013 幼女の母性本能が目を覚ます
お友達大作戦だよと私が声を高らかに宣言すると、リリィとトンちゃんとセレネちゃんは目を丸くして私を見る。
私も巻き込まれてばかりじゃいられない。
自分からお友達を支えれる様になる為に頑張るのだ。
そう。だからこそ私は決心したのだ。
神殺しでは無く、神様とお友達になる事を!
強く確固たる意志を燃やす私に、トンちゃんが何故か呆れる様に視線を向けた。
「どう言う事ッスか?」
「神様とお友達になって、セレネちゃんに何でそんな酷い事したのか聞くんだよ! お友達になれば、言い辛い事も話してくれるかもしれないもん!」
「やっぱりご主人の頭の中はお花畑ッスね」
え? 何で?
「何言ってるのよドゥーウィン。流石は私のジャスミンだわ」
リリィは解ってくれるんだね!
流石は私の大親友だよ!
「ちょっと待てコラ。私はお友達になりたいわけじゃないんだけど?」
セレネちゃんがそう言うだろう事は、私だって分かってた。
だって、セレネちゃんの気持ちは、私にも分かるから。
だけど私は言うのだ。
復讐なんて意味が無いとは言わないけれど、私は復讐より和解が好きなのだから。
「セレネちゃんの気持ちは分かるよ。でも、私はセレネちゃんに酷い事をした理由をまず知りたい。だって、どうしようもない理由があったのかもしれないもん」
「どーしようもない理由?」
「うん。だから、お友達になるんだよ」
私はセレネちゃんに笑顔を向ける。
すると、セレネちゃんの顔は理解不能と言わんばかりの表情になって、リリィに視線を送る。
リリィはセレネちゃんと目を合わすと、苦笑して頷いた。
「ご主人に変なスイッチが入っちゃったッスね」
変なスイッチとは失礼な。
仲良しスイッチと呼んでほしい。
「ジャスミンが争い事を嫌うのはいつもの事よ。私はジャスミンの気持ちを尊重するわ」
うんうん。
争い事より、仲良くなった方が絶対良いもん。
「ふん。まあ良いわ。私を殺した理由が碌でも無い理由だったら、絶対に殺すから!」
「え? じゃあじゃあ」
「ジャスのお友達大作戦ってのに、つきあってあげる。理由は、まあ、私も気になるしね」
「セレネちゃん!」
私は嬉しくなってセレネちゃんに抱き付く。
「はあっ!? 急に抱き付くんじゃないわよ! 何なのよこいつ!」
「天使よ」
セレネちゃんは顔を真っ赤にさせながらリリィに訴えると、リリィは爽やかに微笑んで答えた。
「天使ぃい~? 馬鹿なんじゃないの!?」
「えへへ~」
よーし!
私、セレネちゃんの為にも頑張っちゃうんだからね!
神様達とお友達になって、理由を聞いて、セレネちゃんに謝ってもらおう。
謝れば済む話でも無いかもしれない。
だけど、ますはごめんなさいだもんね!
「話も済んだ事だし、セレネ、とりあえず奴隷にした人達を元に戻しなさい」
あ。すっかり忘れてたけど、そうだよね。
私はセレネちゃんから体を離す。
すると、セレネちゃんは少し疲れた様な表情をして、ふうっと小さく息を吐き出した。
私がそれを見て迷惑だったかなと思い眉根を下げると、セレネちゃんはプイッと私から顔をそむけて、私の顔を横目で見た。
セレナちゃんと目が合い、セレネちゃんは視線を逸らす。
だけど、直ぐにまた目を合わせて、私の手を握った。
「元に戻しに行くわよ」
「うん!」
私は嬉しくなって、セレネちゃんの手を強く握り返す。
そして、背後から聞こえる2人の声。
「ドゥーウィン。私のポジションが盗られてしまうと、最初は考えていたのよ」
「そうッスか? ハニーと吸血女じゃ、全然違うと思うッスけどね」
「そうね。私もそう思うわ。でもね、それに気がついたら見えてしまったのよ」
「見えたって、何が見えたッスか?」
「ジャスミンと私が結婚した後の事よ。きっと子供が出来たら、ジャスミンはあんな風に自分の子供に振り回されるんだろうなって考えただけで、興奮が治まらないわ。そして私は言うの。こらこら。ママを困らせて良いのは、私の特権よって。それでジャスミンは照れながら私に微笑むの」
リリィの意味が分からない妄言に、トンちゃんが言葉を失い、私も聞かなかった事にしようと思い至る。
「ねえ。リリーがおかしな事を言ってるわよ?」
セレネちゃんがリリィに視線を送る。
「見ちゃダメ」
そう言って、私はセレネちゃんの目を手で隠して、そそくさと歩き出す。
この時私は思いました。
ああ、そうかぁ。
漫画とかアニメでよく見る子供に見るなって言って去って行くお母さんの気持ちって、こんな感じだったんだなぁ。
と。
こうして、私の中にも眠る母性本能が、少し目を覚ましたのでした。
とまあ、それはともかくとして、セレネちゃんは近くにいたギャンジさんを元に戻す為にカプリと噛みつく。
すると、ギャンジさんはその場で眠ってしまった。
「あれ? 眠っちゃったよ?」
「これが本来の能力解除の効果だから。リリーが何もかも常識離れなだけだから」
「あぁ……。うん。そうだね」
私が冷や汗を流して頷くと、セレネちゃんは私の手を再び握って歩き出す。
次は、私とリリィとトンちゃんが最初に見つけた人達だ。
歩きながらお話を聞いたところによると、痩せこけていた理由は食事をとっていなかったかららしい。
セレネちゃんは食事をとらせたいとも思った。
だけど、流石に罪もない女性を襲わせるわけにもいかないので、どうしたものかと困っていた様だ。
最悪、本気でヤバそうな場合は、一度能力を解除して人に戻してしまおうとも思っていたようだ。
と言うか、この事は3年前から、セレネちゃんが3歳の頃から続けていて、実際に何度も元に戻していたようだ。
尚、この吸血の能力で吸血鬼になった人を元に戻すと、二度と吸血鬼に出来ないらしくて、それはそれで困るのだとか。
その結果、自分の事を死んだと思っている家族の前に出る事も出来ない人達が、どうなったのかも分からないらしい。
だから、そんな人を出さない為にも責任を持って出来れば解除せずに、せめて決戦の日の前日位には食事面での解決策を見つけようと考えていたみたいだ。
結局は私とリリィがこの遺跡に来た事で、その吸血鬼を増やす理由も無くなったので、それらの問題を気にしなくて良くなったとセレネちゃんは喜んだ。
私はセレネちゃんからそのお話を聞いて、リリィの思い付きで流されてここまで来たけれど、来て良かったなぁと思った。
もし私達が来なかったら、魔幼女と呼ばれるセレネちゃんは、これからも人を騙して被害者を増やしていたかもしれない。
それに、神様に戦いを挑んで、死んでしまうかもしれないからだ。
わずか3歳の頃から、三年間も復讐の為だけに生きてきたセレネちゃん。
きっと、今まで相談する人もいなかったのだろう。
私に教えてくれている時のセレネちゃんは、本当に楽しそうに話していた。
何となくだけど、セレネちゃんが私にお友達と言われて喜んでくれた理由が、私の勘違いかもしれないけれどわかった気がした。
セレネちゃんのお話を聞きながら、私は改めて考える。
お友達大作戦は間違ってなかったんだ。
セレネちゃん。
私、いっぱい頑張るからね。




