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ルーシーへの告白(レヴィン視点)

 

 …気まずい。


 リリアンが用事を思い出したとかでクラスへと戻ってしまった。彼女の帰りを待つ間、ルーシーと二人きりだ。


「レヴィン様。お姉様との時間にお邪魔してしまい、大変申し訳ございません!」


 ルーシーに謝罪され、意外に思った。


 謝るとしたら僕の方なのに。…姉との婚約破棄を持ち出した僕をルーシーはどう思っているのだろうか。


「いいや、君は悪くないよ。むしろ君の姉を片時(かたとき)とはいえ独り占めしてしまって悪かったと思っている」


 それより、とルーシーに問いかける。


「僕に話があるのだろう?」


 ルーシーの友人たちは身分が上から下まで様々なので、食事は身分の低い者たちが集まる方の食堂で取っていたはずだ。そちらは校舎を挟んでちょうど反対側。一方、僕はこちら側の貴族御用達の食堂を利用しているので、ルーシーと顔を合わせることは滅多にない。

 リリアンに声をかけられる前の控えめにきょろきょろと辺りを見回す様子から、いつもここにいるリリアンに用があったのかと思ったが、そうでは無い。絞られた選択肢を(かんが)みれば、答えは一目瞭然だった。


「はい。私、レヴィン様を探しておりました」


 予想通り。ではやはり、リリアンが席を外している今が話すのにちょうどいいだろう。


「僕も君とはそう遠くないうちに話したいと思っていた」


 ルーシーはしっかりと僕を見すえた。僕はルーシーの、リリアンそっくりの紫の瞳に貫かれ、誤魔化(ごまか)しや隠し事をすれば見破られるだろうと直感した。


 まあ、婚約破棄については聞かれると思っていたけれど。元気はつらつとしていて、それでも奥ゆかしいルーシーのこと。迂遠(うえん)に来るかと思いきや、直球だった。…そうだね、リリアンがいつ戻ってくるか分からないしね。


 けれど、この話をする前に伝えなければならないことがある。

 


 ───ルーシー、僕はどうやら君を愛してしまったようだ。


 ただ一言正直に告げた。余計な言葉は不要だろう。


 ルーシーは黙り込んだ。そして、少し間を空けてから口を開いた。


「私、ずっとレヴィン様のことが好きでした。とても、言葉では言い表せないくらいに…」


 言葉とは裏腹にその声は深い悲しみで満ちていた。


「ですが私は、それ以上にお姉様を大切に思っています。お気持ちは嬉しいですが、お姉様を悲しませるようなことは仰らないでください」


 成程、この二人はお互いをこんなにも思いあっているのか。ルーシーを溺愛するリリアンを目にすることは多々あったが、逆もそうなのか…。


「悪かった。君に気持ちを伝えたのは軽率(けいそつ)だった。君を悲しませたし、君とリリアンの仲を引き裂いてしまうところだった。…心の内を口に出せば何か分かると思って、こんなことをしてしまった。僕には自分の心がどうも分からなくてね。…君に失礼を承知で頼みたい。どうか助けてはくれないだろうか」


 一人で悩んだ結果が婚約破棄の申し出といろんな意味で失敗したこの告白。僕は何度間違えば気が済むのだろうか。今はただ、頼れる相談相手が欲しかった。


「もちろんです!私でよろしければ、どんな相談にだって乗って差し上げますわ!」


 どうやらこの選択は間違っていなかったらしい。


 僕は話し始めた。この胸の内に渦巻くすべてを…。



 *



 いつからだろうか、ルーシーを見ると胸が苦しくなることに気がついた。


 ルーシーの花開くような笑顔に幸せな気持ちになるし、ずっと一緒にいたいと思う。


 ───僕はこの感覚を知っている。


 だって、彼女に(いだ)いてきた想いと一緒じゃないか。…いいや、この胸の高鳴りはそれ以上かもしれない。


 何故こんな気持ちになってしまうんだ。僕には可愛い婚約者がいるっていうのに。


 こんなことがあっていいのか?いや、だめだろう。なんだってルーシーを…。


 罪悪感と困惑とで頭がいっぱいになる。


 ───僕は彼女を、リリアンを本当に愛しているのだろうか?


