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016 幼女の戦いが今始まる

 スピリットフェスティバル当日の朝。

 今日は精霊の里が、朝早くから活気にあふれている。

 精霊の里の中心には大きな広場があり、スピリットフェスティバルの会場として使われる予定だ。

 そして、今その大きな広場の中心で、舞台が設けられていた。

 精霊さん達は舞台の周りで、お喋りをしていたりダンスを踊ったりと、皆がスピリットフェスティバルの開始を楽しみにして待っていた。


 勿論、精霊さん達だけでなく、私もすごく楽しみだ。

 楽しみと言えば、ラヴちゃんも本当にワクワクしていて、お話を聞いて納得。

 実は、生まれたばかりのラヴちゃんは、今回のスピリットフェスティバルが初めての参加らしいのだ。

 おかげで凄く興奮していて、そんなラヴちゃんの為に、プリュちゃんが会場を案内すると言ってくれた。

 ラヴちゃんは凄く喜んで、プリュちゃんと一緒に2人で出かける。

 私もついて行こうと思ったのだけど、セレネちゃんが会場から少し離れた木陰で、凄くつまらなそうな顔をして座っていたのでやめた。


 私はセレネちゃんの横に座って、一緒に精霊さん達が楽しそうにしている姿を見つめる。

 トンちゃんとラテちゃんは、オレンジジュースを持って、私の膝の上に乗った。

 サガーチャちゃんはリリィと何かお話をしていたけど、スリーサイズの次は下着の色がどうのと聞こえたので、聞かなかった事にした。


 ゆっくりと時間が過ぎていく。

 私はセレネちゃんを横目で見て、早く皆と打ち解けてほしいなぁと、考えていた。


 だけど、それは最早過去の事。

 私は今まさに、大地を揺るがす程の戦いのさなかにいた。


「お願いだから! お願いだからリリィ! 今日はそういうのやめてってば!」


「聞いてジャスミン! ジャスミンの魅力を存分に発揮して、精霊達に見せつける必要があると思うの!」


「そんなの必要ないよ!」


 はい。いつものリリィの暴走です。

 何があったのか簡単に説明をしましょう。

 私はセレネちゃんの横に座って、精霊さん達を見ていたわけだけど、サガーチャちゃんとお話していたリリィも同じ様に私の横に座っていた。

 だからこそ聞こえてしまったのだろう。

 私は精霊さん達を見て思った感情を、ぼそりと呟いたのだ。


「こんなに皆が楽しみにしているお祭りに誘って貰えて凄く嬉しい。私、精霊さん達に何かしてあげたい」


 それを聞いたリリィが、もの凄い勢いで宿に行った。

 そして、直ぐに戻って来たかと思うと、私に見せたのはスケスケのネグリジェだった。

 私がリリィに首を傾げて、どうしたのかと問うと、リリィが言った一言がこれである。


「これを着れば、ジャスミンの柔肌とパンツが丸見えになるでしょう?」


 だった。

 本当に意味が分からなかったのだけど、実は朝食をとっている時に、トンちゃんとプリュちゃんから聞いたお話が原因だった。


 そのお話とは、こんな事である。

 まず、私は今まで数々の事件をパンツで解決してきたと、精霊さん達の間でも有名だった。

 実際はそんな事は多分ない筈なんだけど、とりあえずそれは今は良いとして、ここからが本題だ。

 精霊さんの中でもトップクラスの実力者であり、更に変わり者で有名らしいトンちゃんとラテちゃんと契約を結んでいるという事実。

 更には元々成績が良くないプリュちゃんに加えて、生まれて間もないラヴちゃんを育て上げ、今では驚くほどに優秀な2人。

 挙句の果てに、大精霊のドリちゃんをも骨抜きにした私。

 そんな凄腕の精霊使いである私は、精霊界では本当に凄い人物だと言われているようだ。

 そんなわけで、私は精霊さん達から、凄いパンツの女の子として世界中で噂されていたらしい。


 と言うか私も今朝の朝食の時に、トンちゃんとプリュちゃんから教えてもらうまで、そんなの知らなかった。

 その噂があったからこそ、是非スピリットフェスティバルに招待してほしいと、トンちゃん達は簡単に招待状をゲット出来たわけだったらしい。


 って言うか、凄いパンツの女の子だと、凄いパンツを穿いた女の子みたいで凄く嫌なんだけど?


 と、私はお話を聞いて肩を落とした。

 この時は、リリィはまだ目を輝かせて聞いていただけだった。

 だけど、私の失言で火がついたらしく、是非とも私のパンツを皆に見てもらおうと暴走したのだ。

 何故そこでスケスケの肌が見えちゃうネグリジェなのかとも思うけれど、最早そんな事はどうでも良かった。


 私の服を脱がしてネグリジェを着させようとするリリィに、私は必死に抵抗するべく、全力で魔法を使い続ける。

 雷の魔法で私とリリィを引き離すような強力な磁場を生み出し、重力の魔法で磁場を中心にして重力を逆向きに発生させて、磁場と重力で私とリリィの間に目に見えない強力な壁を作り上げる。

