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010 幼女の友人は目的を果たす?

 神の一族と名乗ったカーミラちゃんがギャンジさんの頭を再び持ち上げて、首筋に噛みつこうとする。

 私はそれを見て、咄嗟に手をかざして重力の魔法を使ってギャンジさんを引き寄せた。


「え!?」


 私がギャンジさんを引き寄せると、カーミラちゃんが驚いて私に視線を向けた。


「重力の魔法? こんなお子様が!?」


 驚いて私を見るカーミラちゃんの背後に、いつの間にか回り込んでいたリリィがしゃがんでカーミラちゃんに話しかける。


「お子様って言うけど、アンタの方がよっぽどお子様に見えるのだけど?」


「後ろ!?」


 カーミラちゃんはリリィに驚いて、慌てた様子でリリィから距離をとった。


「ちょー意味わかんないし! 何なのこいつ等! 私は神の一族なのに! こんなたかが人間に後れを取るなんておかしーでしょ!?」


 ……うん。

 一時はどうなるかとも思ったけど、そんなに大変な事にもならなかったみたいだね。

 良かったぁ。

 神の一族とか言い出すから、ちょっと焦っちゃったよぉ。


 などと思った時期が私にもありました。

 本当に私の悪い癖なのだけど、直ぐに油断してしまった私は、この時私の近くに引き寄せていたギャンジさんから目を離してしまっていたのだ。

 そして、その結果がもたらすものは、とても悲惨なものだった。


 それは突然の出来事だった。

 私の着ている服が、肌着ごと背後からビリビリと音を立てて裂かれていき、私は一瞬で上半身裸の痴女へと変身する。


「……え?」


 私は何が起こったのか理解できず、少しの間半裸となった自分の姿に固まる。

 そして、リリィが私の半裸の姿を見て鼻血を噴き出し、良い笑顔で倒れてしまった。


「きゃーっ!」


 響き渡る私の悲鳴は遺跡中を駆け巡り、トンちゃんが耳を塞ぎながら笑いを堪える。

 私は直ぐに胸を隠してうずくまり、私の背後に立っていたギャンジさんを涙目で見上げて驚いた。


 ギャンジさん?


 私が見たギャンジさんは、ここに来る前に見た人達の様に虚ろな目をしていて、まるで生気が感じられない表情をしていた。


「マジウケる。一芝居打ったかいがあったわ~」


「え?」


 カーミラちゃんの言葉を聞いて振り向くと、カーミラちゃんはリリィの首筋に噛みついていた。

 そして、カーミラちゃんはリリィに噛みつき終わると、リリィから離れてニッと笑って楽しそうに話し出す。


「お前達二人と精霊を見て直ぐに解ったのよ。噂のましょーの幼女とその仲間だって。たかが人間と言っても、お前達相手に手加減は出来ないから、既にせんのー済みの男を利用させてもらったってわけ」


「洗脳済み?」


「そうっ。私の持つ能力の一つ吸血。この能力の効果には色々あるんだけど、その一つが血を吸った相手を操る事が出来るってものなのよね~。便利でしょ?」


 カーミラちゃんは楽しそうに説明すると、私に向かってゆっくりと歩き出す。

 そして、少しずつ体が成長していき、最初に見た姿の15歳位のお姉さんの姿になった。


「そして、この姿の時に使える能力は生命操作。人の寿命を操作する能力を私は持っている。よーするに、お前達たかが人間は、私の気分次第で寿命を簡単に縮める事が出来るんだよね~」


 寿命を操作する能力!?


「ご主人。ヤバいッスよ! 話は本当だったんスよ! 早く何とかするッス!」


「な、何とかって言われても!」


 トンちゃんが焦って私の肩を引っ張り、私も焦って立ち上がる。

 だけど遅かった。

 私が立ちあがると同時に、お姉さんとなったカーミラちゃんが私に襲い掛かろうとして、そして……。


「良い事聞いたわ。その能力を私に使いなさいよ」


 可哀想なカーミラちゃん。

 鼻血を流したリリィから床に押し倒されて、見事に身動きがとれなくなりました。


 遅かったかぁ。

 寿命を操作出来るなんて聞いたら、リリィが絶対黙ってないもんね。


「う、嘘でしょ!? 何で!? 吸血したのに!」


 私はリリィの鼻血を拭いながら苦笑して、リリィの代わりに答える。 


「そう言うのリリィには関係ないんだよ」


「そんなわけない! ちゃんと耳が尖ってるじゃん!」


「え?」


「あっ。本当ッス。ハニーの耳が尖ってるッス」


「どういう事?」


 トンちゃんがリリィの耳を見て驚きながら喋ると、リリィが顔を顰めて訊ねた。


「さっき言ったじゃん! 私に吸血された奴は、皆吸血鬼になってせんのーされるから、私に逆らえなくなるの! こんなん普通は絶対出来ないんだから!」


 吸血鬼になるのは聞いてな……え!?


「リリィ吸血鬼になっちゃったの!?」


 私は驚きながら、リリィの顔を真剣に見る。


「ジャスミン。そんなに真剣に見つめられると、襲いたくなっちゃうわ」


「やめて?」


 って、あっ!

 リリィにも牙が生えてる。

 って言っても、八重歯が伸びた感じだけど。

 あれ?

 ちょっと待って?

 じゃあ、もしかして……。


 私は血の気が引くのを感じながら、リリィに押し倒されたまま動けなくてもがくカーミラちゃんに視線を向けた。


「リリィってお日様の光を浴びたら、灰になっちゃうの?」


「はっはーん。さては小娘お前、前世は地球育ちっしょ?」


「え? うん。そうだよ。日本に住んでたよ」


 私が答えると、カーミラちゃんがもがくのを止めて、鼻で笑って失笑する。


「やっぱりな~。太陽の光で灰になるとか、鏡に写らないとか、ニンニクの匂いに弱いとか、流水が苦手とか笑っちゃうんだよね~。んなわけ無いっしょ」


「え? そうなの?」


「当たり前じゃん。って言うかさ~。そんなの人間が勝手に決めた設定じゃん? 本物舐めんなって感じ」


「ねえ? 私にはよく分からないのだけど、吸血鬼になるとどうなるの?」


 リリィが顔を顰めて訊ねると、カーミラちゃんは素直に答える。


「太陽の光では灰にならないけど、解り易く言うとそうね~。単純に動きが鈍くなるわね。本当は私に逆らえなくなるってのもあるけど、お姉さんには効かないみたいだし……。あ、そうそう。不老にはなれるよん。但し、今まで食べていたご飯は食べられなくなるけどね~」


「あれ? それなら、ハニーの目的は達成じゃないッスか?」


 あ、確かに。

 うん。


「良かったね。リリィ」


 そう言って私はリリィに笑顔を向けたのだけど、リリィは顔を青ざめさせていて、全然良さそうな感じでは無かった。


「リリィ?」


 私が心配になって声をかける。

 すると、リリィがカーミラちゃんを押さえていた手を離して立ち上がり、珍しく頭を抱えて叫び出す。


「どうしてくれるのよ!?」


「ど、どうしたの?」


「だって、だって……っ!」


 本当にリリィにしては、珍しく動揺しながら涙目を見せる。

 そして、上半身を起こしたカーミラちゃんの肩を掴み訴える。


「ジャスミンの料理が食べられなくなるなんて聞いてないわよ!」


 え、ええぇぇ……。

 そこなのぉ?

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