015 幼女の目標は当日限定
スピリットフェスティバルが行われる精霊の里への入里チェックは、とても厳重で招待状が無いと大変である。
それを知ったのは、私達がセレネちゃんを連れて精霊の里に戻って来た時の事だった。
「え? セレネちゃんを連れて入れないの?」
私は里の番人ならぬ番精霊さんに通せんぼされて、眉根を下げて訊ねると、番精霊さんは無言で頷く。
トンちゃんにどうしようと視線を向けると、トンちゃんはやれやれとでも言いたげな表情を私に向けてから、番精霊さんに交渉する。
「心配しなくても、ボクが大丈夫って保証するッスよ。責任は取らないッスけど」
トンちゃん?
最後の言葉は凄く余計な一言だと思うよ?
「駄目だ。見た所その子は悪魔。招待状も無しに責任も取れないなら、通す事なんて出来ない」
ほらぁ。
やっぱり一言余計だったよぉ。
「固いッスね~。せっかくのスピリットフェスティバルッス。ここは無礼講でいくッスよ」
「駄目なものは駄目だ」
困ったなぁ。
どうしよう……。
私が困り果てて悩んでいると、リリィが1人でスタスタと歩いて里の中に入って行こうとする。
番精霊さんがリリィを通せんぼしようと前に出るけど、リリィを止められるわけも無く軽くかわされて、リリィは里の中に入ってしまった。
「里の結界をすり抜けた!?」
番精霊さんが驚いて、顔を真っ青にさせてリリィを見た。
リリィは番精霊さんの事を全く気にせずに、私に視線を向けて微笑む。
「ジャスミン少し待っててね。ドリアードを連れて来るわ」
「え? ドリちゃん?」
「ええ。ドリアードは大精霊でしょう? 一応偉い立場なんだもの。ドリアードに許可させれば問題無いでしょう?」
「そ、そうかもだけど……」
ドリちゃんの迷惑にならないかな?
それに、大精霊の立場を利用するなんて、良くないと思うもん。
うん。
そうだよね。
リリィの気持ちは嬉しいけど、別の方法を……。
「行って来るわね」
私が別の方法を考えようとしたその時、そう言ってリリィは私に軽く手を振って、もの凄い速度で走り去ってしまった。
「あっ。リリィ!」
番精霊さんが、ポカーンと口を大きく開けて硬直してしまっている。
それを見て、今まで事の成り行きを黙って見守っていたセレネちゃんが、私の耳元でこそこそと小声で喋る。
「ねえ。今の内に行けんじゃない? あの精霊驚きすぎて固まってんじゃん」
「え? ダメだよ。そんな事したら、精霊さんが可哀想だもん」
「……ジャスってホント、良い子ちゃんだね~」
セレネちゃんが呆れた表情を私に向ける。
別に良い子にしているわけではないんだけどなぁ。
誰かに迷惑をかけない様にするって、普通の事だもん。
自分の我が儘で誰かが困っちゃうなんて、そんなのダメだもんね。
「まあいーわ。それなら、リリーが戻って来るまで、適当に休んで待ってよ~よ」
「うん」
私は近くに芝生の様な草を見つけて、その上に腰を下ろしてリリィを待つ事にした。
ドリちゃんかぁ。
何だか久しぶりだなぁ。
ドリちゃんこと木の大精霊ドリアードさんは、エルフの里に住む大精霊さんだ。
エルフの里は、ここから凄ーく西に進んで行くとある場所で、大自然が溢れる素敵な場所だ。
ドリちゃんは着物を着崩して着ている和服美人で、とっても綺麗な大人の女性である。
暫らく合ってなかったし、ちょっと楽しみかも。
なんて考えながら待っていると、私の目の前にセレネちゃんが立って、私を見ながら……私の下半身を見ながら、可哀想なものを見る様な目をして一言喋る。
「見えてる」
「え?」
私は首を傾げて、セレネちゃんの視線の先に目を向ける。
「きゃっ」
またやっちゃったよ。
私のバカ!
