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異世界建国記  作者: 桜木桜
第一章 禁忌の森とグリフォン
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第七話 出会い

 「ということがありまして」

 「それは大変だったな。まあ気にする必要はない。同族同士殺し合うのは何も人間だけではないのでな。それに蟻も人間も同じ命。飯を食うのと同じだと考えれば大して気にならんだろう?」

 「おっしゃっていることは分かりますが……人間そんなに簡単に割り切れないんですよ」


 別にあの男のことを可哀想とか少しも思っていないし、殺したことを後悔してもいない。

 同じような事態になったら、結局殺すだろう。


 だが言いようのない不快感があるのだ。

 道徳教育の賜物ということか。


 「うむ。お主はそれで良い。同族を殺して不快ではないなど異常者であるからな。異常者に育てられた子供は異常者になる。だが迷うことはするな。無駄であるからな」

 グリフォンは鼻を鳴らして言った。

  

 「ところでそんなことを報告するためだけに訪れたのか?」

 「いや、それがですね……ちょっと見て欲しいんですよ」

 俺は持ってきた木の枝を見せる。

 大人の腕ほどもある太い枝だ。


 俺はそれをグリフォンの目の前で折って見せた。


 「それがどうした?」

 「いやいや、可笑しいでしょ。十歳の子供がこんな怪力なんて!!」

 「そうか? 我は片手で木をなぎ倒す人間ばかりがいる一族を見たことがあるが」

 「それ、絶対人じゃ無いです」

 オークかトロールの類じゃないのか?

 オークやトロールがこの世界に居るかどうか知らないけどさ。


 「まあ安心せよ。奴らは三千年も前にこの地から去った。一方は北へ、一方は西へ向かったようだぞ」

 「それは安心しました」

 そんな奴らがやってきたらどんなに頭を捻っても、勇気を振り絞っても勝てる気がしない。

 

 「で、その微妙な力を見せびらかしに来たのか?」

 「いや、そうじゃないですよ。何でいきなりこんな怪力になったのか聞きに来たんです」

 俺はつい最近まで普通の十歳児だったはずだ。

 それが最近になって怪力になった。

 今思えば、鉄剣と鉄製農具を交換した辺りから少しづつ違和感があった……ような気がする。


 だがガラッと変わったのは目を覚ました後だ。


 数千年生きてきたグリフォン様ならこの珍事について何か知っているのではないかと訪れたというわけである。

 

 「お主の体だぞ? お主が分からないのに我が分かるわけなかろう? まあ答えを敢えて出すというなら加護だろうな。昔から不思議なことは加護だと相場が決まってる」

 不思議なことって……加護の定義適当だな。


 「お主は迷い人だろう? なら加護を一つくらい持っているのは当然のことだろう。我が出会った迷い人は皆、加護を持っていた。それにしても意外だな。転生したというからには魂に関係した加護かと思っていたが……身体能力系か。となると加護は関係ないということか」

 「複数持ってるということはないですかね?」


 加護のレア度についてはよく分からないが、目の前のグリフォンは複数持っているらしい。じゃあ俺が複数持っていても可笑しくないよな?


 「加護持ちは二パターンに分かれる。一つだけ加護を持っているか、大量に加護を持っているかだ。二つや三つという加護持ちはあまり見たことがない。お主はその怪力以外、加護を持っているという意識が無いのであろう? その線はあり得ない」

 否定されてしまった。

 まあこんなチート野郎の同族になるのは嫌だし、別にいいけどね。努力することの大切さを失いそうだし。

 全然残念なんかじゃない!

 はあ……


 「もう言いたいことは済んだか?」

 「ええ。消化不良ですが。一人で考えてみます」

 俺はグリフォンの巣穴から立ち去った。


___________

 

 「今から『おはようございます』と言う。『言語の加護』を切って続けて言って」

 「wrtetwetwqwwjo」

 「wrteeewzwwja」

 俺がテトラの真似をすると、テトラは顔を顰めた。


 「発音が違う。真ん中あたりと最後。もっと注意して聞いて」

 テトラが再び異世界語でおはようございますと言う。

 俺はそれをもう一度、真ん中と最後のアクセントを気にしながら言う。

 

 「その調子。もう一度繰り返して」 

 「『おはようございます』『おはようございます』」

 

 今、俺は異世界語を習っている。

 偶に忘れそうになるが、俺は『言語の加護』を行使することでテトラたちと会話ができている。

 つまりこの加護が無いと何もできない。

 しかもこれは借り物。つまりいつ言語能力を失っても可笑しくないわけだ。


 当然、突然言語能力を失ったら問題だ。 

 だからこうしてテトラに教えてもらって居るというわけだ。


 ちなみになぜテトラなのかというと、尊敬語と謙譲語と丁寧語を使いこなせるのがテトラしかいないからである。

 どうしてテトラが使えるかは謎だ。

 今更どうでもいい謎だけど。


 これがなかなか難しい。

 日本語にも英語にも発音が似ていないので、なかなか上達しない。

 年数を重ねれば話せるようになるのか?

