116 幼女に降りかかる火の粉は多種多様
眩い光が私を包み込み、光の大精霊ウィルオウィスプが私を中心にして美しく舞い踊る。
温かなぬくもりが全身を刺激して、私は目に見えない優しさを感じ取る。
あぁ、そうか。
これが光の大精霊ウィルオウィスプさんなんだ。
私を包む光がおさまり消える頃、私はゆっくりと大きく息を吐き出した。
「これからよろしくね。ウィ――」
ウィルオウィスプさんに視線を送って、これからお世話になる事への挨拶をしようとして私は驚いた。
何故ならば……。
「可愛いー! きゃー! ウィルちゃんどうしちゃったのぉ!? ラテちゃんと同じ大きさになってるよぉ!」
そう。
光の大精霊ウィルオウィスプことウィルちゃんは、とっても可愛らしい手のひらサイズへと大変身していたのだ。
おかげで今では、ウィルちゃんは見た目通りのゴスロリなお洋服を着た可愛い精霊さんである。
「ぐへへへ~。ジャスミンたんと契約の儀式をしていたら、こっちの方が受けが良いってわかったから、この大きさになったんだ」
「そーなんだー。ありがとー!」
可愛いなぁ。
ぐへへって笑い方は相変わらずで気持ち悪いけど、もうなんか可愛いから全部オッケーだよね!
「ところでラテール、おいたんの黄金水を何で捨てたんだい?」
「ジャスの病気がまた始まったです」
「ラテール聞いてる?」
「可愛いもの相手だと出るこの病気、どうにかならないです?」
「おーい。ラテール?」
「ホントジャスって馬鹿ね。ホントにだいじょーぶなの?」
「もー。大丈夫だよセレネちゃん。それに、ウィルちゃんと契約したおかげで、ロークの能力の効果がとれたんだよ」
「何それ?」
私の言葉にセレネちゃんが顔を顰めると、私の代わりにラテちゃんが答える。
「ジャスはセレネと会う前に、ロークとの戦いで感度上昇と言うおバカな能力を食らっていたです」
「え? マジ?」
「です。でも、光属性の治癒力は全属性の中でもトップクラスです。ウィスプ様と契約した事で、光の加護の力でジャスにかかっていた効果が取り除かれたです」
「へ~。なるほどね~」
そうなのです。
ウィルちゃんと契約して【光の加護】を受けたからこそわかるその力。
光の属性は本当に凄くて、私にかかっていた感度上昇の正体が、呪いの類の効果だと直ぐに解った。
そして、光の加護の力で感度上昇の呪いが打ち消されて、私はようやく解放されたのだ。
「ま、とにかく先を急ごーよ。いつまでもトイレにいるのも臭い移っちゃいそーだし」
「そ、そうだね……」
そう言えば、私達今トイレにいたんだったね。
あれ?
じゃあ、もしかしてもしかしなくても……。
光の大精霊と契約を交わした場所がトイレと言う残念な現実。
私は深く考えない様にしようと心に深く誓った。
何はともあれ、光の大精霊のウィルちゃんとお友達になった私達は、オぺ子ちゃんが教えてくれた空き部屋へと移動を開始した。
そして空き部屋の目の前まで辿り着いたその時、空き部屋の扉が勢いよく豪快に吹き飛んだ。
更に吹き飛んだ扉と一緒に床の上を転がる人物。
私はその人物を見て驚いた。
「スミレちゃん!?」
「いたた……幼女先輩?」
スミレちゃんは転がる勢いを殺して立ち上がると、私に気がついて目を合わす。
「幼女先輩! そこのへ――」
「え?」
私が首を傾げたその時、扉が無くなった空き部屋から、もの凄い速度で誰かが飛び出してスミレちゃんを襲う。
「滅びな!」
誰かはスミレちゃんに近づくと、右手に真っ黒な魔力の塊を出現させて、それをスミレちゃんに向かって叩きつけた。
「……くっ!」
真っ黒な魔力の塊を、スミレちゃんは炎の魔力を両手に溜めて受け止め爆発が起こる。
爆風は私の所まで届き、熱風がチリチリと私の頬をかすめた。
「スミレちゃん!」
スミレちゃんの名前を叫ぶと、スミレちゃんを襲った誰かがゆっくりと私に顔を向けた。
顔を向けられて、私はそれが誰なのか気がついた。
見た目は私より少し上の年齢の女の子。
