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162 幼女は恐怖し震え続ける

 昨日見た悪夢を思い出して、私はその悪夢に出て来た黒紫色に淡く光るゼウスさんを見て恐怖した。

 体が震えて止まらない。

 今にもここから逃げ出したくなる感情が治まらない。

 私の側でぐったりと横たわるリリィを見て、恐怖は更に高まっていく。


 ゼウスさんが私達の村、トランスファがある方角をジッと見ていた。

 何をするでもなく、ただジィッと見つめる。


「ジャスミンく……いいや。ナオくん、悪いが、私の白衣のポケットに入っている薬を取ってくれないか?」


「にゃ?」


 ナオちゃんがサガーチャちゃんに近づき、ポケットをあさって薬を取り出す。


「これにゃ?」


「ああ、ありがとう。それは【神無理かみなり】の試作品でね。この程度の能力なら打ち消せると思うんだ。それをアマンダくんと私に飲ませてほしい」


「わかったにゃ」


 ナオちゃんがサガーチャちゃんとアマンダさんに薬を飲ませて、2人にかかっていた能力の効力が消えた。


「助かったよ。ありがとう、ナオくん」


「ナオ、ありがとう」


「にゃ~」


 サガーチャちゃんはナオちゃんにお礼を言うと、リリィの側まで歩いて来てしゃがむ。


「リリィくんがここまでの重傷を負わされるとは……」


 サガーチャちゃんが片眼鏡の様な物を取り出して、それをかけてリリィを再び見る。


「これは……」


「博士、どうしたッスか?」


「どう言うわけか、この世のことわりを無視してるね。ジャスミンくんの回復魔法で傷は癒せている様だけど、ダメージがそのまま残っているみたいだよ」


「え? マジッスか?」


「ああ。リリィくんだからこそ無事ではあるようだけど、こんなのを我々が食らいでもしたら、確実に死んでしまうだろうね。いや、最悪存在が消えてしまうかもしれない」


 サガーチャちゃんがトンちゃんに説明を終えたのと同時に、ゼウスさんに変化が起きる。


「コノ罪深キ世界ニ死ヲ。コノ罪深キ世界ニ死ヲ。コノ罪深キ世界ニ死ヲ。コノ罪深キ世界ニ死ヲ。コノ罪深キ世界ニ死ヲ…………」


 ゼウスさんは何度も何度も同じ事を呟き始めた。


「完全に暴走状態になってしまってるの~。このままだと危険なの~」


「おいたん、ちびりそう」


「馬鹿な事を言ってる場合じゃないです! 早く止めないと駄目です!」


 ラテちゃんが叫んだ時、ゼウスさんの背後にあった大きな円盤が禍々しい黒い光でゼウスさんを包み込んだ。

 そして、大きな円盤は禍々しい黒い光と一緒に、ゼウスさんの体の中に入ってしまった。


「オオオオオオッッ!!」


 ゼウスさんは咆えると、視線を向けていた村の方へ向かって、もの凄い速さで飛び去ってしまった。


「ま、マジでヤバくないッスか!? 絶対村に行ったッスよ!」 


「早く追うで……いや、待つです! リリィがいない状態で止めるなんて危険です! リリィを起こすです!


「そんな! ダメなんだぞ! リリさんだって敵わなかったのに、これ以上無理させられないんだぞ!」


「しかし、そんな甘い事を言っておれぬのも事実ぢゃ。ゼウスを止めるのをリリーにも手伝って貰うしかあるまい」


 精霊さん達が言い合いを始めてしまった。

 すると、アマンダさんとナオちゃんが顔を見合わせて頷き合う。


「私とナオは先に村に行くわ! 村の住人を一人だって殺させない!」


「ニャーと姉様なら、全力で走れば、ここから村までの距離程度だったら直ぐに行けるにゃ!」


 アマンダさんとナオちゃんの2人が走り去る。


 私は驚きと恐怖や気絶してしまったリリィの事で頭が混乱してしまっていて、何も考えられなくなってしまっていた。

 その場でただペタリと座り込んでしまっている私は、何も考えずにリリィを見る事しか出来なかった。


「けほっ……。最っ悪……っ」


 リリィが血を吐いて目を覚ます。

 その瞬間、私の思考は動き出して、勢いよくリリィを抱きしめる。


「リリィ! 良かったぁ」


「じゃ、ジャスミン!? ど、どうしたの?」


「ハニー、大変ッスよ! 老害神が村に行っちゃったッス! 村の皆が皆殺しにされちゃうッスよ!」


「どう言う事よ?」


「ゼウスが悪い魂を取り入れすぎて暴走したです」


「それだけじゃないの~。今のゼウスはことわりを無視出来る存在になってしまってるの~」


「悪い魂を吸収しすぎた結果だよ~。仮にも善の存在である神様が、悪の存在である魔族に転生される為にこの世界に来た魂を吸収しすぎなんだよ~」


 ラテちゃんとシェイちゃんとウィルちゃんがリリィの質問に答えると、リリィが私の肩に優しく触れて体を離して、私と目を合わせた。


「そう。とにかく村が危ないのでしょう? 早く村に戻りましょう。ジャスミン」


「……うん」


 頷いた私の手は、恐怖で震えていた。

 怖くて怖くて仕方が無くて、村の皆を助けに行かないとダメなのに、悪夢の事を思い出したせいなのか逃げ出したくて堪らなかった。


「ジャスミン」


 リリィが優しく微笑んで、少し腰を上げて私を抱きしめた。

 私の顔がリリィの胸に包まれて、リリィの心臓の音が伝わってくる。

 何だか頬が熱くなるのを感じながら、次第に気持ちが落ち着いていくのが自分でもわかった。

 気がつけば震えも止まって、私はとても安らかな気持ちになっていた。


 体の震えが止まって少し経つと、リリィが私から体をゆっくりと離して、私に優しく微笑んだ。

 私は何だか照れくささを感じて苦笑すると、リリィが私のおでこにキスをした。


「ひゃぅっ! り、リリィ!?」


「うふふ。本当は口にしたいけど、それはジャスミンが良いって言ってからでないとダメでしょう?」


「そ、そうだけど……って、そうじゃなくて!」


 な、なんなの!?

 突然だから、びっくりしちゃったよ!

 そ、それに、キスとかそんなの前世でも全然一度も経験ないし、例えおでこにだって心の準備が必要なの!


「でも、これで少しは思い残す事も無くなったかしら?」


「え? 思い残す事? って、何言って――」


「ジャスミン。ジャスミンはここに残って? 村には、私だけで戻るわ」


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