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012 幼女はお友達大作戦を宣言する

 この世界で言い伝えられている神様は、不思議な事に私が前世で聞いた事のある神様ばかりだ。

 と言っても、改めて考えてみると不思議なだけで、転生先の世界なのだから普通なのかもしれない。


 神様達は誰もが気まぐれで、皆下界の私達には干渉しない存在だ。

 例え人々が滅ぼうとも、絶対に干渉しない。

 もし神様が人に干渉する時があるとすれば、それは一時の戯れを楽しむ時だけ。

 それが、この世界の神様と言う存在だった。


 そして、言い伝えられている神様は十二人。

 私が生まれ変わる前の世界では、誰もが知っていそうな名前ばかりだ。

 何故なら、神様の名前は全て有名な十二神の名前と一緒だからだ。


 ゼウス、ヘーラー、アテーナー、アポローン、アプロディーテー、アレース、アルテミス……アルテミス!?


 神殺しと聞いて、現実逃避をしていた私は、セレネちゃんをマジマジと見る。

 すると、セレネちゃんは顔を顰めて私と目を合わせる。


「セレネちゃんの名前って……」


「カーミラ=S=アルテミスだけど?」


 あわわわわわ。

 それって……っ!


「神様!?」


 私が驚き声を上げると、セレネちゃんが凄く嫌そうな顔をして答える。


「だから神の一族って言ったじゃん。と言っても、本当は元だけどね~」


 も、元?


「元ッスか?」


「どういう事よ?」


 私とリリィとトンちゃんが頭にハテナを浮かべてセレネちゃんに注目すると、セレネちゃんは苛々しながら話し出す。


「どう言う事も何も、私はあいつ等の誰かに殺されたのよ。本当に思い出しただけでも腹が立つ!」


「殺されたって、誰に殺されたかは分からないッスか?」


「残念ながらね。って言うか神って言うのは、本来死んでも他の神が気がついて、新しく生を受ける前に復活させてもらえるのに、あいつ等誰もそれをやらなかった! だから私は決めたの! あいつ等を皆殺しにする神々残滅大作戦を実行するってね!」


 う、うわぁ……。

 何だかドロドロだよぉ。

 関わりたくないよぉ。

 まさか、こんな事になっちゃうなんて……。

 神様を殺すだなんて、絶対ヤバいよ。


「成程ね。それで神殺しを考えたって訳ね」


「そう! お姉さん、言っておくけど、今更怖気づいても逃がさないから!」


「別に逃げたりしないわよ。たかが神様でしょう? そんなの、ジャスミンと比べたら赤子の様なものじゃない」


 え?

 私そんなに強くないと思うよ?

 と言うか、リリィの方が絶対強いよ?


「確かにそうッスよね。ご主人の常人を変態に変える才能を前にしたら、神様なんて可愛いもんッス」


 私は今までの前例の件もあり、何も言い返せずにぐぬぬとなる。


「もう。何言ってるのよドゥーウィン。私が言ってるのは、ジャスミンのパンツの事よ」


「パンツの事だったッスか。勘違いしちゃったッス」


 アハハウフフとリリィとトンちゃんが微笑み合う。

 私は2人の意味不明な会話を聞いて、何だか疲れを感じて肩を落とす。

 セレネちゃんは顔を顰めて、頭にハテナを浮かべていた。

 それからリリィはトンちゃんと微笑み終えると、気持ちを切り替える様に、突然真剣な面持ちになってセレネちゃんに視線を送った。


「まあ何にせよ、その位なら手伝ってあげても良いわよ」


「お姉さん話のわかる人で助かるわ~」


「リリィ。神様を相手になんて流石に危ないよ」


「大丈夫よ。心配いらないわ」


 心配する私を見て、リリィは優しく微笑んで答える。

 それでも、私の心配は拭えなくて、私はリリィの顔をジッと見つめた。

 すると、そんな私をセレネちゃんが眉根を上げて睨む。


「小娘は往生際が悪いな~。良いじゃん別に」


「でも、心配なんだもん。それに、せっかくセレネちゃんともお友達になれたのに、そんな危ない事させたくない」


「へっ? お友達?」


 私の言葉を聞いて、セレネちゃんが拍子抜けしたような表情を見せる。

 そして、直ぐにジト目を私に向けた。


「いつ私と小娘がお友達になったのよ?」


「え? 今さっきだよ? お友達だから、セレネちゃんもお姉さんの姿じゃなくて、私がお願いしたこっちの姿でいてくれるんでしょう?」


 そう言って私が笑顔を向けると、セレネちゃんは顔を真っ赤にして私から目を逸らす。


「ち、違うわよ! 本来の姿の方が楽なだけ! お前の為じゃ無い!」


 か、可愛い。

 ツンデレさんだ!