綺麗な青色の髪の毛は少しくせっ毛があり、肩下までの長さのセミロングで、頭には龍の角が生えている。
鋭くつり上がった目で、瞳は猫の様に細い眼球。
服装はスーツを着崩して身に着けていて、お尻のあたりからは龍の尻尾が飛び出していた。
そう。
スミレちゃんを襲ったのは、龍族の女の子のマーレだったのだ。
「へ~。誰かと思ったら魔性の幼女か~。あっは~。丁度いいタイミング。この女じゃ退屈だったのよね」
「それはお互い様なのよ!」
「――っ!」
スミレちゃんがマーレのお腹に拳を当てる。
マーレはスミレちゃんの拳を食らい、数メートル先まで吹っ飛んで床に足をついて体制を整える。
「ちっ。しぶとい女!」
「それもお互い様なのよ! 絶対に許さないなの!」
スミレちゃんが体についた埃を掃いながらマーレを睨み見て、マーレもスミレちゃんを睨み見る。
一触即発のこの雰囲気に、私はごくりと唾を飲み込んだ。
「あ~やっぱ始まってたか~。どうも参っちゃうよね~」
「どう言う事?」
不意にウィルちゃんが呟いて、私は首を傾げて訊ねた。
すると、ウィルちゃんは苦笑して答える。
「アレースが昨日の晩に幹部クラスの配下を集めて言ってたんだよ。リリオペが裏切るかもしれない。怪しい動きを見せたらリリオペを殺せ。ついでに鍵に近づく奴を排除しろってね~」
え……? 何……それ?
言われた意味が一瞬理解できなかった。
リリオペを殺せ?
何言ってるの?
ラーク……嘘だよね?
信じる事が出来なかった。
だけど、それは現実で、私の目に映ってしまった。
ウィルちゃんが一瞬だけ空き部屋の方に視線を向けて逸らす。
「本当に、神様ってやつは残酷だよ。おいたんはあ~言うのは嫌いだね」
空き部屋の扉が無くなり中が見えているからこそ、ウィルちゃんの視線と言動で、私の目には嫌でも映ってしまった。
「リリオペ……?」
空き部屋の中には、血を流して倒れているリリオペの姿があった。
そんな……嘘だよね!?
急いでリリオペに駆け寄る。
私はしゃがんで、恐る恐るとリリオペを抱き寄せて……。
「うわ。お酒臭っ」
ん? あれ?
「リリオ……オぺ子ちゃん?」
「わ~ジャスミンだ~。どうしたの~? ちょっと目が赤いよ~」
…………うん。
「酔ってるぅーっっ!?」
え!? 何!?
えー!?
「オぺ子ちゃん酒臭! ってこれ、血じゃない! トマトジュース!?」
「吸血鬼の皆さんの~、食事で血をあげられないから、トマトジュースをあげてるんだ~」
わぁ。
まるで漫画みたーい。
っじゃないよ!
紛らわしいなーもう!
って言うかだよ!
「なんでオぺ子ちゃん酔っぱらってるの? お酒は20歳からだよ?」
「ブドウの美味しいジュースってマーレさんに勧められて~……そしたら何だかいい気分~」
「犯人はお前かーっ!」
気が動転しすぎて、マーレに向かってお前なんて言葉を叫んで使っちゃった私。
そんな私の叫びにマーレは気がついて、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あっは~! 酒を飲ませて、リリオペを社会的に抹殺してやったのよ! これでそいつは社会不適合者として死んだも同然!」
バカなの!?
社会不適合者は、むしろ未成年者にお酒を飲ませたマーレだよ!
立派な犯罪です!
「絶対に許さないなのよ! オぺ子ちゃんと楽しくお話してたのに、よくも邪魔してくれたなの!」
怒るとこそこ!?
スミレちゃん、他にもっと怒らなきゃいけない所あると思うよ!?
「ジャス、私鍵探すわ~。マジで相手にしてらんないっしょ」
「同意です。こんなおバカな連中に構ってられないです」
今回ばかりは2人の意見に同意だよ!
でも、こんな状態のオぺ子ちゃんを放っておけないし、誰か助けて?
「ぐへへへ~。この子も中々のカワイ子ちゃん。おいたんが介抱してあげよう」
「やめて?」
ダメだ。
早く私がなんとかしないと……。




