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異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
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第百四十四話 平民Ⅲ

 反乱の処置は二週間掛けて行われた。


 まずは約束通り、裁判のやり直しを行った。


 ロサイス王の国の慣習法では、処女の強姦は利き手の切断である。

 豪族の子息の利き手は左腕だったため、左腕の切断を言い渡した。

 

 また裁判に不服の申し立てをした豪族には領地の没収を言い渡した。

 

 罪は三つ。


 一つ、無用な混乱を起こす切っ掛けを作ったこと。 

 二つ、税を下げるという約束を違えたこと。

 三つ、罪の無い人間に私兵を使って暴行を働いたこと。

 

 以上から、領地を治めるのに相応しくないとして返却を言い渡した。


 グズグズと時間を掛けて、中々領地から去らなかったから、軍隊で屋敷を包囲して脅してやった。

 そうしたらすんなりと従った。


 ただこのままだと豪族一家全員が露頭に迷ってしまう。

 それは可哀想だったので、財産に関しては奪わなかった。

 

 だから彼らの私有地と奴隷はそのままだ。

 まあそこそこ裕福な生活が出来るだろう。


 また反乱軍への処置も当然行った。

 

 反乱に参加した平民には罰金と兵役の無期停止を言い渡した。


 罰金は大した額では無い。

 一年間、おかずが一品減る程度だ。


 平民に一番堪えたのは兵役の停止のようだ。

 というのも、アデルニア半島では戦争に行き、活躍するのは名誉なことだからだ。

 

 無論、一か月も戦場で拘束されるのは皆嫌う。農地を耕せないからだ。

 しかしアデルニア半島の国は国土が狭い。

 だから普通は一週間前後で帰って来れる。


 惨敗しない限り戦死者も大して出ないので、戦争を怖い、嫌だと思う意識は薄い。

 むしろ略奪や戦利品の分配で儲けられるケースもある。



 まあ無期停止と言っても、永遠に停止というわけではない。

 期限を定めていない、というだけだ。


 だから反省次第でいつでも復帰させられる。

 二年は停止させたままのつもりだけど。


 

 そして首謀者は……


 「陛下。首謀者の訊問が終わりました」

 「ルルか。どうだった?」


 ルルは小さく一礼する。


 「男は四十二歳。キリシア系アデルニア人です。妻子は居ないようです。アデルニア人商人とキリシア人商人の仲立ちを生業としているそうです。今回の反乱は、本人の思いつきのようです。元々民主主義の崇拝者だったようです」


 …… 

 つまりただの馬鹿だったということか?


 しかしルルは「ただ……」と言ってから付け加えた。


 「キリシア人商人から後押しされたようです。その際、一部商人から武器の融通をして貰っていたそうです。作戦では平民の階級意識を煽り、陛下と長期間争わせるつもりだったみたいですね。そして頃合いを見計らって、レザドに仲介して貰うつもりだったようです」


 つまり背後にレザドが居たということか。

 

 「レザド以外の都市国家の名前は出たか? ゲヘナやネメスは?」

 「いえ、その名は出ていません。断定するのは早いですが、おそらくレザド単独の行動かと」


 レザドか……

 まあ、国同士に真の友好は無い。


 そもそもあの国は商人の国で、利益次第ではどんな国にも手を差し伸べるし、場合によっては掌を返す。

 元々対して信用していたわけでも無かったが……


 「ところで……まさか、首謀者は自分一人だけで俺とまともに戦おうとしていたわけじゃないだろ? 他にも奴の同士がいるはずだ。吐かせろ」

 「それがその事に成ると中々口を割らないんです」

 

 うーん…… 

 拷問でもするか?


