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プロローグ2


 高校受験のときの話だ。

 俺が目指していたのは近くの難関私立高校。

 名を栄光学園といい、その校風から近隣のお坊ちゃんお嬢さんが集まる学校だ。

 偏差値は高い。

 そもそも専願システムを採用していない時点で、かなり強気の高校である。


 それでも俺はここを目指した。

 いいかげんクラスの女子たちから白い目で見られるのに飽きていた俺は、この高校ならばそんな心配もあまりないだろう、と思い、嫌いな勉強に励んだのだ。

 ひょっとしてひょっとしたら、俺に彼女なんてものができる可能性が1パーセントでも上昇するかもしれない、とも考えて。


 さらばクラスの腐れ女ども、そしてこんにちはお嬢様方――とそんなことを夢見ながら、俺は受験勉強を続けた。ロクでもない人生と決別するために。

 しかし試験当日、徹夜を重ねたせいで寝不足だった俺は、信号無視のポルシェに気付くのが遅れて轢かれた。

 で、死んだ、というわけなのだが。

 問題なのはここからだった。


「……あれ?」


 ふと気が付くと、何やら薄暗い部屋で座り込んでいた。


「何だ? どこだよここ……」


 首を傾げていたら、「あーもう、いっそがしいわね」という女の声がした。


「まあいいわ、もうちょっとで全部放り出して逃げてやる……ん?」


 部屋に入ってきたその女は、俺に気付いたらしい。

 セミロングの金髪に、真っ白なふわふわの服を着ている。

 歳は女子大生ぐらいか?


「何? 誰あなた、変態?」


 第一声がそれかよ。


「変態じゃねえよ! そっちこそ誰だよ、ここどこだよ?」


「あれ、もしかしてあなた人間なの?」


「人間じゃなけりゃ何なんだ」


「ってことは死んだ人かあ。あたし死者担当じゃないんだけど、なんでここに来ちゃったのかな」


「は? 死んだ?」


「うん。ここは天国、あたしは女神様。人間は死ななきゃここには来られないよ」


 そいつ――女神が指をパチンと鳴らすと、何かの用紙が出現する。

 俺のデータが書いてあるようだ。


「えーと、どれどれ。沢井芳樹、享年15歳。交通事故で脳死。だってさ」


「事故?」


 そんな馬鹿な、と思いかけて。

 そういえばぶっ飛ばしてきたポルシェに轢かれた気がする。

 あれが最後の記憶か。

 ロクでもねえな。


「あっ、けど女神って言ったよな? てことはアレだよな、異世界チート転生だよな!」


 俺の人生ロクでもなかったから、生まれ変われるんだ!


「あっはっは、ラノベ読み過ぎ」


「女神に言われたくねえよ!」


「まあでも、せっかくここに来たわけだし」


「転生?」


「ううん。……ちょっとした実験台にでもなってもらおうかなあ」


 ニヤ、と不気味に笑う女神。

 何だよ実験台って!?