私は涙目でスカートを押さえてパンツを隠した。
はい。いつものやつです。
私が前世の記憶を思い出してから、癖になってしまった座る時の胡坐である。
意識をしないと必ず胡坐をかいてしまい、いつもパンツをお披露目してしまうのだ。
私が恥ずかしがっていると、セレネちゃんが私の恥ずかしがる姿を呆れた表情で見つめる。
それから、セレネちゃんは私の横に座った。
「一応恥ずかしーんだ? って言うか、そんなに恥ずかしーなら、ズボン穿けばいーじゃん」
「ズボンは可愛くないもん」
とは言っても、私もズボンの全部が可愛くないとは言わない。
だけど、私の好みはズボンでは無く、ヒラヒラのスカートなのだ。
それだけは譲れない。
そして、スカートの中でも、ミニスカートは最強なのだ。
だからこそ、私はパンツが見えるかもしれない危険をかえりみず、ミニのスカートを穿くのだ。
「えー? 可愛いとかの問題なのー?」
「可愛いは大事な事だよ!」
私が力強く答えると、セレネちゃんは苦笑した。
「まー、気持ちは分からなくもないけどさ~。って、もしかして、このガーターベルトも可愛いからつけてんの?」
そう言って、セレネちゃんが私が着けているガーターベルトの紐を摘まむ。
「え? うん。そうだよ?」
「あははウケるー! ジャスって面白ーい」
えー?
そうかなぁ?
可愛いかどうかって、結構大事だよね?
「私てっきりジャスは男を誘惑する為に、色々狙ってやってんだと思ったわ~」
「ええぇ……」
セレネちゃんの発言に私があからさまに嫌そうな顔をすると、セレネちゃんは私のその顔を見て、凄く楽しそうに笑いだした。
「ご主人は変態を生み出すプロッスからね。その位の事は狙わず自然体でやるのが当たり前なんスよ」
ちょっとトンちゃん?
凄く人聞きの悪い事を、自慢気に話さないでくれるかな?
「そっかそっか~。何かジャスの事が解ってきた気がする~。本当はさ。こんな所まで連れて来られて、何か嫌がらせされるんじゃないかって思ってたんだよね~」
「しないよ!」
「うんうん。わかるわかる。でもさ、普通警戒するっしょ? 出会ったばかりで優しくされて、いきなりこんな所に連れて来られたさー。実は腹黒で何か企んでるんじゃないかってなるっしょ?」
「そうかなぁ? お友達ともっと仲良くなりたいから、一緒に精霊さん達のお祭りに行きたいって思っただけだよ?」
「今はそれを信じてあげる」
「えー? 今はなの?」
「当たり前じゃん。私の信用を得たいなら、それなりの働きを見せてもらわないとね~」
むぅ。
それなりの働きって、やっぱり神殺しの事だよね?
でも、セレネちゃんには悪いけど、お友達大作戦って決めたんだもん。
神殺しなんてさせないんだから!
「とか言いながら、耳が赤くなってるッスよ?」
「え!?」
「なっ! んなわけないでしょ! 適当な事言うなトンぺ! ジャスもこっち見んな!」
わぁ本当に真っ赤だ。
可愛いー!
