021 幼女の作り出すパンケーキは何ものにも代え難い
「妾は大精霊ドリアードの分身。木の精霊のフォレ=リーツぢゃ」
きゃー!
可愛いー!
さて、私がドリちゃんから契約の申し出を受けてから、実はかれこれ1時間位が経過していた。
私はドリちゃんとの契約を結んで、一度里を出る準備をしに宿に戻った。
宿に戻ってからは、無くなってしまった衣類以外の荷物を整理する。
そんな中で現れたのが、ドリちゃんの分身だと名乗る手のひらサイズのフォレちゃんだった。
私とトンちゃん達精霊さんは、フォレちゃんを見て目を丸くする。
リリィは目を細めて、フォレちゃんをマジマジと見て口を開く。
「言われてみれば面影があるわね」
うんうん。
と、私は頷く。
フォレちゃんの姿は、トンちゃん達同様の手の平サイズの可愛らしい見た目だ。
そして、ドリちゃんと同じ緑色の長い髪の毛と、つり目でエメラルドグリーンな瞳をしている。
服装も着物を着崩して着ていて、ドリちゃんがデフォルメされたらこうなるのかなって感じの、そんな姿をしている。
「流石は大精霊ドリアード様です。分身なのに、加護の力は変わらないです」
「え? そうなの?」
ラテちゃんの呟いた言葉を聞きとって、私が聞き返す。
すると、それにフォレちゃんが微笑んで答える。
「当然じゃ」
「って言うかさ~。何で名前が違うのよ? ふつー分身の名前なんて、変える必要ないじゃん」
セレネちゃんが怪しむような目つきでフォレちゃんを見て訊ねると、フォレちゃんは目を細めて、セレネちゃんと視線を合わせた。
「妾は有名な大精霊であろう? 大精霊が人と契約をするなど、世に混乱を招くだけぢゃ。それこそ、アレースとか言う神が望む戦争が起きかねん。ならば、混乱を出来るだけ避ける為に名を偽り、偽名を使って行動をするのが一番であろう?」
大精霊と契約するって、そんなに凄い事なんだね。
戦争が起きたら大変だし、フォレちゃんがドリちゃんの分身だって、言いふらさない様にしないとだよ。
「ふーん。ま、いーけど」
セレネちゃんとフォレちゃんが牽制し合う様に見つめ合う。
何だか、セレネちゃんとフォレちゃんの関係が不安だなぁ。
うーん……。直ぐには無理かもしれないけど、2人が仲良くなれる様に頑張ろう。
◇
精霊の里を出る準備が終わって、私達は精霊の里の入り口までやって来た。
すると、フォレちゃんが番精霊さんを見て話しかける。
「お勤めご苦労、と言いたい所じゃが、次からは気をつけよ」
次からは気をつける?
もしかして、ギャンジさん達を里に侵入させちゃった事かな?
「はい。面目ないです。二度と失態しない様に、水分補給を忘れません」
え?
どういう事?
私が二人の会話に困惑していると、肩の上に乗るトンちゃんが察してくれて、私に説明する。
「番精霊が苺牛乳で買収されて、侵入者達を通しちゃったんスよ」
「え? 苺牛乳で買収されちゃったの?」
どうしよう?
凄く可愛い。
「フルーツ牛乳ならわかるけど、苺牛乳で買収されるなんてお子様ッス」
トンちゃん、それただの好みの問題だよ?
それだと、フルーツ牛乳を貰えば買収されるって言っている様なものだよ?
「何言ってるです。トンペットも十分お子様です。ラテならコーヒー牛乳を貰わない限り、絶対買収されないです。コーヒー牛乳を貰えたら、職務放棄でお風呂あがりに頂くです」
ラテちゃんはコーヒー牛乳が好きだもんね。
って、貰っちゃダメだよ。
お風呂あがりのコーヒー牛乳より、精霊の里の方が大事だよ。
「アタシは苺牛乳で買収されちゃいそうなんだぞ」
「がお」
プリュちゃんとラヴちゃんがニコニコ笑い合う。
やーん。可愛いー。
「嘆かわしい連中よのう。そもそも、そんなものを貰ったからと言って、余所者を簡単に里に入れるのは禁止ぢゃ」
うんうん。
「でもフォレ様、もし、フォレ様の大好きなハチミツを出されたらどうするッスか?」
「無論、通すに決まっておろう」
通しちゃうの!?
「だったら、フォレ様もボク達と変わらないッスよ」
「むむ……」
「いいえ、ドゥーウィン。全く違うわ」
トンちゃんにフォレちゃんが言い返せずにいると、それを聞いていたリリィが前に出る。
そして、真剣な眼差しでトンちゃんを見て、リリィは言葉を続ける。
「ジャスミンが作ったパンケーキを食べる条件が、アレースの駒であるギャンジが持って来た苺牛乳、もしくはフルーツ牛乳を受け取らない事だったとしたらどうするの? ドゥーウィンは、それでも受け取るの?」
……うん?
どうしよう?
言いたい事は分かるけど、前提が追加されているせいで、全く別物になってる気がするよ?
私はリリィの発言に困惑したけれど、トンちゃん達はそうではないらしい。
トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんとフォレちゃんは、衝撃を受けたと言わんばかりに、目を見開いて驚いた。
そして、5人はごくりと唾を飲み込み、真剣な面持ちで頭を抱えた。
「なんと言う事ぢゃ! 命に代えても、ジャスミン様のパンケーキを優先しなければならぬ!」
「その通りッスよ! そんなの、ご主人のパンケーキを選択する以外ありえないッス!」
「盲点だったです! 比べるまでもないです!」
「主様のパンケーキを天秤にかけられたら、他の物が霞んでしまうんだぞ!」
「ちぇんべい! わたち、ジャチュのちぇんべいもほちい!」
「勿論よ」
リリィがラヴちゃんに爽やかにウインクする。
すると、安心してラヴちゃんはニッコリと微笑む。
「ねえ、こいつ等馬鹿なの? って言うか、結局食べ物につられてるのは変わってなくない?」
皆の会話を聞いていたセレネちゃんが、呆れた表情を私に向けて言うので、私は何も言わず苦笑で答える。
すると、セレネちゃんは、今度は真剣な面持ちで私に視線を向けた。
「まあいーわ。そんな事より、これから行くとこなんだけどさ。最初に行きたいとこがあんだけどいい?」
「行きたい所?」
「そそ。私居酒屋で手伝いしてんじゃん。そー言えばなんだけど、お休みちょーだいって、言ってくんの忘れたんだよね~」
え?
それ、普通に不味いのでは?
「そんなわけだから、ちょっと村に戻りたい」
「あはは。それなら、村に戻ろっか」
「ちょーありがとう! マジ助かるー」
そんなわけで、私達は一度セレネちゃんと出会った村に戻る事になりました。




