婚約破棄への布石
「どうだろう、僕たちは仲睦まじい関係に見えているのだろうか?」
食後のお茶を楽しんでいたレヴィン様が唐突に聞いてきた。
周りを見る限り、上手くいっている。時折感じるチラチラとした目線は気の所為ではないと思う。
「…ええ、見えているはずですわ。間違いなく」
私の心は複雑だけど、レヴィン様は私の返しに嬉しそうに顔を綻ばせる。
「そうか。それは良かった」
ええ。良かったですわ。計画通りですわね。
乙女心をくすぐる笑顔に、私はルーシーの笑顔を頭の中で数えることで対抗する。ルーシーが一人…ルーシーが二人…三人…四人…。ああ…可愛い…!
「いい香りの茶だ…」
レヴィン様の何気ない言葉に現実に引き戻される。
「それは海の向こうから輸入しているものですね。行商人から定期的に買い付けているのです」
私のお気に入りなので、我が家では切らさないようにしているんです。
「その行商人、紹介して貰えないだろうか」
うん、やっぱりね。レヴィン様はこれが気にいるだろうと思ってました。実は既に、行商人に王族に卸すよう話を通してあるし、なんなら今すぐにでも差し上げられるようにと在庫の手配もしておりますよ。
「ええ、喜んで。レヴィン様に気に入られて、きっとこの茶葉も喜んでいますわ」
私の中でのレヴィン様への好感度が前世と比べ桁違いに高くて戸惑う。自分でも気付かぬうちにレヴィン様を持ち上げようと口が動いてしまう。たぶん、十中八九お世辞だと思われてるだろうな。私の本心だけど。
「それで、これからのことだが…」
レヴィン様が切り出す。
「はい。もちろん協力致しますわ」
私の望む結果を手に入れるためには私が動くしかない。私がルーシーと仲違いしなかったせいで、ゲームのシナリオは既に狂ってしまっている。レヴィン様に任せていてもハッピーエンドは迎えられないだろう。
「いや、僕はべつに今すぐ婚約破棄しようなどとは…」
いえいえ、レヴィン様。そう言わずに。私に任せてくださいな。心配しなくても私が上手いこと婚約破棄まで持っていきますよ。
「そのようなことを仰らないでください。後に延ばせば延ばすほどやりにくくなりますわよ」
後でやる、なんて甘い考えはだめだめ!今すぐ始めないと、カナコイのエンディングに間に合わないのよ!
確か、エンディングはレヴィン様含む攻略対象と私が学院を卒業する日。それまでに攻略対象のヒロインに対する好感度をMAXにする必要がある。そして、早めに断罪イベントをこなしていた方が攻略が容易であるというのはカナコイをプレイする者にとって周知の事実。
婚約破棄、つまり断罪イベントの発生の条件は攻略対象によって違うけれど、それについては問題ない。
だって、今のイベント進行を見る限り順調に王太子攻略ルートをいっている。これなら私が要所要所で問題を起こして周囲からの評価を下げて、さらにはルーシーとレヴィン様の交流の場を設ければ自然とエンディングへ向かう。
「それはそうだが…」
レヴィン様の声を聞く限り気が乗らなそう。婚約破棄を進めたいのではないの?…あ、もしかして、王様から反対されているとか?
「王様はもうご存知ですわよね?」
うちのお父様は何も言ってきませんが。…その日のうちに報告がいっているはずなのに。まあ、大方仕事が忙しく、娘の婚約破棄に口を出す暇がないのでしょう。
「もちろん知っている…。好きにしろと仰っていた…」
まあまあそんな、苦々しい顔で。それはきっと悪い方の「好きにしろ」ですね?婚約破棄するだとふざけんないいよもう勝手にしろよ…ってニュアンスの。
「そうでしたか…。それはレヴィン様もやりにくいでしょう…」
私は、お気の毒に…と日本人の得意分野、心からの同情をして差し上げる。
「でしたらやはり、私に任せてくださいませ。決して悪いようには致しませんから」
レヴィン様はやはり気が乗らないご様子。
「すると、君はなにか、行動を起こすつもりなのか…?」
はい、もちろん。これからは全力で悪役をやる所存ですが。
「いいえ、たいしたことは致しませんわ。それに、私とレヴィン様が仲良く、レヴィン様とルーシーも仲良く、そして私とルーシーがいつも以上に仲良くしていればすべてが上手くいきますわ」
毎日この時間、私とレヴィン様でお昼を一緒にして、そこにルーシーに入ってもらって、いつの間にか私がするりと抜ければあら不思議!カナコイの素敵シーンじゃないですかあらやだー!
カナコイをプレイしていた当時は、顔だけは良いバカ王子とヒロインがイチャイチャするだけのイベントだと思ってたけど、今は楽しみで仕方ない。だって、実際のレヴィン様はゲーム通りどころかそれ以上に優しく思いやりに満ちあふれたお方で、悪役令嬢が真面目に恋してるレベルだ。まあ、結局私は捨てられる婚約者役なのでなんとも言えないけど。ということで、バカ王子と呼んでいたのを訂正しようかしまいか迷っています。
…簡単に言うと、イケメンな王子様と私の天使が一緒にキャッキャウフフしてるのが見たいんだよ、うん。
私の願いが通じたのか、ルーシーが偶然通りかかった。時間から考えて、食堂からの帰りだろう。運良く周りに友人もいないようで、私は声をかけることにした。
「ルーシー!一緒にお茶しませんこと?」
こちらに気づいたルーシーが近づいてくる。
「お姉様、お誘いありがとうございます!…あら、レヴィン様?私が一緒でよろしいのでしょうか?」
私はレヴィン様を見て「いいですわよね?」と確認を取った。ここで断ることはないはず。
「ああ、もちろん」
よしよし。これで私が理由をつけて抜ければいいんだ。こうやって、毎回ちょこちょこ居なくなれば、二人の時間が必然的に生まれるからね。
連日投稿なるか…と思いましたが時間的に間に合いませんでした笑笑
こほん。
読者の皆様!お読みいただきありがとうございます!!
実は私、前話で「何だこの話ややこしいなー!読むのやーめた!」という方が多数いらっしゃるのではないかと気が気ではありませんでした!
私もそこを「主人公のノリが好きな方は他視点は読まなくていいよ!」とかできたらよかったんですが!できないんです!!。 ゜( `>ω< )
この物語は様々な視点を挟むことで作り上げていっていますので、それを楽しんでくださる方がいればいいな!いれば、いいんですけどね…!?
…といった作者の不安を吹き飛ばす勢いで読んでくださった皆様に!心からの感謝を…!!ありがとうございますー!!
この後書き、夜中テンションですのでいつも以上に変な感じで大変申し訳なく思います…。
それではまた次回!(o・v・o)/~