 少なくとも英語は話せるようになれなかった。


 「ねえ、リーダーたち何してるの?」

 「言葉の練習だよ」

 ロンの質問に答える。ロンは首を傾げた。

 仕方がないので『言語の加護』について説明しなおすと、ロンは納得してくれた。普通はそんな設定忘れちゃうよね。気持ちは分かるよ。


 「ねえテトラ。俺にも教えてくれない?」

 「あなたは普通に話せるでしょ?」 

 「俺、敬語とか苦手だしさ」

 ロンは照れ臭そうに頭を掻いた。


 「あなたがそんなことを気にするとは。明日が雨か……播いたカブには調度いいかな」

 「だって俺、副リーダーだろ? やっぱり言葉遣いとかちゃんとしたいじゃん」

 ロンがそう言うのと同時に、怒鳴り声が響く。

 「おい、副リーダーは俺だぞ!!」

 ロズワードである。


 「何だよ! リーダーをみすみす危険な目に晒したのはお前だろ?」

 「五月蠅い! 剣の稽古じゃお前より俺の方が強い!」

 「そんなの誤差だよ。リーダーには少しも敵わないじゃん」

 「それでも俺の方が有能だろ。なあ? 兄さん」

 「俺が副リーダーだよな? リーダー?」


 何だこいつら。

 剣道の強さで副リーダーとか決められないだろ。というか二人とも危なかっし過ぎて副リーダーになんか任命できねえよ。


 「言葉遣いを教えてもらえ。一番最初に習得した奴が副リーダーだ」

 俺がそう言うと、二人はテトラに詰め寄った。

 「早く教えろ!!」

 「待って。今、アルムスに言葉を教えてる最中」

 揉めてると子供たちが続々集まってきた。


 「あ、あの……僕も副リーダーになりたいです!」

 「私も私も!!」

 グラムとソヨンが大声で主張する。


 結局、毎日暇を見つけてみんなで勉強会をすることになった。


 「何?」

 「いや、別に」

 実質、副リーダーはこの娘(テトラ)だけどな……



___________


 その夜のことだった。

 俺は顔に感じる不快感で目を覚ました。


 目を開けると数匹の蝶(もしくは蛾)が舞っていた。

 しかも蝶の内一匹は緑色に発光していた。薄気味悪い。


 蝶は俺が目を覚ますとひらひらと竪穴住居の入り口まで舞っていく。

 俺は安心して目を瞑る。


 するとすぐに鼻に違和感を感じた。目を開けると蝶と目が合った。蝶は再び入り口まで舞っていく。

 

 そんなことを五回繰り返して俺はようやく気付く。


 「俺を呼んでいるのか?」

 

 蝶はそれを肯定するように外へ出ていく。

 

 ……付いていかないと寝かせてくれないみたいだしな。

 俺は鉄剣を腰に帯びて、蝶の後を追った。


___________



 「いったいどこまで歩かせる気だよ」

 俺が蝶の後を付いていって一時間が経過した。

 道を教えるのは月明かりと緑色に発光する蝶の鱗粉だけ。


 「ちょっと待ってくれ。印を付ける」

 俺は十歩進むごとに剣で木に印を付けて歩いていた。化け物蝶が俺を迷子にさせようと画策している可能性が……あるとは思えないが、帰り道が純粋に分からなくなる可能性はある。


 もうしばらく付いていくと、木がようやく途絶える。

 開けた視界の先には小さな湖。


 月明かりで湖の水は輝いていて、神秘的でありながらどこか恐怖を誘う。


 ふと湖の対岸に目が留まる。

 そこには紫紅(ラベンダー)色の髪の少女がいた。

 木に背中を預けで眠っているように見える。


 そこに緑色に発光した蝶が近づき、少女の髪に止まる。

 緑色の光が消えるのと同時に少女は起き上がった。


 紫紅(ラベンダー)色の髪が月明かりに照らされる。


 その姿はとても美しく、神秘的だ。

 月と湖の女神と言ったところか。


 「初めまして……が正しいのかしら。グリフォンの使者様」

 少女は悪戯っぽそうに笑った。


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