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014 幼女も親友も年不相応である

 一人、また一人と、セレネちゃんは吸血鬼にした人達を人間に戻していく。

 私はリリィと一緒に、セレネちゃんを見守る。

 全員が元の人間に戻る頃には、時刻も真夜中になっていた。


 全ての人を元に戻すと、ギャンジさんだけ目覚めさせて、事情を説明しようかと話し合う事になった。

 私は勿論事情を説明しよう派である。

 だけど、リリィとトンちゃんの意見は違っていた。


「わざわざ説明なんてしなくても良いわよ。どうせ夢でも見てたとか適当な事考えるでしょ」


「ボクもハニーに賛成ッス。説明する為に起こすなんて、しなくて良いッスよ」


「でもぉ……」


「ジャスミンの気持ちは分からなくもないわ。でも、事情を説明しても、被害にあった人の時間は戻って来ないのよ? もし、説明してセレネが責任を取らされる事になったら、きっとただでは済まないわよ」


「ボクもそう思うッス。後ろめたくなるかもッスけど、仕方ないッスよ」


 リリィとトンちゃんが言っている事は、勿論私にも理解できる。

 だけど、それでも私は考えてしまうのだ。

 たとえここで色んな事を投げ出して立ち去ったとしても、いずれ何処かで、しわ寄せが何かしらの形でくるのではと。


 私が眉根を下げて納得出来ずに悩んでいると、セレネちゃんが苦笑した。


「気にしすぎ~。ジャスって面白い子だね」


 ええぇ……。

 そんな他人事みたいに……。


「心配しなくても大丈夫だって~。むしろ、逃げた方がいーと思う」


「逃げた方がッスか?」


「そそ。吸血能力で吸血鬼になった者は皆ロリコンになるんだけど、吸血鬼から人間に戻しても、一度変えてしまった性癖のロリコンは戻らないから」


 襲われるとロリコンになるって聞いてたけど、これの事だったんだ。

 でもそっかぁ。

 一度変えてしまった性癖は元に戻らないんだね……っえ?

 戻らないの?


 私がセレネちゃんの言葉に困惑したその時、突然背後から声が聞こえた。

 その声は聞き覚えのある声ではあったのだけど、まるで別人の声の様にも聞こえた。

 何故なら、その声の言葉が、あまりにも気持ち悪かったからだ。

 私は驚いて声を上げる。


「ギャンジさん!?」


 そう。その声の主はギャンジさん。

 ギャンジさんは気持ちの悪い笑みを浮かべて、こう言った。


「うっひょーい! 幼女発見と思ったら魔性の幼女とおっぱい天使のリリィちゃんじゃーん! ギャンジおじさんだぞー! 揉み揉みしちゃうぞー!」


 この言葉に私は驚いた。

 驚いたのは私だけではなくトンちゃんも驚いて、凍り付く様に硬直する。

 そして、リリィはギャンジさんを物凄い形相で睨みだす。


「何よアイツ。もの凄く気持ち悪いわよ」


「あれあれ。あれが、吸血鬼から人間に戻った奴の末路。操られてないから歯止め効かない系~。解った? 逃げた方が賢明っしょ?」


 セレネちゃんの言葉に、私は首を全力で縦に振る。


 ヤバいよ!

 これ絶対ヤバいやつだよ!

 ギャンジさんの性格が変わっちゃってるしヤバすぎるよ!


「ハニーの事をおっぱい天使って言うあたり巨乳派ッスね」


 どうでもいいよ!


「私のおっぱいはジャスミンのもの。他の誰にも揉ませないわ」


 私は貧乳派です!

 って、そんな事考えてる場合じゃ無いよね!?


「逃げよう」


 私が顔を青ざめさせながら喋ると、リリィとトンちゃんとセレネちゃんがこくりと頷く。

 そして、私達は遺跡から脱出する為に、全速力で走りだす。


「待ってくれー! ギャンジおじさんとの夜はこれからだぞー!」


 背後から気持ちの悪い発言が聞こえるけど、私は決して振り向かない。

 と言うか、振り向きたくない。


 セレネちゃんの吸血能力ヤバすぎだよ!

 って言うか、ギャンジさんごめんね!

 そしてさようなら!


