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018 幼女も焦る大事件

 リリィの大声を聞いて駆けつけて、宿屋の受付カウンターに来て見たのは、リリィと言い争うギャンジさんの姿だった。

 私はギャンジさんがいる事に驚き、その場で立ち止まる。


「全く上手く騙されたぜ。まさか魔性の幼女とその一味が、魔幼女と繋がりのある悪人だとは思わなかったね」


「だーかーらー! 元々そんなの無かったって言ってるでしょう! アンタこそどう言うつもりよ! 事と次第によったら、許さないわよ!」


「ふんっ。俺は騙されねえし、お前等に教えてやるつもりもねえ!」


 えーと……うん。

 リリィが何に対して怒ってるかは分からないけど、ギャンジさんは、セレネちゃんと私達が手を組んで皆を騙してたって思ってるんだね。

 じゃあ、誤解を解かな……って、あれ?

 ギャンジさんってロリコンになちゃって、リリィにベタ惚れしてなかったっけ?

 元に戻ってる?


 私がギャンジさんの様子に首を傾げていると、私の後から来たセレネちゃんが顔を真っ青にさせて私の腕に掴まった。


 セレネちゃん?


「ちょーヤバい。マジヤバいよジャス。アレースの馬鹿だ」


「え?」


「アレースの馬鹿の加護が、あの男から感じるのー!」


「アレースさんの加護?」


 セレネちゃんの言葉に私が首を傾げると同時に、私とセレネちゃんの会話を聞いてギャンジさんが私達に気が付く。

 そして、もの凄い怒りの形相で私達を睨んだ。


「黒幕のお出ましか」


 く、黒幕!?


 ギャンジさんが私に向かってゆっくりと歩き出す。

 それを見て、直ぐにリリィが私の前まで移動して、再びリリィとギャンジさんが睨み合う。


「そこをどきな。俺は黒幕、魔性の幼女に用があるんだ」


「お断りさせてもらうわ。ジャスミンに指の一本でも触れたら殺すわよ」


「やっぱりな。物騒な事を言いやがる。アレース様の仰られた通りだ」


 ギャンジさんが私に向かって指をさし、大声を上げて言葉を続ける。


「人々を騙し、この世界を支配しようと企む魔性の幼女! 貴様に引導を渡してやるぜ!」


 え、ええええーっ!?

 何それ!?

 何の話!?


「そんな事企んでないよ!」


「はんっ。どうだかな。俺もすっかり騙されてたが、もう騙されねえ。アレース様に救って頂けなければ、俺は永遠とロリコンの変態野郎だったんだ!」


「ちょっと良いかい? 事情はよく解からないのだけど、ジャスミンくんは決して君が言う世界の支配なんて望んでいないよ。それはドワーフ王国の王女である私が保証しよう」


 わぁ。

 サガーチャちゃんかっこいい。


 話を聞いていたサガーチャちゃんが、リリィの横に並んでギャンジさんに堂々と話す姿は、一国を治める王族の姿そのもので凄くかっこよかった。

 だけど、どうやらギャンジさんには通用しないらしく、わなわなと震えだして怒気が増していく。


「お前がドワーフの国の王女? 笑わせるな! ドワーフの国の王女が何故そんな格好をしている!」


 サガーチャちゃんの姿は、勿論皆さんご存知のダボダボブカブカ白衣姿である。

 そして頭は今日もボサボサで、だらしがない以外の言葉が見つからない。

 しかし、そこは流石のサガーチャちゃん。

 堂々と胸を張り、掌を胸に添えながら、びしっと答える。


「これは私の趣味だ」


 いやいやいや。

 サガーチャちゃん、もっと他に言う言葉は何か無かったの?

 さっきまで凄くかっこよかったのに、いっきにおバカな感じになっちゃったよ?


「ふざけるな! だいたい格好と言えばそうだ! 本当に魔幼女の仲間でないのであれば、魔性の幼女のその格好は何だ!? どう見ても男を誘惑して騙す気しか感じられないだろ!」


「あっ……」


 一同が私に視線を向ける。


 はい。そうです。

 私は今痴女丸出しのスケスケネグリジェ乳ベルトガーターベルト女です。


 出来ない。

 これは言い訳出来ないよ!

 って言うか、人の事をどうのこうのと言えないよ!

 私のバカー!


 私は顔を真っ青に……真っ赤に? まあいいや。させながら、胸と股間を隠す。


「どう見ても魔性の幼女は魔幼女と手を組んで男を騙し、金銭を奪っている! アレース様の言葉は間違っていない!」


「まあまあ、落ち着いて話を聞くッスよ」


 怒るギャンジさんの前にトンちゃんがフワッと飛んで行き、言葉を続ける。


「確かにご主人は痴女の才能がある天才ッス」


 そんな才能無いよ?


