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悪役令嬢と使用人たち

 さてさてさて。


 家ではどんな悪事を働こう?

 小手(こて)調べにわがまま言って、癇癪(かんしゃく)起こして、使用人に迷惑をかけてしまおうか!


 …と先ほどまでは思っていたのだけれど、なんだかとても難しい。


「リリアン様。今日の夕食は、リリアン様のお好きなものばかりですよ!」

「お疲れでしょうから、リラックスできるよう、アロマをたかせていただきますね!」

「リラックスといえば!庭師がリリアン様にと美しい薔薇を!ご入浴の際、湯船に浮かべたら素敵じゃないですか?」


 ねぇ、使用人さん方。私を甘やかしすぎなんじゃないですかね!?


 雇う、雇われるの関係ではあるけれど、心から私を慕って仕えてくれる彼らに癇癪を起こすなんて、どうしてもできない。このままでは『お家で悪役プロジェクト!』が頓挫(とんざ)してしまう…!


 こうなったら、使用人の行動に難癖つけてネチネチ言う方向にシフトチェンジだ!



「リリアン様、お食事の用意ができました」


「遅いじゃないの!」


「申し訳ございません。なにしろ料理長がこだわってこだわってこだわり抜くものですから…」


 私の文句にも動じず、にこやかに話す使用人さん。さすが、公爵家の使用人ですね。


「早く持ってきなさい!」


 努めて甲高い声を出すように意識する。


「かしこまりました!」


 素早く消えた使用人は、とても良い匂いを放つ食事のカートを押しながら優雅に戻ってきた。


「お待たせしました。料理長が腕によりをかけた、『キジのソテー』になります」


 まず、キジのソテー。

 美味しいんだな、これが…。


 柔らかい食感と共にジュワッと溢れ出る肉汁に、バターの香りとまろやかな味。あぁ…。


 美味っしい───!!


 もぐもぐもぐと無言で口を動かす。


 美味しい美味しい美味しい。これは、舌が喜んでいるって言うのかな?噛めば噛む程広がる旨みに幸せを感じる。


「いかがですか?」


 いつの間にか隣にいた料理長が真剣な目で問いかけてくる。

 うん、美味しい。美味しいんだけどね…!


「ふん、まあまあね」

 目を逸らし、演技力を総動員して冷たくあしらう。


「そうでございますか…。精進(しょうじん)致します…」

 料理長は腕によりをかけた料理にくだされた、予想以上に低い評価に目を伏せる。ぎゅっと拳をにぎりしめているのが横目でもわかる。


 …悔しいだろうね。

 前世でも高級だったキジ肉は今世でもとても貴重なものだろうし、それを使って手間暇かけて作った料理の評価が『まあまあ』だもんね。


「でも、嫌いじゃないわ」


 念の為、フォローを入れておく。本当は叫びだしたいくらい美味しいし、また作ってほしいからね。


「…グスッ」


 …ん?


「ううっ…ズズッ!」


 りょ、料理長…?な、なんで泣いているんですか…?


 …やっぱり、プライド傷つけちゃった?


「ま、マリウス…?」


 な、泣くほど悔しかったですか!?


「うおおおおぉん!」


 が、ガチ泣き…だと…?ご、ごめん!ごめんよ!!泣かないでっ!?



 どうしようやらかしたと周りを見渡すも、使用人たちはみな一様に地面を見つめている。


 そして、鼻をすする音が。


「グスッ…ズズズッ!」

「…スンッ!」


 あ、あの…?使用人さん方…?


