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さかあがり

作者: さむさん

眠れない夜の話

「ねぇ、そこのおじさん」


 なんだい


「眠れないの、助けて」


 眠れない、誰が?


「もう、呆けちゃってるの?私よ私。私が眠れないの」


 それで?


「だーかーら。私が眠れる様になんとかしてって言ってる訳。ああもう、もっと別の人に言えば良かった」


 僕なんかが君を寝かしつけれる訳ないと思うよ。こんな時間に夜出歩いてる女子高生を寝かしつけた事は無いからね。


「はいはい、それは良く出来た娘さんね」


 ああ、家の娘は僕と違って良く出来た娘だ。


「良く出来た娘さんの良く出来てないおじさんは、私を助ける気はあるの?ないの?」


 僕もね、年は取ったが男だよ。女の子に助けろと言われて知らない顔は出来ないね。


「もう、回りくどいなぁ。要するに助けてくれるんでしょ?」


 出来るのならね。


「どっちなのよ。もう良いわ。別のもっと素敵なおじ様に助けて貰うから」


 いや、ちょっと待ってくれ。助けるから。


「そう、それで良いのよ。それで。じゃあお願い」


 うん


「ほら、早く」


 助けるって、どうすればよかったんだったかな。


「だから、寝かせて。私を。安眠させて」


 家に帰って布団に入る。


「それが出来ないから人に助け求めてるんでしょ!やっぱやめた。違う人にする」


 駄目だ。


「なんでさ。助けてくれないんでしょ」


 街は僕みたいな人間ばっかりじゃない、君の言い方だと、身売りしてると間違われて良く無い事に巻き込まれそうだ。


「そんなの私だって馬鹿じゃないんだからわかるよ。っていうか売春だと思ってた訳?」


 思ってたら直にでも一緒にホテルに行くと思うけど。


「なるほど、そりゃそうね。おじさんそういう甲斐性なさそうだし」


 そういうのは甲斐性って言わないよ。


「えっと、据え膳食わぬわどうのこうのって」


 それとも別。


「難しいわね。知恵熱で寝れなくなるわ」


 君がそういう目的で僕に声を掛けたんじゃないって言うのは直ぐにわかった。じゃないと他へ行くって言った際に呼び止めたりしない。それに最初から立ち止まらない。


「呆けてはいないって事ね。少し安心したわ」


 まだ呆けるのには40年位早いよ。


「それで、話は戻すけど」


 うん。


「どうすれば良いかしら」


 昔、知人から聞いたリラックスの方法があるんだ。ベッドに仰向けになってね、ゆっくり呼吸をして


「ごめんね、そうじゃないの。もっとなんていうか」


 ああ、要するに不安なんだね。


「なんでかわからないけど、多分そう。夜ベッドの中に入ると、心臓がね、ドンドン暴れ始めるの。なんだかよく分からなくなって、なんでなのかもわからなくて」


 今、やりたい事は無いのかな。


「今?今ならアイス食べたい」


 そうじゃないよ。すぐ終わる事じゃ駄目なんだ。なんて言うかな。出来る事をしても駄目だと思う。


「難しい事言ってると、また知恵熱で眠れなくなる

 わ」


 そうだな、ちょっと付いてきて。


「家に連れ込むのかしら。それともホテル?奥さんは居るって言ったからホテルなの?嫌よ、私は」


 君、ここの近くに住んでるなら道はわかるだろう。


「私の家は教えないわ」


 そうじゃないよ。さっきも言っただろう。君に手は出さない。甲斐性が無いって言ったのは君だよ。


「ならいいわ。家は教えないけど、此処の近くよ」


 そう、なら近くに公園が有るの知ってるだろう。そこまで行くよ。


「どうして?」


 君はなんで僕を呼び止めたんだったかな。


「また忘れたの?私を寝かせて欲しいって何度言えば分かるのかしら」


 僕がなんで公園へ行こうとしてるか分かるかい?


「公園でなんて寝ないわよ」


 そんな事は言って無いよ、でも寝る為には必要だ。


「そう、なら付いてく」


 逆上がりって分かるかな。


「何言ってるのよ。子供の頃に散々やらされてトラウマになったわ。知らない人間なんて日本には居ないんじゃないかしら」


 そこまで言わなくても、分かってるならそれで良いんだ。君は逆上がりは出来る?


「……出来ない」


 そう、余計に良かった。


「それがどうしたのよ。関係ないじゃない」


 関係あるんだ。君にこれからやってもらうからね。


「ちょっと待ってよ。なんで私がそんな事やらないといけないのよ」


 君が僕を呼び止めた事に答える為だ。


「なにそれ、ちゃんと言ってくれないと分からない」


 それは君が考えなくちゃならない事だよ。その代わり、今日だけ寝る日々から開放されると思う。明日も寝る為の逆上がりだ。


「また難しい事言うの?知恵熱出るわよ」


 それ、今日三回目だね。


「ほっといて。いいわ、やるわよ。やれば良いんでしょ」


 そう、出来るなら、ね。


「出来る出来ないじゃないの、やるのよ。これだけ言われて何もやらない訳にはいかないわ。私がそこらの女子高生とは違う事を教えてあげる」


 この時間に出歩いているだけでも、もうその当りに居るような女子高生とは違うよ。


「それで、逆上がりした後はどうすればいいのかしら」


 何もしなくて良い。


「本当に逆上がりがメインなのね」


 そうだ。君は逆上がりが出来るまで鉄棒と向き合う。その代わり、僕はそれをずっと見ていよう。


「見てるだけなの?」


 ああ、見てるだけだ。手助けはしない。その代わり、君が出来るまで見ている。


「なるほど、証人になってくれるのかしら」


 正解。君は頭が良いね。十分だ。


「だから言ってるじゃない。そこらの娘とは出来が違うのよ」


 君は面白いね。


「そんな事言われたのは初めてよ」


 それは光栄だ。


「ええと、公園ね。しばらく行って無いけど、場所は判るわ。さっさと行って直ぐ成功させるとするわ」


 その意気だ。エスコートしよう。


「良いわよ別に。痴漢が出て来ても私がなんとかするから。警察が来たらおじさんが私のお父さん役になれば問題ないわ」


 演じきれるか分からないけど、善処しよう。


「それと、私が逆上がりをしてる間見てくれてるんでしょ?」


 そうだよ。


「変態」


 ああ、そうか。


「いいのよ気にしなくて。ただ言って置きたかっただけ。その代わり責任もってずっと見ててなさいよ。私の明日の為に、ね」

眠れるようになった夜の話

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