巨大蜘蛛と人助け
割りと長くなってしまった。
だが私は謝らない、、、すいませんでした!
「さ、寒い、、、」
美術館に震えた阿生の声が響き渡る。
気温は一度、今は一月の後半なので真冬でも相
当寒い方だ。
「次の仕事どうすっかな」
阿生が溜め息混じりに呟いた。このようなこと
を呟いたのは阿生は二月になったらこのバイト
をクビになってしまうからだった。その理由は
前にも言ったが、阿生の力で上司の警備員達や
清掃スタッフに相当な迷惑をかけてしまったか
らである。
現在、阿生は美術館の二階にいた。この階はま
るまるこの美術館の警備員や清掃スタッフの休
憩場所になっていて上司達が言い争いをしてい
た監視室もこの場所にある。
そして今、阿生は怪盗達(自称)のいる一階に向
かう途中だった。阿生は一階に向かう階段を降
りながら自分が生まれて来てから今までの人生
を走馬灯のように思い出していた。
怪盗達(自称)といえど犯罪者と対するのだから
それなりの覚悟は必要である。ただ阿生はこの
後、怪盗以上の化け物と対することになるとは
夢にも思わなかった。
覚悟を済ませ、階段を降りきり、一階の通路を
しばらく歩いた後、阿生は三人の怪盗達(自称)
の話し声を耳にした。(阿生は物陰に隠れてる)
「おいおい! 盗むならこのお姉ちゃんがいっ
ぱいいる絵だろうが!」
赤いスーツの男が怒鳴る。
「いいや、ここはこのヘンテコなタンポポの絵
だろ!」
黒帽子の男が言い返す。ちなみにあれはガー
ベラの絵だ。
「では、日本刀を盗むのがいいでござろう」
「んなもん、ねーよ!」
和服の男がとぼけたこと言った瞬間に赤ス
ーツと黒帽子が勢いよく突っ込んだ。
まるでコントである。そして阿生はさっきまで
の緊張した空気に後にこの緩い空気に安心した
のか。
「盗むもんぐらい最初から決めとけよ!」と誰
の目線にたっているのかわからない突っ込み
をしてしまった。
「誰だ!」
赤スーツがさっきまでの茶番劇が嘘みたいな
いい声で言葉を発した。
阿生は自分に何やってんだバカと心の中で突っ
込みながら物陰から出た。
「ほう、俺ら三人の前に一人で来るなんていい
度胸じゃねーか! おらっ!」
赤いスーツが怒鳴りそのまま阿生の顔面
にパンチをしようとした。
三十秒後、そこにいたのは服がちぎれて、血が
付き顔が腫れてパンパンになった怪盗達(自称)
だった。
「ブゥビバァゼンデェジタ」(すみませんでした)
赤スーツが言う。顔が腫れているので何を言っ
てるかわからない。多分謝罪の言葉だろう。
しばらく話していてやっと言っていることがわ
かってきた。
「いやー警備員さんお強いんですねー」
ヘラヘラと黒帽子が言う。格好が次○似なの
で雰囲気が台無しである。
「僕たちなんて一瞬でしたよ ハッハッハッ」
流暢な現代語で和服が話す。これには思わず。
「お前だけははキャラ守れよ!」とまた突っ込
んでしまった。一番キャラがたっていたのにそ
れ急に崩したこの男に残念な感情をもってしま
ったからだ。
「ドドッドドッドドッ!」怪盗達(自称)と会話
をしているとものすごい音と揺れが起きた。た
だその音と揺れは十秒で止まり阿生は変だなと
感じたものの地震だと思い、怪盗達(自称)と会
話を続ける。
「なんだったんだ?あの地震?」
阿生が不思議そうに問う。ただその答えは帰っ
て来なかった。何故なら怪盗達(自称)の顔がこ
れまで見たことない汗の量でびっしょり濡れて
いた。
「どうした?いくら俺が怖いからってそんな怖
がることないぞ?」阿生がまた不思議そうに
問う。
「ち、ちが! う、後ろ!蜘蛛!」赤スーツが
動揺し、言葉を失いながら叫ぶ。
「どうした? 蜘蛛ぐらいいてもおかしく
な、、、!?」
阿生は後ろを振り向き、この世のものとは思え
ない異常なものを見た。
そこにいたのは紛れもない蜘蛛だった。ただし
全長十メートルの足が鎌のようになっている化
け蜘蛛である。
「あ、が、あ?」阿生はすごく阿保みたいな驚
き方をした。人間、本当に驚くと声がでないと
いうは本当である。
蜘蛛が自分の足の鎌を振り上げた。その瞬間、
阿生はやっと自分の命の危機に気づいた。
そして阿生は目を閉じて自分が死ぬのを本気で
覚悟した。そしてその瞬間阿生はある男の声を
聞いた。
「飛蝗弾丸」その声を
聞いた瞬間、阿生が目を開けたと同時に目の前
にいた蜘蛛がまるで風船のように破裂し黒い液
体をばらまいた。
阿生は生き延びた喜びとあの巨大な蜘蛛が一瞬
で弾けとんだ驚きを合わせたような顔をしてそ
の場に尻餅をついた。
タッタッタッタッと誰かがゆっくりと歩く音が
する。阿生はその歩く音に恐怖を感じたがその
恐怖は歩いてきた男の声を聞いて吹き飛んだ。
「大丈夫かい? びっくりさせちゃったね 怪我
はない?」蜘蛛が弾けとんだ時に聞いた声と
同じ声だ。ただ、あのときの声よりもずっと
優しい声だった。
その男は眼鏡をかけていて、髪を後ろに結
び、笑顔が優しい二十歳ぐらいの細身の男だ
った。あの声を聞かなければこの人があの蜘
蛛を殺したとは思わなかっただろう。
「あ、はい ありがとう、、、ございます」
驚きを隠せない声で阿生が答える。そしてし
ばらくの静寂が二人を包む。
その静寂を破ったのはスマホの着信音だった。
男は「ごめん、電話だ」とその場を十分ほどあ
け戻ってきた。そして阿生に別れを告げた。
「ごめん、突然だけどもう行かなきゃいけない
んだ 困ったことがあったらここに来てね」
と名刺を渡して、二階の窓の窓から飛び降り
阿生はちゃんとお礼を言おうと男が飛び降り
た窓から下を見たがそこには誰もいなかっ
た。
渡された名刺に目を通す。「モンキーズ探偵事
務所? 社員 仁童 白亜河(じんどう はく
が)」どうやら阿生を助けた男の名前は仁童 白
亜河という名前らしい。 モンキーズ探偵事務
所という名前は聞いたことがなかったが白亜河
にちゃんとお礼をいうために阿生はまた後日
そこに訪ねることにした。
そして阿生は家に帰り、自分で出した布団に入
り今日あった蜘蛛の化け物のことを考えてい
た。
「あの蜘蛛はいったい、、、」その言葉を最後
に阿生は眠りについた。