 更に、私の周囲も決して怠りはしない。

 火の魔法で触れると肉塊が溶けてしまう程の高熱を放ち、氷の魔法で触れると肉体が凍り付いて砕ける程の冷気を飛ばす。

 そして、何故かワイワイと集まって来た精霊さん達に配慮して、私とリリィを囲むバリアの様なものを出現させて、外に被害が及ばない様にした。


「な、何これ!? マジ何なの!? って言うか、アホなのこいつ等!? こんなくだらない事で天変地異が起きてんじゃん!」


 私とリリィの攻防を見て、セレネちゃんが顔を青ざめさせてトンちゃんに訊ねると、トンちゃんはオレンジジュースを飲みながら答える。


「大丈夫ッスよ。地面にまだ穴が空いて無いッス」


「地面に穴!?」


「今日は周りの天候も変わってないから、まだ穏やかな方です」


「これで穏やか!?」


 トンちゃんに続いてラテちゃんがあくびをしながら答えると、セレネちゃんはいっそう顔を青ざめさせて、一緒に見ていたサガーチャちゃんに顔を向ける。

 すると、サガーチャちゃんは苦笑して頷いて、セレネちゃんは再び私達に視線を向けて呟く。


「直ぐに降参して正解だったじゃん。良かった~。下手に戦い挑まなくて」


「やっぱり神の時と違って、今の姿だとご主人とハニーには敵わないッスか?」


「いやいや。神の時でも無理でしょこれ。絶対ヤバいじゃん。こんなん私みたいな、かよわい系神様が敵うわけがないっしょ」


「そうッスか」


 トンちゃんはセレネちゃんの言葉を聞いて、ズズズとオレンジジュースをすする。

 と、そこで、トンちゃん達の背後からプリュちゃんとラヴちゃんがやって来る。


「何があったんだぞ!? 地面が割れてるんだぞ!」


「が、がお!」


 ちなみに、トンちゃん達の会話もプリュちゃんとラヴちゃんの驚いた声も、私には全く聞こえていない。

 何故なら、周囲の魔法の音が煩くて聞こえないから……では無く、勿論それもあると言えばあるのだけど、原因はそこでは無い。

 私は今、大変危険な状況に追いやられている。

 リリィの恐ろしい執念は、私の魔法をいとも簡単に弾き飛ばし、私は今まさに上着とスカートを脱がされて悲鳴を上げている所だったのだ。

 そんなわけで、暫らくの間は私の醜態を見せたくはないので、周囲にいるトンちゃん達の会話をご堪能下さい。


「マーッ!? 本当に地面割れてんじゃん! ヤバすぎっしょ!」


「大丈夫ッスよ。いつもの事ッス。あ、プリュそれ美味しそうッスね? そのゼリー何処にあったッスか?」


「あっちにって、そんな事より何かあったのか!? 凄い事になってるんだぞ!」


「ジャチュー」


「いつものッスよ。じゃあ、ボクはゼリーを取りに行って来るッス」


「ラテのもよろしくです」


「えー。嫌ッスよー。自分で取りに行くッスよ」


「ラテは今ジャスがやりすぎない様に見ているから忙しいです」


「仕方が無いッスね~」


「早く主様とリリさんを止めるんだぞ!」


「良かった~。話が通じる精霊もいるじゃん」


 と、セレネちゃんがこの場に来たプリュちゃんを見て安堵のため息を吐きだした時、私とリリィの戦いに終止符が打たれた。

 結果は勿論……。


「きゃーっ!」


 私の惨敗です。


 そんなわけで、私はリリィに強制的にお洋服を脱がされて、ネグリジェを着せられてしまった。

 今の私は悲しくも痴女と呼ぶに相応しく、スケスケのネグリジェにパンツにガーターベルトとニーソと靴だけと言う、酷いありさまだった。

 リリィの顔はやりきったと言いたげな爽やかな笑顔に恒例の鼻血。

 私はリリィの鼻血を拭いながら睨みつけた。


 私とリリィの激しい戦いが終わると、集まっていた野次馬と化した精霊さん達が一斉に歓声を上げる。

 凄いーだとか、可愛いーだとか、楽しいーだとか、面白いーだとか色々で、私とリリィの争いは精霊さん達にとって、スピリットフェスティバルの余興としては十分だったようだ。

 私は透けて見えてしまっている胸を腕で隠しながら、楽しそうに笑っている精霊さん達を見て、精霊さん達が喜んでくれるなら、まあ良いかと微笑んだ。


「って、そんなわけないでしょー!」


「わっ! 急に声を上げて、どうしたんだぞ?」


「ジャチュ?」


「どうしたもこうしたも無いよ! リリィのおバカ! こんな姿じゃ恥ずかしくて、何にも出来ないよ!」


「ジャス。そんな事より、割れた地面を元に戻すです」


「え? あ、うん」


 私はラテちゃんに言われて、土の魔法を使って、割ってしまった地面を元に戻す。

 それを見て、セレネちゃんがボソリと呟く。


「うっわ凄~。人間やめてるわ。流石は凄いパンツの女の子」


 人間やめてないよ?

 って言うか、その呼び方止めてくれないかな?


 こうして、地面を元に戻した私は、お洋服を取りに行こうと固く決意した。

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