 ツンデレさんだよ!


「えへへ」


 私はセレネちゃんの可愛さに、思わずニヤニヤと笑ってしまう。

 すると、セレネちゃんは頬を少しだけ赤らめながら、私の顔を見て睨む。


「まあ、どうしてもって言うなら、お友達位にはなってあげる。名前は?」


「うん。ありがとー。そう言えば、私名乗って無かったよね。私はジャスミン=イベリスだよ。それでこの子は風の精霊さんのトンちゃん」


 私がトンちゃんを紹介すると、トンちゃんがジト目で私を見て名乗る。


「トンペット=ドゥーウィンって名前ッスよ。トンちゃんじゃトンが名前みたいじゃないッスか」


「あはは。ごめんごめん」


「私はリリィ=アイビーよ。よろしくね」


「ふん。ジャスにリリーにトンペね。わかったわ。で、話を戻すけどさ」


「え? うん」


 セレナちゃんは私が返事をすると、ニッと笑って言葉を続ける。


「神殺しは絶対に止めたりしない。私は絶対に神共を許さない。恨みを晴らすまで諦めないわ」


「セレネちゃん……」


「そんな悲しそーな顔しないでよ。ジャスが優しー子だって事は分かったし、せっかく出来た友達に無理に協力してなんて言わないよ。ま、リリーにはして貰うけどね」


「私はそう言う約束だもの。嫌なんて言わないわよ」


「ご主人~。今回は関わらなくても良さそうッスね。ハニーなら心配いらないし、もう放っておいても良いと思うッスよ」


「……うん」


 でも、私はやっぱり、もっと平和的にいってほしい。

 確かにリリィは心配ないとも思うけど、でも、やっぱり心配だし。

 それに、セレネちゃんが心配なのも嘘じゃないもん。


 私も似た様な経験があるから、セレネちゃんの気持ちは分からなくもない。

 きっと前世の自分だったら、協力していたかもしれないとも思った。

 だけど、それでも今の私は甘々なので、セレネちゃんの計画をどうにか出来ないかと考える。

 そうして、考えて考えて、私は今さっきしていたお話の事を思い出した。


 お友達と言った後、本当にセレネちゃんは嬉しそうだった。

 頬を赤らめて照れてる姿がとても可愛らしくて、友達になれて良かったと思った。

 だからこそ私は思いつく。


 そうだよね。

 うん。

 よーし! 決めた!


「やっぱり、やっぱり私も手伝うよ!」


 私は力強く言って、セレネちゃんの瞳に真剣な眼差しを向ける。


 私決めたよ!

 お友達を危険な目に合わすなら、私も一緒にその危険に立ち向かう!

 リリィがいつも私を支えてくれる様に、私もお友達を支える事が出来る様になりたい!


 私の意思は次第に固くなり、途端に何だかやる気が湧いてきた。

 今の私なら、神様が相手でも怖くな……怖いけど頑張れる。


「え? どーしたの急に? 無理しなくても……」


 セレネちゃんの言葉に私は首を横に振る。


「ご主人?」


 私の言葉には流石にトンちゃんも驚いた様で、目をパチクリとさせて私を見ていて可愛い。


「驚いたわ。ジャスミンなら神々残滅大作戦だなんて馬鹿な事、絶対手伝わないと思っていたのに」


「馬鹿な事?」


「ぷぷぷ……」


 リリィが私の発言に驚いて口を滑らすと、セレネちゃんが眉根を上げて、トンちゃんが笑いを堪える。

 そして、私はリリィの言葉を聞いて、リリィに視線を向けて答える。


「神々残滅大作戦? ううん」


 私は神殺しを否定し力強く拳を上げて、そして、大きな声で高らかに宣言した。


「お友達大作戦だよ!」

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