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異世界建国記  作者: 桜木桜
第七章 竜退治と女王陛下
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第二百三十話 ゲルマニス旅行Ⅲ


 やはりゲルマニスに来たのは大正解だった。

 伝聞で書かれたニコラオスの本以上に、詳しい生態を知ることができたからだ。


 アダルベロ曰く、軍隊蜘蛛に一度巣を作られると手が付けられなくなるらしい。

 少なくとも、半径一キロ圏内がとても危険になる。


 故に巣は撤去して退治する必要があるが……

 女王蜘蛛は百匹の兵隊蜘蛛を従えている上、巣の中心部である自分の住処には大きな穴を掘り、その周りを大量の木々と糸で固めて、一種の要塞のようにしてしまうらしい。


 故に巣を潰すとなると最低でも千の兵力が必要になる。


 だから巣を作られる段階で潰さなければならない。


 幸運なことに女王蜘蛛自身はさほど強くはないそうだ。

 まあ、十歳児くらいの大きさしかないのだから当然だが。

 

 初期段階では子蜘蛛も精々十匹程度で、脅威にはならない。

 

 尚、大王蜘蛛という蜘蛛は存在しないらしい。

 雄蜘蛛は繁殖期の前の段階で雌と交尾した後、死んでしまうそうだ。


 雌、つまり女王蜘蛛は何度も交尾して多くの雄蜘蛛の精子を蓄えるらしい。 

 よく分からないが、キリシア人に伝わるうちにこの辺の生態が誤って伝わったのだろう。


 その他諸々の生態は殆どミツバチと同じだった。


 正直、ダメ元の家畜化計画だったがかなり現実見を帯びてきた気がする。


 「それで、アダルベロ殿の先祖はどういう経緯で家畜化を? それにどうして失敗を?」

 『これは俺の曽祖父の世代の話だが……』


 俺が尋ねると、アダルベロは淡々と大昔……百年ほど前の経緯を語った。

 というのもゲルマニス地方に何の産業もないことは御察しの通りである。

 そこで大昔、アダルベロの御先祖様は軍隊蜘蛛に目を付けた。どうにか、この蜘蛛の繊維を取れないだろうかと。


 最初は巣を襲って、巣に張り巡らされた糸を採取することを考えたがそれはあまりにもリスクが高く不可能だった。

 そこで女王蜘蛛を穴倉に閉じ込めて、女王蜘蛛の産んだ子蜘蛛から繊維を取り出すことを思いついたらしい。

 しかし……


 『子蜘蛛は女王蜘蛛の命令しか聞かん。だから糸を吐き出させられなかったというわけだ』

 「うん? 蜘蛛ってのは常に尻先から糸を出すんじゃないか。それを巻き取れば良い。簡単だろう」

 『あいつらは大きい分、かなり賢い。あっさり切ってしまうのだ。自分でな。それに蜘蛛は様々な種類の糸を出す。丈夫な糸はとても丈夫だが、脆く作られた糸は脆い。連中が尻先から出している糸は脆い糸だ』


 なるほど……

 それは一筋縄では行かなそうだな。

 

 いくら子蜘蛛が草食で少量の茸だけで生きていくことができるとはいえ、女王蜘蛛の方は肉食で大量の肉が必要になる。

 あまりにも負担が重かったため取りやめになったそうだ。


 『もし、何なら先祖の研究成果を売ってやろうか?』

 「本当か?」

 『ああ、構わん。無用の長物だからな』


 高い金を支払うとはいえ情報が手に入るのはなかなか良い取引だ。

 俺は喜んでその取引を受けた。



  



 軍隊蜘蛛の巣に向かうために出発してから、一週間が経過した。

 森の木々で全く前が見えず、同じところをグルグル周っているような気がする……のだが、アダルベロ曰く前に進めているらしい。

 

 アダルベロがいなければ、間違いなく迷っていただろう。


 さて、おそらくもう少しで例の蜘蛛……種族名『軍隊蜘蛛』の巣に着くと思われる。

 というのは……


 プシュー!!!


 ペットボトルから炭酸の漏れ出るような音が俺たちの周囲の茂みから、突然発生する。

 気付くと、全身にネバネバした糸がへばりついていた。

 

 これで三回目、もう慣れた。

 

 俺は体に羽織っていた、麻の布を脱ぎ捨てて剣を抜き放ち、一気に茂みの中に突入する。

 そして手当たり次第に、林檎サイズの大きさの蜘蛛を切り伏せていく。

 時折、死角から飛んでくる糸は聴覚を頼りに麻の布で受け止めて、投石で確実に仕留める。


 蜘蛛との格闘は一分ほどだった。

 