 何か言わねばと口を開いたところで、1人の使用人が、一際大きな音を立てた。


「ズ、ズズッ!」


 そちらへ自然と目が集まる。

 彼女、ナンシーは、1歩前に出ると涙でぐちゃぐちゃの顔でこちらを見た。

 いや、それは泣きすぎでしょう。顔がひどいことに…。


「お゛、お゛じょうざま゛ぁ゛!」


 …な、なんですか。なんで皆さんそんなに泣いてるんですか。怖いんですけど。


「グスッ!失礼じま゛ずっ…!」


 ナンシーはバッと身をひるがえし、この場を後にした。



「ええ!?」


 突然の行動驚いて、皆がポカーンとする。


 何事かと思うより先に、彼女は帰ってきた。


「お゛じょうざま゛っ ずみま゛ぜん!!わ゛ずれてま゛じだぁ〜!!」


 目の前に差し出されたのは『焼き牡蠣(がき)』。

 熱々でジュワジュワと音を立てている。

 香ばしい香りに、口内に唾液が溜まる。



 口にすると、優しい、味がした。


「…美味しい」


 思わずぽろりと言葉を零した。

 なんだか、懐かしい味がした。今世でも何度も口にしているはずなのに。なぜだか、今はもう帰ることができない故郷を思い出した。



 ひとつぶ、涙が零れた。


「…っ!?ど、どうして…」

 自らが令嬢だということも忘れて、ドレスの袖で慌ててぬぐうけれど、それはさらに一つ二つと頬を伝う。


「お゛じょうざま゛…」


「ま、待ってね!これはすぐに止まるから!」


 私は何を言い訳しているのだろう。ドレスの袖で乱暴に、ゴシゴシと涙をぬぐう。


 …この場に涙を流していない者などいないのに。


「すぐに泣き止むから!」


 令嬢としての言葉遣いなど忘れ、焦ったように言葉を紡ぐ。


「ほんとに、もうちょっとでっ…!」


「お゛じょうざま゛」

 ぎゅっ、っと抱きしめられた。


「っ!…ナンシー?」


「もう、我慢しなくていいんです。泣いてしまっても、いいんです」


「…っ!!」


 ───我慢しなくていい。


 …そうか、私は我慢していたんだ。


 前世では好きじゃなかったキャラだからもうなんとも思わない、なんて嘘だ。そうやって気持ちを閉じこめて、彼への想いに蓋をしていたんだ。


 …私はここで、初めて失恋を自覚した。


 好きで好きでたまらなくて、愛されなくてそれでも好きで。将来を約束されて、嬉しくて舞い上がりそうで。だけれどやっぱりいつまでも一方通行の想いでしかなくて。

 愛しくて苦しくて情けなくて幸せで。


 ───それを。

 あの日、すべて否定された。そう、私を否定した。誰よりも大切で、私の中でなによりも大きかったあの人が。


 私を見なかったくせに、私を勝手に定めてしまって。想い人が他にいる、だなんて言ってほしくなかった。ああそうか、私よりも…だなんて分かりたくなかった。そんなことを思わないでほしかった。


「く、悔しいよう…!」


「ええ、ええ、ぞう゛でずねっ!」


 ナンシーはよしよしと私の頭を撫でる。


「ずぎだったんだよぅ!!」


「づらがったでずねぇ…!」


「ゔわ゛ぁああん!!」


「がんばりま゛じだねぇ…!」


 よしよしよしと幼子(おさなご)をあやすように撫でられる。


「ゔ…ゔゔ…。ズズズズッ…!」


 …しばらく泣きわめいて涙もかわいた頃、ナンシーは言った。


「無理しなくていいんですよう!リリアン様には、私がついているんですから!!」


 そして、ナンシーは、周りで静かに泣いていた使用人さんたちに目を向けた後、言い直した。



「…いいえ!私たちがついているんですから…!!」


大変長らくお待たせ致しました!!


ちょこちょこ書きためていた分が機械の謎現象により消失し、本日更新分は本日書き下ろしです!


皆さま!

タイピングが遅くて、しかも書いた文が消えたために、スマホで高速執筆するというアホなそのありをどうかこれからもよろしくお願いします!!


★いそいで書いたために誤字脱字チェックがまだです。明日明後日で行うので、その点はご了承ください。

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