017 幼女が閃くおバカな発想
スピリットフェスティバル開催まで後僅かだと言うのに事件が起きる。
それは、私が鼻にティッシュを詰めて間抜けな顔になったリリィを連れて、私達が泊まっている宿にお洋服の着替えに来た時の事だった。
私が持って来た鞄の中に入っていた私の着替えが、全て無くなっていたのだ。
しかもそれだけじゃない。
リリィの着替えも無くなっていたのだ。
私は絶望に打ちひしがれて、その場にペタリと座り込む。
この時の一番の問題は、お洋服を盗まれてしまった事じゃない。
今の私の姿が、スケスケで肌やパンツが丸見えのネグリジェとパンツとガーターベルトとニーソと靴しか身に着けていないという事だ。
と言うか、リリィに脱がされてしまった私のお洋服達は、私の魔法の被害に遭ってお亡くなりになりました。
私が微動だにしなくなると、リリィが私を心配して肩に触れる。
「ジャスミン。ええと……ごめんなさい。そ、そうだわ。私の服を貸してあげる」
「ううん。そんな事したら、リリィが露出魔になっちゃうもん。そんな事させられないよ」
「ジャスミン……」
リリィが私を背後から抱きしめる。
「本当にごめんなさい」
「もう良いよ。気にしな――」
「何だか私、今のジャスミンを見ていたら興奮してきたわ」
「やっぱり気にして!」
私は勢いよく立ち上がり、タタタッと走ってリリィから距離をとる。
すると、それを見ていたセレネちゃんが呆れながら、私達に話しかける。
「ねー。それよりさ~。どうすんの? 服盗まれるとかマジヤバくない?」
「う、うん。でも、誰がこんな事したんだろう?」
「そうよね。ジャスミンの服を盗むのは理解出来るけれど、私の服を盗むのが理解出来ないわ」
どっちも理解出来ないよ?
「博士。何か良い発明品はないのか? このままじゃ主様が風邪を引いちゃうんだぞ」
「うーん。そうだね~」
「ご主人は馬鹿だから、風邪は引かないと思うッスよ」
トンちゃん。
失礼な事言わないで?
「ジャチュ。ひ、ちゅける?」
ラヴちゃんの気持ちはありがたいけれど、こんな所で火をつけてしまったら、大火事の大事件になってしまう。
だから、私はラヴちゃんに微笑んで、頭を撫でながら答える。
「ううん。大丈夫だよ。ありがとーラヴちゃん」
「がお」
「ラテは良い事を考えたです」
そう言って、ラテちゃんが私の頭の上で立ち上がる。
「良い事?」
「です。博士の洋服を、ジャスが借りれば良いです」
「あぁ。なるほどだよぉ。ラテちゃん頭良い」
私がラテちゃんの提案に感嘆と声を上げると、サガーチャちゃんが眉根を下げて首を横に振った。
そして、私に視線を向けて、苦笑しながら話す。
「言っただろう? 家出したって。替えの服なんて持ち合わせていないし、持っているのは、今着ている白衣とパンツだけなんだ。だから、いつも洗濯は寝る前にしているんだよ」
「ええぇぇーっ!?」
私は驚いて声を上げ、ラテちゃんとトンちゃんはサガーチャちゃんに呆れた表情で視線を向けて呟く。
「博士の癖に大馬鹿です」
「万策尽きたッスね」
正直言って、こんな所で着るお洋服が無くなるなんて思わなかった私は、絶望に打ちひしがれてしまった。
だけどそんな中、リリィが珍しく反省をしてくれたのか、私の落ち込む姿を見て真剣な面持ちで声を上げる。
「私、今から宿の店主に怪しい人が来なかったか聞いて来るわ。もしかしたら、服を盗んだ犯人がわかるかもしれないもの」
「リリィ……」
「あっ。リリさん。アタシもついて行くんだぞ」
リリィとプリュちゃんが部屋を出て行く。
私は2人を見送ってから、落ち込んでいても仕方が無いので、何か羽織る物は無いかと部屋の中を見回す。
ベッドのシーツは流石に宿に迷惑掛けちゃうし……って、あ。ポーチだ。
そう言えば、ポーチはベッドの上に置いて行ったんだっけ。
私はベッドの上に置いた腰かけポーチを手に取って、じーっと見つめた。
そして、私は閃く。
それはもう、おバカな事を。
「何やってるッスか? ご主人」
私は閃いたまま行動し、それを見たトンちゃんが困惑しながら私に訊ねた。
だから、私は少し恥ずかしいなと思いながらも答える。
「ポーチにベルトがついてるでしょう? だから、そのベルトを胸に巻いたら、大事な所が隠せるかなって思って」
そう。私が閃いたおバカな事。
それは、ポーチについているベルトを胸に巻く事なのだ。
ベルトの太さは、決してそこまで太く無い。
だけど、私の小さなおっぱいなら問題無く隠せてしまうのだ。
我ながらおバカなアイデアだけど、かなり有効的だと自分を褒めてあげたい。
ちなみ、ベルトはポーチから取り外し可能なので、ポーチは外します。
そんなわけで、ちっぱいな私は幼児体型なおかげでベルトを難無く胸に巻く事で、露出度を見事に減らす事に成功した。
恥ずかしさは増した気もするけど、背に腹は代えられないのだ。
「ジャスミンくん。やっぱり君は面白いね。ジャスミンくんのそういう所、私は好きだな~」
「えへへ」
私は何だかサガーチャちゃんに褒められた気がして照れると、丁度その時だ。
「どう言うつもり!?」
と、部屋の外からリリィの大声が聞こえてきた。
その声を聞いて、私も皆も何事かと部屋を出て、リリィとプリュちゃんが向かった店主さんがいる受付カウンターへと向かった。
そして、受付カウンターまで辿り着き、私は驚きのあまり思わず息を呑みこむ。
そこでリリィと言い争いをしていた人物は、ここにいる筈のない人物だった。
だから私は驚いた。
ここにいる筈がない人物、いいや、この精霊の里に入れるはずがない人物を見て私は驚いたのだ。
「ギャンジさん?」
私はここにいる筈のない人物を見て、そう小さく呟いた。