 私は心の中でギャンジさんに別れを告げて、遺跡の外へと逃げ延びた。

 外に出てから、私は息を切らして立ち止まった。

 全く息を切らしていないリリィは、遺跡の出入口から追手が来ないか確認しながら、セレネちゃんに話しかける。


「セレネの吸血能力って、吸血鬼にした相手をロリコンにするのよね? ギャンジは、何でジャスミンではなくて、私に気持ち悪い事を言っていたのかしら? 確かに年齢はジャスミンと同じ十歳よ。だけど、私って自分で言うのも何だけど、他の子より成長が早いから見た目は幼くないと思うのだけど?」


「ロリコンはロリコンでも色々あるじゃん。あの位のおっさんなら、リリーも十分幼く見え……十歳っ!?」


 セレネちゃんが大口を開けて驚き、リリィを何度も舐める様に上下に見る。


「嘘でしょ?」


「嘘じゃないわよ」


「ま!? 信じらんない。リリーって十歳だったんだ。ジャスが十歳ってのも驚きだけど、リリーの方がヤバいじゃん」


「どうでも良いけど、ボクとしては吸血女も喋り方が六歳っぽくないッス」


 あはは。

 それ私も思ったよ。

 と言うか、私の10歳も驚きなんだね。

 うーん。

 まあ、そうだよね。

 最近は身長も2センチだけとは言え減っちゃったし、益々年齢より若く見られるもんなぁ。

 って、私の場合は不老不死になったから、それが当たり前になっていくんだろうけど。


 などと、私が感慨深く考えていると、トンちゃんが思い出したかのように喋る。


「あ。歳の話で思い出したッスけど、他に捕まえてる人はいないッスか? ボク達はここに来る前に、被害者の中には年を取らない人もいるって聞いてきたんスよ」


 そう言えば、そうだったね。

 ……あっ!

 そっか! 


「もし、セレネちゃんに吸血されて不老になったのが大人の人だけだったら、成長が止まってるかどうかなんて気付かないんだ」


「そうッス。ハニーなんかが極端とは言え凄く良い例なんスけど、子供は直ぐに背も伸びるし成長が早いから、周りもおかしいって気付くとは思うんスよ。でも、大人だとそうはいかないッス」


「言われてみればそうね。ドゥーウィンよく気が付いたわね。偉いわ」


「ボクは優秀な精霊ッスからね」


 トンちゃんが褒められて、鼻を高くしてご満悦になる。

 セレネちゃんはトンちゃんの指摘に眉根を下げて、私達から目を逸らして苦笑すると、気まずそうに話し出す。


「いや~。実はさー。盗られちゃったんだよね。若い子は皆」


 うん?

 盗られた?


「どういう意味よ?」


 私が目を点にして驚いていると、リリィが顔を顰めてセレネちゃんに訊ねる。

 すると、セレネちゃんは更に気まずそうな表情で汗を流した。


「アレースの馬鹿に盗られちゃったの! 先日戦いを挑んで奪われたのよ!」


「えええーっ!?」


「アレースって確か言い伝えの神様の内の一人で、戦の神よね?」


「そうッスね。吸血女は既に戦いを挑んでたんスね~。負けたみたいッスけど」


「しかも奴隷を奪われるなんて、惨敗もいい所ね」


「は? 全然そんな事ないんですけどー。って言うか、準備が終わってないのに、アレースの馬鹿に見つかったのよ! それでアイツ何て言ったと思う? 元神だった者が哀れだな。っよ! だからムカついて戦いをその場で挑んだの!」


 う、うわぁ。

 なんと言うかだよ……。


「そう言うわけだから、最初のターゲットはアレースで決まりだかんね! 首を洗って待っているがいーわアレース! 次会ったらぶっ殺してやる!」


 う、うーん……。

 何だか、先行きが不安になってきたよ。

 本当だったら、今頃は精霊さん達と一緒に……精霊さん達と!?


「最初のターゲットはアレースさんじゃないよ! スピリットフェスティバルだよ!」


 私がスピリットフェスティバルの存在を思い出して叫ぶと、セレネちゃんが顔を顰めて首を傾げた。


 とにかく、こうしてはいられない。

 今日は夜も遅いから、一先ず村に戻って宿で眠るとして、明日の朝には村を出ないとだ。

 私、と言うか、リリィのスピードなら十分過ぎる位には間に合うけど、私は可愛い精霊さん達と早くたわむれたいのだ。

 私はセレネちゃんに最優先事項だと事情を説明し、朝一で精霊の里に戻る為に、村の宿に向かった。

 そして、私はセレネちゃんにお願いして、夜の内にモーフさんの息子さんを元に戻してもらった。


 結局リリィを不老には出来なかったけど、セレネちゃんという新しいお友達を迎えて、私達は翌日の早朝に精霊の里へ向かう為に村を出た。


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