 しかし拷問は情報の正確性が怪しいんだよな。

 

 「ユリアを呼んでくれ」






 「何?アルムス。今回はお仕事として呼んだみたいだけど?」

 「お前に自白剤を作って欲しい。確かロゼル王国は自白剤を実用化してただろ? お前は例のガリア人の呪術師(リディア)からロゼル王国の呪術技術を聞いていたよな?」

 「うん……まあ、確かに聞いたけど……」


 ユリアは何故か困ったような表情を浮かべた。

 

 「どうした?」

 「あの人、あれ以来私のことを『お姉さま~』って呼んでくるんだよね。それで抱き付いてくるわけ。何か貞操の危機を感じるというか……」


 どうやら俺の拷問はリディアに相当な心理的ダメージを与えてしまったようだ。

 

 「じゃあテトラと一緒にやれば? いざとなったらテトラに守って貰えば良い」


 テトラはああ見えて強いからな。

 何しろ、杖の中に鉄の刃を仕込んである


 あの鈍器みたいな杖で殴れば、大概の人間は気絶する。

 というか、打ちどころによっては死ぬ。


 「……そうだね。テトラと一緒なら……うん、大丈夫かも」

 「ところでロゼル王国の呪術技術はどんな感じだ? やっぱり進んでるか?」


 ユリアは首を大きく縦に何度も振った。

 

 「うん。凄いよ。あっちの方が三十年くらい進んでる感じ。部門によっては五十年かな? でも薬草は私の内容の方が上だった!」


 ユリアは大きな胸を張って見せる。

 確かにユリアは胸がマーリンよりも上だな。


 関係ないか。

  

 「どれくらいで追いつきそうだ?」 

 「うーん……完全に追いつくには十年は必要かな?」


 十年か。

 まあ、三十年が十年に縮むなら十分か。


 「で、自白剤に関してはどれくらいで完成する?」

 「自白剤に必要な技術は薬草と精神干渉なんだけど、薬草に関しては技術は足りてる。問題は精神干渉かな? でも私が直接、ゴリ押しすれば今すぐ出来るよ」


 ユリアの馬鹿力成らぬ、馬鹿呪力で力押しする作戦か。

 まあ、早いに越したことは無いか。


 「じゃあ今回はお前の馬鹿呪力でゴリ押ししてくれ」

 「分かった。後、馬鹿は余計」


 




 流石、ユリアと言うべきか……

 一日で十人以上の名前を聞きだしてきた。


 俺はすぐさま早馬を出して、関所に連絡。

 名前の挙がった人物を拘束するように命じた。


 また国内の商人からその人間に心当たりがないかどうか聞き、居場所を特定。

 ロンに拘束させた。


 その後、エインズを呼び出して問いただした。


 「彼らはレザドから支援を受けていたと証言しているが、これはどういうことか?」


 俺の問いに、エインズは顔を青くして首を横に振る。


 「いえ……これは私も初耳です。少なくとも議会の決定に基づいて行われたものではありません」

 「洗いざらい、レザドの情勢について話して貰おう。今後の私たちの友好関係のためにも」


 エインズは一瞬、躊躇するような表情を浮かべたが……

 すぐに諦めたのか、話し始めた。


 

 「レザドには親ロサイス派と反ロサイス派の二派閥が有ります。親ロサイス派はロサイス王の国と友好関係を築き、利益を上げて、軍事同盟を結ぶことで安定を図ろうという派閥です。反ロサイス派は……友好関係と軍事同盟は同様ですが、その前にアルムス王を排除して、レザドの傀儡国家にしてしまおうという派閥でして……元々は半々の割合だったのですが、本国がペルシスに征服された影響もあり、親ロサイス派が優勢になったのです。その影響で少数派閥と化した反ロサイス派が暴走したのかもしれません」


 つまり特定の議員の独断か。

 俺たちで言うなれば、勝手に豪族が他国に陰謀を仕掛けるような物か。


 「今後はこのようなことが無いようにお願いしたい」

 「ぜ、善処します」


 エインズに他の派閥の過激行動を咎めるのは筋違いだな。

 一先ず、今は抗議だけで済ましておこう。


 それと……


 「実は大木が手に入りそうだ。遅くても一か月後には輸出出来る」

 「それは本当ですか?」


 エインズが身を乗り出した。

 すでにグラムが担当する森の開拓は動き出している。


 今は村を三つ、建設したところだ。


 「私としては友好関係の長いレザドに優先的に販売したいと思っていたのだが……我が国を嫌う人間が一定数居る国を特別扱いするというのもな?」

 