「だけど、吸血女と……じゃなかった魔幼女と知り合ったのは、あの遺跡が初めてッスよ。そこで知り合って、友達になっただけッス」


 うんうん。


 と、私が全力で首を縦に振ると、ギャンジさんは首に横に振った。


「アレース様から聞いてんだよ。精霊達もグルだってな」


 ギャンジさんがトンちゃんを睨みつける。


「だから俺達はお前等を一掃しなくちゃいけない。人に仇なす筆頭の魔性の幼女とその一味、そして精霊達をな!」


 その時、宿の外から精霊さん達の悲鳴が聞こえてきた。

 悲鳴の数は1人や2人では無い。

 精霊さん達の悲鳴が、恐ろしくなる程に沢山聞こえてきたのだ。


「始まったようだ」


 ギャンジさんがニヤリと笑う。


「俺の仲間が、今まさにお前達精霊を駆除する為に暴れ始めたようだぜ」


 仲間……?


 ギャンジさんの言葉を聞いてトンちゃんを始めに、今まで事情が分からず黙って聞いていたラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんが一斉に宿の外に出た。

 そして、サガーチャちゃんがギャンジさんを睨みながら訊ねる。


「そう言えば気にはなっていたんだけど、ギャンジと言ったね。君はどうやってこの精霊の里に入る事が出来たんだい? 結界や番精霊がいるんだ。そう簡単には侵入出来ない筈だ」


「簡単な事だ。アレース様の加護は神の加護。アレース様から神の加護を頂いた俺達が、番精霊や精霊如きの結界を越えられないとでも思ったか?」


「成程ね。確かにその通りかもしれないね」


 この時の私は、突然の状況に頭が追いついていかなくて、ただその場でお話を聞いている事しか出来なかった。

 だけど、そんな私をリリィが突然抱きしめる。


「ここは私に任せて、あの子達の所に行ってあげて」


 その言葉で私はハッとなる。


 そうだ!

 こんな所で、ボーっとしてる場合じゃないよね!


「ありがとー! リリィ!」


「ええ」


 リリィが優しく微笑む。

 私はリリィの微笑みに勇気を貰って、宿の外に飛び出した。


 考えるのは後だ!

 今はトンちゃん達と一緒に、精霊さん達を助けるんだ!


 私は宿を出て周囲を見まわして驚く。

 周囲は火の海と化していて、精霊の里の木々は燃え上がり、精霊さん達のお家からも炎が上がっていた。

 ついさっきまで精霊さん達が楽しくお話をしていたのが、嘘だったかのように絶望だけが押し寄せる。

 私は一人でも多くの精霊さんを助ける為に、目を凝らして周囲を確認する。

 だけど、精霊さん達の姿も、トンちゃん達の姿も無かった。


 酷い。

 こんなの酷過ぎるよ!

 どうしよう!?

 誰もいない!

 トンちゃんもラテちゃんもプリュちゃんもラヴちゃんも、皆何処に行ったの!?


 次第に私の中に焦りが生まれ、冷静さを失っていくのを感じた。

 私は一度落ち着く為に、目をつぶって深く深呼吸する。


 焦っちゃダメだよ私。

 こういう時こそ落ち着くんだ。


 私の中には、まだ焦る気持ちは残っている。

 だけど、深く深呼吸をする事で、だいぶ冷静になる事は出来た。

 ゆっくりと目を開けて、周囲を見ながら冷静に考える。

 そして、私はスピリットフェスティバルの会場に皆が集まっている事を思い出した。


 とにかく急ごう。

 精霊さんを、皆を助けるんだ!


 私は魔力を両手に集中して、周囲で燃え続ける木やお家に狙いを定める。

 そして、水の魔法で炎を消しながら私が移動を始めようとしたその時、私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「主様!」


「プリュちゃん!」


 呼ばれて振り向くと、プリュちゃんが手を振って私に近づいて来ていた。

 それを見て、私は急いでプリュちゃんに近づいた。


「大変なんだぞ!」


「うん。わかってる。精霊さん達、皆を助けないと! それに、里を襲った人達が放った火も、早く消さないと!」


「違うんだぞ! この火は全部火の精霊達の仕業なんだぞ!」


 ………え?

 火の精霊さんの仕業?


「許可無しに里に侵入した人間達に、皆が怒っちゃって大暴れしてるんだぞ!」


 ええーっ!?

 そっち!?

 大暴れしてるのそっちなの?


 そこで私はふと気づく。

 これだけ沢山の物が燃えているというのに、何故か私達がいた宿だけは無事だという事に。

 と言うか、宿だけ神々しく光ってて守られていた。


 私の心に生まれた焦りは全て消え去り、私の心は穏やかに和らいでいく。

 そして、それと同時に、侵入した人達は無事なのかなぁ、と心配になった。

 と言っても、勝手に精霊の里に入って来て、精霊さん達を傷つけようとしていたのだから仕方が無いのだけど。


「ドリアード様がもの凄く怒って、大変な事になってるんだぞ!」


 あ、うん。

 何となくだけど、そうじゃないかなって思ったよ。

 ドリちゃん激おこだよね。


「えーと……、ドリちゃんの所まで案内してほしいな」


「わかったんだぞ!」

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