。
「ご主人?」
「たしか……、東に向かったと思うわ。ここから東に向かって行くと、ハープと言う大きい都があるの。そこに行って、装備を整えるみたいよ」
ハープかぁ。
ハープなら私も知ってる。
天使が引いてる……って、それは楽器のハープだよ。
などと、私が一人ノリツッコミを心の中でしていると、セレネちゃんが顔を顰めてモーフ小母さんに訊ねる。
「何でそんな事おばさんが知ってんの? ちょー怪しーんだけど」
「それは――」
モーフ小母さんが答える前に、リリィが答える。
「モーフは特殊な能力で、寝ている相手に日記を書かせる事が出来るのよ。だから、それで知ったんでしょ」
「へ~。何それ? ちょー便利じゃん」
「って事は、自称勇者の連中は、この村に今朝まではいたって事ッスか?」
「はい。精霊様、その通りです。勇者の一行は、今朝、この村を出ました」
そっかぁ。
じゃあ、急げば追いつくかな?
「ちょっと待つです。もしかして、ジャスは、その自称勇者に会いに行くつもりです?」
「え? うん。そうだよ。村の人達から盗んだ物を、返して貰おうかなって思ったの」
私はラテちゃんの質問に笑顔で答えた。
すると、トンちゃんとラテちゃんとセレネちゃんが、あからさまに嫌そうな顔になる。
プリュちゃんとラヴちゃんは、私に同意してくれるようで、うんうんと首を縦に振った。
「ジャスミンなら、そう言うと思ってたわ。勿論私も手伝うわよ」
「そうじゃな。妾はジャスミン様について行くぞ」
私はリリィとフォレちゃんの言葉が嬉しくて、リリィとフォレちゃんの手を握った。
と言っても、フォレちゃんは小さいので、握ると言うよりは摘まむに近いけれど。
「リリィ、フォレちゃん、ありがとー」
私が笑顔を向けて感謝を述べると、2人は私に微笑んだ。
そうして、私達が微笑み合っていると、モーフ小母さんが、まるで意を決したかの様な表情で私を見る。
そして、私の顔から膝下までを見てから、私に話しかける。
「ところで、さっきから気になっていたのだけど、先日来た時とは違って、随分……、その、なんと言うか、大胆な格好をしているのですね」
……はい。そうです。
未だにスケスケのネグリジェです。
だって、替えのお洋服が無いんだもん!
私はモーフ小母さんに言われて涙目になる。
すると、モーフ小母さんは不味い事を言ってしまったと思ったのか、慌てて笑いを取り繕う。
「ごめんなさいね。あ、そうだわ。私の息子が引きこもりになった時に、何故か増えた服を差し上げますね。処分に困っていたから丁度良くて助かります」
「モーフ小母さん。ありがとー」
私はお礼を言いながらモーフ小母さんに抱き付いた。
モーフ小母さんは、困った表情を浮かべながら、抱き付く私の頭を撫でてくれた。
それから、私達はモーフ小母さんのお家に行ったのだけど、道中でセレネちゃんが驚きの発言をする。
「服なんて一着あれば十分なのに、人間って面倒な生き物よね~」
お話を聞くと、セレネちゃんの着ているお洋服は特殊な作りになっていて、全く汚れないらしい。
人の姿になっている時も今の幼い姿の時も、お洋服が伸縮していたから凄いとは思っていたけど、まさかの性能だ。
セレネちゃん曰く、神器の一つとの事で、それを言われて私は納得してしまった。
だってそうでしょう?
神様の神器なのだから、何でも有りって感じがするのだ。
と言うか、正直ちょっとだけ羨ましい。
それを着れば、もしかしたら、リリィのスカート捲りなども防げるのではないかと思ってしまう。
だけど、そんな事は無いようで、セレネちゃんに聞いたら言われた。
「んなわけないじゃーん。汚れない、は、イコール脱げないじゃないっしょ」
と。
私もそれを聞き、ニッコリと微笑んで言いました。
「うん。知ってた」
セレネちゃんのお洋服は、汚れの他に、臭いもつかないそうです。
神器セレネちゃんのお洋服は、とても便利だなぁ、と思いました。