 俺以外のメンバーも全員、無事に蜘蛛を追い払うことに成功したようだった。

 みんな、糸塗れだが。


 「アリス、捕まえたか?」

 「はい、陛下!!」


 アリスは自分の糸で作った網を片手でぶら下げて見せる。

 そこには二十匹を超える蜘蛛が糸で雁字搦めになって、捕まえられていた。


 ミイラ取りがミイラになるとはこのことだな。


 しかし、本当に危険な生き物だな。この軍隊蜘蛛は。

 俺たちが二百人規模の兵士だから、今は対応できているが……


 もし百人以下だったら何人か蜘蛛に連れ去られただろうし、五十人ほどだったら全滅だ。 

 持ち帰っても慎重に扱わないとな。


 



 その後も俺たちは、周囲を警戒しながら先へ進んでいく。

 ある程度先に進むと、突然アダルベロの足が止まった。


 『止まれ』


 アダルベロは手で制して、止まるように言った。

 そして自分の目の前を指さす。


 『アルムス殿。これを見てくれ』


 俺はアダルベロに近づき、身を乗り出してアダルベロの指指すところを目を凝らして見る。

 そこには一本の細い糸があった。


 『ここからが連中……軍隊蜘蛛の巣だ』


 ようやく、到着したか。

 俺は剣で糸を切り裂く。


 「進もう」


 言葉は通じていないはずだが、ニュアンスは分かったようでアダルベロは静かに頷いた。

 

 そこら中の糸を剣で切り裂き、火を付けて燃やしていく。

 やはり燃えやすいのか、糸はあっという間に燃えて落ちてしまう。


 俺たちはひたすら、糸を燃やし続ける。

 というのも、女王蜘蛛を誘き寄せるためだ。


 いくら女王蜘蛛と少しの兵隊蜘蛛が弱いとはいえ、それでも巣の中心部に攻め込むのは非常に危険だ。

 少量とはいえ、糸も張ってある。


 ではどうするか?

 簡単だ。誘き寄せれば良い。


 何でも、軍隊蜘蛛の唯一の天敵は人間と火竜だそうだ。

 糸は火で燃えてしまうし、下手をすれば火が糸を辿って体に着いてしまう。


 よって、軍隊蜘蛛は数少ない天敵である人間か火竜が攻めてきたと感じた時のみ、巣から出陣してこれを全力で殺そうとする。

 

 そして火を焚いてから約十分ほど経ったその時のことだった。





 ガサガサガサガサ!!!


 突如、木々が揺れる。

 俺たちは糸を燃やすのをやめて、方陣を組む。


 そして……


 「上だ!!!」


 上から大量の蜘蛛が襲い掛かって来た。

 

 同時に正面から、もう一匹の巨大な物体が猛烈な速度で突っ込んできた。


 「正面は俺とアリスが止める! 残りの兵隊蜘蛛は宜しく頼む!!」

 「「分かりました!!」」『『分かった』』


 俺はそう言って、正面から突っ込んできた黒と赤の縞模様の生き物……巨大な蜘蛛に剣を向ける。


 ガキン!!


 高い金属音が森に響く。

 剣先を、蜘蛛が牙で受け止めたのだ。


 蜘蛛の表情は分からない……が、おそらく驚いているに違いない。

 全速力で突っ込んだのにも関わらず、目の前の人間……俺は吹き飛ばなかったのだから。


 蜘蛛からすれば驚愕の出来事だろう。


 とはいえ、俺は蜘蛛のためにわざわざ攻撃の手を緩めるつもりはなかった。


 左手で投槍を掴み、蜘蛛に向かって投擲する。

 蜘蛛は剣を離し、その場から離れて槍をかわす。


 お互い、攻めてに欠ける。

 が、もう十分だった。


 「今だ!!」

 「はい!!」


 アリスが俺と対峙している蜘蛛の側面から、足に向かって糸を出したのだ。

 片側の足を取られて、蜘蛛は横転する。


 アリスはその隙を逃さず、一気に糸で蜘蛛を雁字搦めにして拘束してしまった。

 

 淡々とアリスは蜘蛛の体を糸でしっかりと巻き付けていく。

 さて、後は持ち帰るだけだな。







 その後、予め用意していた巨大な荷車の上に蜘蛛を乗せて俺たちはキリシア人の植民都市まで移動した。

 後は購入しておいた、巨大な船に乗せてアデルニア半島に運ぶだけだ。



 「ありがとう、アダルベロ。とても意義のある日々を過ごせた。報酬の銀は後で必ず運ばせよう」

 『その蜘蛛の捕獲には我々は全く関与しなかったが……まあ、ありがたく貰おう。巣に残った卵も、後でそちらに送る』


 俺はアダルベロと固く、握手を交わし合った。






 そこから船旅で一週間。

 俺はロマリアに帰って来た。


 約一か月、ロマリアを留守にしていたことになる。


 「ユリア、テトラ。何か変わりはなかったか?」

 「特にない」

 「うーん、ライモンドの腰が治ったくらいかな?」


 どうやら何事も無かったようだった。

 まあ、何か起こったらすぐにカモメ便で知らせるように伝えてあったので、カモメが来なかった以上何も起らなかっただろうというのは十分に予想できたが。


 「お守りは役に立った?」

 「役に立つような場面には遭遇しなかったし、二人の思いは効いたんじゃないか?」


 テトラの問いに俺は苦笑いで答えた。

 今回の旅では全く、命の危険とは無縁だったからだ。


 「そう、役に立たなくて良かったね。そんなもの、役に立たないのが一番だから」

 