 降って湧いた大きな疑問に恐怖した。


 もしそうでないなら、彼女の笑顔を曇らせてしまうのを(のが)れられないことだろう。…その時は、今の関係を終わらせることも考えなければ。

 


 …悩んだ末にたどり着いたのは距離を置くこと。彼女への想いを確かめる時間がほしかった。



 僕が切り出したのは婚約破棄。


「理由をお聞きしてもよろしくて?」


 その言葉に少しでも期待した僕は本当に情けない。


 だって、止めてくれると思ってたんだ。僕のことを大好きな彼女なら。


 …それなのに、彼女は黙って話を聞いている。


 どうしてだ?このままでは本当に婚約破棄してしまうよ?


 …もしかしたら、彼女は僕との婚約を解消したいのかもしれない。ずっと前から僕に愛想を尽かしていて、義務感から婚約者を演じていただけなのかも。そんな考えが頭をよぎる。


「父上には僕から話しておく。君は何もしなくていいから…」


 というかできれば何もしないでくれ…。お願いだから。本当は婚約破棄などしたくないんだ。


 なのに僕は、婚約破棄の申し出を取り下げることをしなかった。自分の気持ちが分からなかったから。あの時に婚約破棄をしておけば…と後悔する日が来ないとも限らなかったから。


「何か言いたいことはないのか?相手は誰なのかとか、どうやって婚約破棄するのかとか…」


 これを聞かれないのも不思議なことだ。もちろん問われた所で答えなど、一切用意してはいなかったけれど。


 …婚約破棄をちらつかせ、それを拒否された後で「距離を置こう」と提案するはずだったんだ。それだけだったんだ。


「聞く必要がありませんわ。だって、全部知っていますもの」


 え。聞く必要がない?一体、君は僕の何を知っていると言うんだ…?


 分からない。…僕には彼女の考えなど欠片(かけら)も分かりはしなかった。


 けれど、彼女との関係をこのまま終わらせてしまうことだけはだめだと僕は分かっていた。


 保留にしよう。そうだそれがいい。


 …幸い、これは両家、この国の王である父上の決めた婚約だ。僕らが今ここでどうこうできる話ではない。


「…まあ、あれだ。ほんとに婚約破棄するかとかそういうのはまた今度話そう。その方がお互いのためにいいと思うしな」


 不安と焦りを見せないように気をつけて言葉にした。…言った後で少し上から目線だったなと反省した。


 リリアンの反応はない。無言は肯定と受け取ってもいいのだろうか。


「リリアン?聞いているのか?」


「ええ、もちろんですわ」


 彼女はそう言うと、僕の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「ルーシーをよろしくね」


 心を見透かされたような、そして彼女との終わりを予感させる言葉に、僕は曖昧に微笑むことしかできない。そう、それは彼女とルーシーの間で揺れ動く僕の気持ちに無理やり終止符を打つような。気を抜けば涙を見せてしまいそうだった。


 …まだ、終わってない。終わってはいない。終わらせては、いけない。


 そう自分に言い聞かせ、彼女の後ろ姿をぼんやりと見送る。


「リリアン…。君は…」


更新完了っ!


読んでくださって本当に感謝!


今回の更新分ですが、またもやレヴィン視点になります!一話│(登場人物紹介を除いて)の裏側を明らかにさせてもらいました!


レヴィン王子は浮気した感じになってますが、カナコイの影響を受けてのことだから仕方ないんですよね…。うーん、不憫!!



この作品、リリアンとレヴィンの心の内をそれぞれ見てもらうことで、読者様には『どっちの気持ちも知ってるよ!』という神の視点を楽しんでいただくことが狙いです!


今後は登場人物がごちゃごちゃしない程度に他の視点も入れていくつもりですのでご理解くださいね!


それでは次回の更新で〜♪( ´▽`)

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