ジャンル再編後の未来予想
ジャンル再編に期待している、という人たちがいる。
彼らの期待は、まず間違いなく、裏切られるだろう。
そもそも彼らは、ジャンル再編に何を期待しているのか。
これは人それぞれで、ブレがあるはずだ。
「彼ら」なんて一括りにして論じたら、想定外の方向から鉾が飛んでくるに違いない。
しかし、ここでは敢えて、一つの「『彼ら』像」を作って、話を進めてみたい。
彼らが望んでいるものは、「テンプレ的でない作品が正しく評価される評価市場」である。
では、「テンプレ的でない作品」とは何か。
逆に、「テンプレ的な作品」とは何か。
なお、ここで言う「テンプレ」とは、一般用語の「テンプレート」とは違う。
『小説家になろう』という場でよく使われている「なろうテンプレ」──このなろうという場で生まれた独特の概念・用語だと思ってほしい。
さて、「テンプレ的な作品」とは何か、である。
ここでは以下のような要素を持った作品群を指すものとする。
(なお、悪役令嬢とかそっち方面の文脈は僕が分からないので、ここでは除外し、男性向け作品を前提とする)
1.現代世界に住んでいた主人公が、何らかの原因で異世界(剣と魔法のファンタジー世界)に転生/転移する……異世界要素
2.主人公は何らかの強大な能力や知識を持っていて(あるいは手に入れて)、それを用いて周囲の人々を圧倒し、成り上がる……チート、主人公最強、無双、俺TUEEEE、成り上がり要素
3.主人公はたくさんの美少女と出会う。彼女らはみな主人公を慕い、あるいは恋慕する。とにかく主人公は美少女たちにチヤホヤされる……ハーレム要素
4.主人公が苦しい想いをしたり、敗北することはない。主人公の所有物や財産、支配物(彼の支配下の美少女を含む)が、彼の意に沿わない形で失われたり、傷つけられたり、奪われたりすることはない……ストレスフリー要素
さて、なろうのジャンル再編によって動かせるのは、これらの要素のうちの、1の要素=異世界要素のみである。
その結果、どういうことが起こるか。
最もうまく機能したとしても──1の異世界要素を持たない、2・3・4の要素を備えた作品群が、各ジャンルランキング上位を席巻するようになる。
おそらくは、それだけの結果になるだろう。
これは最近読んだ、『ウェブ小説の衝撃 ネット発ヒットコンテンツの仕組み』(飯田一史/筑摩書房)という本に書かれていた内容の受け売りなのだが、テンプレ的な作品がヒットするのには、社会構造的な理由がある。
それは何かといえば──スマートフォンの発達や、無料のエンタテイメントコンテンツの普及・氾濫などといった社会的な変化に伴い、小説にせよゲームにせよ、エンタテイメントコンテンツの受給者がコンテンツに求めているモノが、一昔前と比べてすさまじく高速化している、ということだ。
多くの読者が、三時間かけて十万文字を読んで得られる大きな満足感よりも、五分、十分というスキマ時間でお手軽に得られる小さな満足感を求めるようになってきているのである。
もちろん、そうでない読者もまだ根強く残っているだろうが、絶対数で言えば前者が多いのだろう。
そしてさらに言えば、『小説家になろう』という素人投稿サイトの作品群は、プロが書いた書籍作品群と比べて、玉石混交の「石」の比率が圧倒的に多いはずだ。
その作品群の中から読む作品を探そうと思えば、「三時間かけて十万文字読んでも何の成果も得られない可能性」というリスクを負ってまで、旧来型の十万文字で構成された物語をわざわざ探そうと思わないのも当然である。
つまり、『小説家になろう』という場において、短い時間、短い労力で「効用」を与えてくれる作品を望むのは、読者の論理としては、道理なのだ。
そうである以上、どれだけジャンルなどをいじっても、どういった作品が日の目を浴びるかという本質部分は、変わらない──と、おそらくはそういう結果になるだろう、と思われる。
まあ、実際のところは、フタを開けてみるまで分からないけどね~。
とりあえず、あんまり期待はしない方がいいと思うよ、というお話でした。
感想レスは、当方の都合でつけたりつけなかったりするかと思います。
あらかじめご了承くださいませ。m(_ _)m