「そのニヤニヤムカつくー!」
セレネちゃんが耳を真っ赤にさせながら、私の頬っぺたをつねる。
「うぴゃあ! いっ痛いやめへー!」
頬っぺたをつねられて私が涙目になっていると、突然セレネちゃんが宙に浮いた。
「へっ!? 何これ!? 何なの!?」
「セレネちゃん!」
私は驚いて宙に浮いたセレネちゃんを見て気がついた。
セレネちゃんは宙に浮いたわけでは無く、突然地面から飛び出した木の根っこに服を引っ掛かけられて、持ち上げられたのだ。
そして、それをした人物、大精霊のドリちゃんがリリィと一緒に姿を現す。
木の大精霊ドリアードのドリちゃんは、相変わらずの高身長。
髪の毛も、膝下まで伸びる緑色の髪はとても綺麗で、つり目の瞳はエメラルドグリーンで美しい。
相変わらず着物を着崩して着ていて、下着を着けていないから、露出している肩や胸の谷間が色っぽく見えている。
それに、生足のラインが凄くエッチな感じだ。
ドリちゃんは私の少し赤くなった頬っぺたを見てから、木の根っこで持ち上げたセレネちゃんを睨んだ。
「妾のジャスミン様に行った無礼、その身を持って味わうが良い」
あわわわわわ。
「待って! ドリちゃん待って!?」
「どうしたのじゃ? ジャスミン様、少し待っておれ。妾が今すぐこの無礼者の息の根を――」
「――止めちゃダメ! その子は、セレネちゃんは私のお友達だよ!」
私が必死にドリちゃんを説得すると、ドリちゃんが私と目を合わせてから、リリィに視線を向けた。
すると、リリィはドリちゃんと目を合わせて、苦笑しながら頷いた。
「ふむ。妾の勘違いであったか」
そう言って、ドリちゃんは地面から飛び出した木の根っこを消す。
そして、セレネちゃんは木の根っこから解放され、地面に落ちて尻餅をついた。
「いった~。何なのよもー」
「すまなぬのぅ」
立ち上がってお尻をさすりながら文句を言うセレネちゃんに一言謝罪すると、ドリちゃんがリリィに視線を向ける。
「リリーが困った事になったとしか説明をせぬから、ジャスミン様のご友人に迷惑をかけてしまったではないか」
「勝手にアンタが勘違いしたのでしょう? でもまあ、私も説明をしなかった事は悪かったわよ」
「まあよい。妾も今後は気をつけるとしよう。それよりジャスミン様、久しいのう。元気にしておったか?」
「うん。ドリちゃんお久しぶりだね。ドリちゃんも元気みたいで良かったよ」
私とドリちゃんは微笑み合い、今までの様子を全て見ていた番精霊さんが、目をパチクリとさせて驚きながら呟く。
「だ、大精霊ドリアード様が、人間の言う事を聞いて、悪魔に謝った……。ど、どうなってるんだ?」
やっぱり驚くよね。
トンちゃん達も最初はドリちゃんに怯えてたと言うか、なんと言うか、とにかく番精霊さんみたいな反応だったもんね。
やっぱり精霊さん達にとって大精霊のドリちゃんは、雲の上の存在的なものなんだろうなぁ。
そんなわけで、ドリちゃんと再会した私達は、セレネちゃんも一緒に精霊の里に入れてほしいとお願いする。
私の頼みならと、ドリちゃんは簡単に許可を出してくれて、おかげ様でセレネちゃんを連れて無事に精霊の里に入る事が出来た。
それから、ドリちゃんは凄く嬉しい事まで言ってくれた。
トンちゃんがドリちゃんに訊ねたのだ。
「ドリアード様良いんスか? 何かあったら責任取らされるッスよ?」
と。すると、ドリちゃんはこう答えた。
「何を言う。ジャスミン様のご友人であれば、何かなど起こる筈が無いであろう? そんなつまらぬ事、考えるだけ無駄じゃ」
ドリちゃんがトンちゃんに返した答えが私には凄く嬉しくて、思わずドリちゃんに抱き付いた。
だけど、その瞬間、ドリちゃんが顔を真っ赤にさせて気絶してしまった。
「ど、ドリちゃん!?」
「心配いらなわ。とても幸せそうな顔で気絶しているもの」
「ぷぷぷ。流石はご主人ッスね。暫らく会ってなかった相手に、いきなり抱き付いて上目遣いとか、ぷぷぷ。流石は魔性の幼女ッス」
「ジャスやるじゃーん。大精霊を悩殺とか、常人に出来るもんじゃないよ」
ぐぬぬぬ……。
皆言いたい放題だよ。
って言うか、流石に今回は私も反省しよう。
よぉく思い出してみると、もし前世の私がされたら即死だったかも……。
脱魔性の幼女だよ!
こうして、私に新しい目標が出来ました。
でも、次の日の朝に目を覚ましたら忘れていました。