 「はは……おっしゃる通りです。その……我が国に優先的に売っていただければ、値段に色を付けようかと」


 「それはありがたい。これからも貴国とは仲良くして生きたいものだ」


 利益を産む限りは、ね。


 「それともう一つ」

 「な、何でしょうか?」


 エインズが警戒の色を見せた。

 また何か難癖付けられるのかと思ったのだろう。


 生憎、難癖付けるネタは無いので、ただの商談だ。


 「大型の船を売って頂けないか?」

 「……ロサイス王の国は内陸国ですよね? 前も川船を購入して頂きましたが……」


 エインズは困惑の表情を浮かべた。 

 前にレザドから購入した小型の船はそこそこ役に立っているし、我が国でも造れるようになった。


 今回欲しいのは、さらに大きな船だ。


 「大きい方が大木を運ぶのに便利だろう? それに個人的興味もある」


 もしかしたら船底が深くて、レザドの大型船では川を移動できないかもしれない。

 だがその時は改造して、船底を浅くすれば良い。

 

 我が国の職人だって、それくらいは出来る。

 

 「……まあ、水運ということでしたら。良いでしょう。何隻ほど、必要ですか?」

 「五隻もあれば十分だ」


 後は研究して、自国生産すれば良い。

 生憎、材木なら腐るほどある。


 

 「一先ず、用件は以上だ。……今日のところは泊って行ってくれ。田舎料理とはいえ、そこそこの物を出せるはずだ」

  

 「ありがとうございます。ロサイス王の国の酒は美味しいですから。楽しみにしてますよ」






 約一週間後のこと。

 ロゼル王国からの銀の支払いが行われた。


 捕虜と一千ターラントの交換。

 そして賠償金三百ターラントのお支払いである。


 何とか無事に一千三百ターラントが手に入ったというわけだ。


 「取り敢えず、三百ターラントを豪族への報酬として出して……百三十を参戦した兵士に、七十ターラントを戦死した者、一生治らない傷を負った者に出そう」


 これは一人当たりどれくらいの金額になるのかと言うと……

 

 一般的な自作農、一家九人(祖父母二人、父母二人、子供三人、奴隷二人)の生活費五か月分。

 日本人の感覚だと、百万円前後になる。

 

 戦死者への保障はその十倍くらいになり、一千万円ほど。


 この世界ではかなり高額な保障になる。


 「平民にも銀を配るのですか? その理由は?」


 ライモンドの質問に、俺は指を一本一本立てながら答える。


 「一つ、平民の戦争への士気を上げるため。二つ、平民の不満を下げるため」


 王が戦利品を独占している!!

 というのは、よくある反乱の切っ掛けだ。


 「本音のところは?」

 「人気取り」


 ばら撒きは君主として褒められた行動ではない。

 というのも、ばら撒き続ければそれが当たり前の事になり、配るのを止めた途端平民の不満の矛先が君主に向くからである。


 が……

 これはただのばら撒きでは無い。


 戦利品の分配である。


 俺は参戦した兵士に、多少金を配る方が良いと考えている。

 略奪防止にもなるし、士気も上がる。

 そして戦争で途絶える収入への不安も無くなる。


 何かある度に、金をばら撒けばそのありがたみは薄れる。

 正当な理由がある時、大金を配るのが一番良い。


 

 「残りの八百はどうしますか?」

 「そうだな……二百を軍備拡張に当てる。二百を都の造営費、五十を各地のインフラ、神殿の造営に、百を森の開拓に、百を国内の農地拡大、治水、灌漑に当てよう」


 残りの百五十は国庫に蓄えておく。

 もしもの時のためだ。


 「これだけ大量の銀が一気に国内に流れ込めば……我が国の売上税は跳ね上がりますね」

 「上手く循環すればな。キリシア人に吸われなければ良いんだけど」


 まあ、平民の金の使い道は限られている。

 上手い飯を買い、鎧や武器、農具を新調して、家を建て直し、綺麗な服を買って、恋人にアクセサリーを贈り……


 精々この辺か。

 全て国内の商人から買える。

 まさか、キリシア製の金細工やペルシス製のガラス細工を買い求める農民はいないだろう。


 「一応、配る時に『奴隷、農耕馬、農具、武器・防具の新調に使うように』と言っておこうか」


 何に使おうと経済は回るが、出来れば役立つ物を購入して欲しいな。



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