 ふと気が付くと、部屋の棚には理科室のホルマリン漬けみたいなものがズラっと並んでいるのだが、中身はどことなく人間の身体のパーツっぽいような……。


「う、嘘だろ! ここまで来てまた殺されるのかよ俺!?」


「大丈夫、死ぬより苦しいことっていっぱいあるんだよ?」


「助けてくれぇぇぇ!」


 とそのとき、俺のデータに目を通していた女神が「あっ」と何かに気付いたらしい。


「そっかわかった、あなたヤツヤの……だからあたしのところに来たのね」


「矢津也? なんであいつが関係あるんだ?」


「いいのいいの、こっちの話」


 実験台は止めにします、と女神。


「その代わり質問ね」


「いいけど」


「あなた、願いが何でも叶うとしたら、何を願う?」


「何だよいきなり。チート転生じゃダメなのか?」


「ホントにそれ? 15年生きてきて、一番の願いはそれなの?」


 そう言われるとちょっと困るけど。

 一番の願い、か。

 もし俺が死んでなくて、いつもの現実世界にいたとしたら、一番の望みは何だろうか。


「あ。ハーレムかな、俺の願い」


「ふーん。なんで?」


「なんでって……俺、女子に縁がないし。だから、たくさんの美少女に囲まれて生きていけることになったら、超楽しそう」


「童貞丸出しクソきもい、と。データに書き込んどくね」


「お前が言えって言ったんだろうがぶっ殺すぞ!」


「冗談冗談。ていうか、それいいよ。叶うよ」


「叶うって言われても、俺もう死んでるんだろ? やっぱ転生させてくれるのか」


「転生じゃなくて、生き返らせるだけ」


「チートは?」


「なし。でもそのうち願いは叶うよ。あなたが望めば、ね」


「どういう意味だ?」


「ナイショ。それじゃ、次にあたしに会うときまで、ここでの記憶は封印されまーす」


「また会う? おい、少しは説明しろよ」


「あなたの存在は、もう舞台に組み込まれてたんだよねー。じゃあバイバーイ」


 女神がまたパチンと指を鳴らすと、目の前が真っ白になった。

 そして女神が言った通り、ここでの出来事を思い出すのはもっと後になってからだ。


 で。

 その後、脳死状態だった俺は、病院で奇跡的に回復した。

 しかしポルシェの運転手は結局見つからず、栄光学園の試験は当然アウト。

 泣く泣く近所の市立高校に通うことになった。


 ところが矢津也のことが問題だった。

 同じ高校行こうぜ、ということで共に栄光学園を目指していた矢津也。

 俺が事故ったことなど知らぬまま栄光学園の試験を受けて無事合格。

 だがその後、悪性のインフルエンザにやられ、公立の試験はまるで受けられず不合格。

 矢津也の行き場は栄光学園オンリーとなった。


 何なんだこの運命は。

 ていうか俺って何だろう。


 何か悪いな、と済まなさそうに頭をかいて俺に謝る親友に、ったくよー、と冗談半分で小突きながら笑ってやったが、俺の心の中は真っ黒い絶望感で一杯だった。

 これが運命か。ロクでもない人生からはもう逃れられないのか。結局、矢津也のような人間にはどうやっても適わないのか……。


 そうして夜な夜な枕を濡らす日々が過ぎていき、やがて春。

 親友と悲しい別れをした俺は、市立高校へと進学した。が、クラスに入った瞬間、げっ、と思った。

 そこには去年同じクラスだった女子たちの姿がちらほらと見受けられたのである。

 最悪だ。

 そして予想通り彼女たちが感染源となり、俺は入学して一ヶ月経った今でもほとんどクラスの女子と会話したことがなかった。


 さらには男子の方も矢津也ほど馬が合う人物もおらず、俺の高校生活は実につまらないものになろうとしていた。ていうかなっていた。


 もうダメだ、終わった。童貞どころかファーストキスどころか女子と手を繋ぐことすら叶いそうにない。

 ハーレムなんて夢のまた夢、空想上の存在なんだ。

 ああ、ロクでもない我が人生……。


 だが、そんな鬱屈していたある日、俺は奇妙な小箱を偶然手に入れることになる。そしてそれが俺の人生を一変させることとなった。

 しかし俺は完全に勘違いしていた。その小箱には、運命の赤い糸が巻き付けられていると錯覚してしまったのだ。


 確かに、結果的に俺の人生は一変した。だがそれはロクでもない俺の人生が、もっとロクでもないものに変わっただけのようにも思えた。

 なぜなら――小箱に巻き付けられていたのは、運命の赤い糸どころか、毒々しい紫色の荒縄だったのである。

 それも、一本や二本ではなく、何本も、何本も。



 これは、ロクでもない俺の人生の物語だ。

 甘酸っぱい青春の話といえばそうかもしれないが、なにせ俺は相当こじらせてる。

 ハーレムには向かっていくのだが、その道中があまりにもひどい。

 ていうかハーレムそのものもマジでひどい。


 可愛くて従順な女の子とイチャイチャラブラブしているだけの話が聞きたければ、たぶん俺じゃない誰かに聞いた方がずっといい。

 しかし、もしあなたがそういった話に飽き飽きしているのであれば、もしかしたら俺の話はいくらか興味の対象になれるかもしれない。そう願って、話をすることにしよう。


 そうだな、まずは錯覚の赤い糸のことから話そうか。

 俺が美少女と同居することになり、そしてそれが悪夢へと繋がっていった、その経緯を。

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