 ユリアはホッとした表情で言った。

 何だかんだで、心配してくれていたようだ。


 「ところで、蜘蛛は?」

 「ああ、そっちなら地下に移してある」


 ユリアの問いに俺は答えた。

 蜘蛛の糸を研究するために、予め大きな穴をロマリアの森の某所に掘って置いたのだ。


 アダルベロに直接聞いて、七割くらい嘘の誇張で固められていたことが判明したニコラオスの図巻だが、穴に巣を作るという点では同じだったので、本当に良かった。


 斯くして、長い長い品種改良が幕を開けた。

 ……取り敢えず、まともに育てられるようになってからかな。繁殖と繊維の取り出し方を悩むのは。


________


 『グンタイグモの一生』


 グンタイグモには女王と へいたい の二種類 がいます。

 女王のじゅみょうは五年 へいたい のじゅみょう は 二か月 ほどです。


 女王の 一生 を 見てみましょう。


 二月


 グンタイグモの巣で じき女王が 育てられるのは 二月からです。

 女王のたまごは 他のほとんどの へいたいクモ(はたらきクモ)と かわりません。

 

 ふつうのたまご から かえったふつうの 子くも が女王からとくべつに 肉をもらってそだつと 女王 に なります。


 また この時 女王 と同時にオスのクモもうまれます。

 オスのクモは へいたいクモとは 異なるたまご です。


 へいたいクモはすべてメスだからです。

 かれらも とくべつに 肉を もらって そだちます。


 

 三月


 女王とオスの クモ たちはいっせいに 巣から でてきます。

 そして女王 と オスのクモはこの時、こうび します。


 女王は 二十から三十ほど の オスの クモと こうび します。この時 女王は 一生分 のこうび をするといわれています。

  

 また、おなじ こうびにえらぶ オスクモは みんな それぞれ母親が ちがいます。

 つぎのせだいに よりおおくの いでんし をのこす ためだと いわれています。


 こうび をおえた オスクモは みんなしんでしまいます。

 ごくまれに こうび できずに 巣にかえってくる オスクモもいますが かれらの おおくは ご飯をもらえずに がし します。


 むだめしぐらい は いらない ということでしょう。



 こうび を おえた 女王は元の巣に もどってきます。

 すると、古い女王は 三分の一 の へいたいクモを つれて 巣をでてきます。


 新しい女王に すでに つくられていた 巣を たくす のです。

 古い女王は 元の巣から 一キロほど はなれた 場所に 巣を作ります。

 

 遠すぎると ほかのクモと こうび ができなくなり 近すぎると なわばり がかぶって しまうので 場所選び は 大切です。


 古い女王は巣を出ていき、よい場所をみつけると まず 土をほり 入口をたくさんの 木と葉っぱ、糸でおおい かくしてしまいます。


 こうして 新しい 巣が 作られるのです。



 四月


 いっぽう 新しい女王は 新しく へいたいクモを うみはじめます。

 一か月ほどで すべての へいたいクモは 新しい女王 の 子どもに 置きかわります。


 五月~十月


 女王は へいたいクモたちに たくさんの 葉っぱを 集めさせます。

 葉っぱを 腐らせて キノコを さいばいするためです。


 キノコは 冬の だいじな しょくりょう になります。


 またへいたいクモは えものを つかまえて いきたまま 巣に はこび しんけい毒 で 動けなくさせて 巣に ためこみます。

 生きたまま ちょぞうすることで えもの の 数が 少なくなる 冬の 女王の しょくりょう にするためです。


 十一月~一月


 さむい冬 は たがいに 身をよせあって 冬を こします。

 へいたいクモはキノコを 女王は 肉を たべてすごします。


 二月


 冬がすぎると じょうおうは 新しい女王を つくるための 準備をはじめます。 

 一月の なかばごろ から 特別な へやを つくり そこにたくさん の肉と 女王候補の たまご を五つから八つ 生みます。

 先に生まれた女王は まだ生まれていない 姉妹を 殺してしまいます。

 

 こうして きびしい せいぞんきょうそう を勝ちぬける 女王だけが 生きのこる のです。


 三月


 新しい女王が 古い女王の巣の 新しい主と なります。

 こうして 巣は うけつがれていきます。


 

 ―ロマリア国定教科書 小等部二年 生活―

   より抜粋

最近、エネルギーというか意欲的なモノが足りないので

次回(水曜日)は休みます


代わりと言えば何ですが、今日はいつもよりも若干長いです

殆ど、蜘蛛の一生ですが

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